前世の記憶


その晩、私は夢を見た。


正確には、前世の記憶を思い出した。


自分の最期の瞬間を。頭に伝う生暖かい液体の感覚を。


(そうだ。私は後ろから襲われたんだった…)




いつものように残業をして、夜食を食べるために食堂へ向かっていた。


2、3日まともに食べていなくて、ゲッソリした私に同僚が食事を摂るようにしつこく言ってきて。


仕方ないから夜食を軽く食べようと、暗くなった王宮の研究棟を歩いているところだった。


ボソボソと何かを呟くような声が聞こえて、幻聴でも聞こえてきたのかと自分の社畜っぷりにうすら笑いを浮かべた。


すると、ガツンと後頭部に衝撃が走った。


「お前らさえいなければ…」


男の声だった。でも、振り向く気力もなかった。


それよりも、ようやくこの仕事地獄から抜け出せるのだと半分嬉しくも思った。


いや、それよりも私の仕事は誰が引き継いでくれるのだろうか。


あの薬は、私しか調合できないんじゃなかったかな。


(あぁ、もう。死ぬ間際なのに仕事のことを考えてる。本当に仕事に人生を支配されてるや…)


家族と呼べるような関係の人とは、縁を切っていた。


だから、私を心配するような人はいない。


家族といても技術力を上げることはできないと、王都に飛び出してきたのだ。


好きな仕事を続けて、自由に生きたかった。


まぁ、それが社畜への第一歩だったわけだ。


「結局、自由にはなれなかったなぁ」


ボソリと呟いた。


何やら周囲が騒がしくなってきたが、もうよく聞き取れない。


「~~っ!!」


今までたくさんの死を目の当たりにしてきたけど、こんな感覚なのかと他人事のように考えていた。


そして、プツリと画面が消えるように視界が真っ暗になった。


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