前世の記憶


この世界の魔術師は傲慢な人ばかりだった。


お金が払えなければ、満足な魔術もかけてくれない。


目の前で死にかけている人がいても、お金が払えないと分かれば知らないふりをして立ち去ってしまう。


明日の生活も工夫しなければいけない平民にとって、大金を払ってまで多少の病を治そうとする人は僅かだし、その僅かな人に対しても値段を吊り上げるばかりで魔術師は働こうとはしてくれない。


つまり、魔術師に見殺しにされることが多い。


だから平民は聖女様を頼るのだ。


大金でなくとも祈りを捧げてくれる。


平民だからと差別をしない、万人に平等な聖女様を……


「その聖女様が実は魔術師で、貴族のような生活をしていることも知らないでね。」


遠目でしか見ていないけれど、すぐに分かった。


祈りと称されているのは、ごく一般的な回復の魔術。


着ているのはシルクで、特に上等な糸で仕立てられた服。


どう見てもいいところのお嬢様だ。少なくとも朝から晩まで一心に祈りを捧げているようには見えない。


「本っ当に腐っているわね」


裏で貴族の金儲け話が透けて見えて、不快だった。


朝から気分は最悪だ。


体調も悪いし、今日は薬草を摘み取って早く帰ろう。


私はささっと必要な分の薬草だけ摘んで、帰路に着いた。


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