第10話

 私と美奈は、もやのかかった白い異次元空間から、一瞬にして吐き出された。

 足元に地面を感じた時、私も美奈もぐらりとよろめいて互いを支え合った。

 あたりを見回す。月のない暗い空。数メートル先にある外灯。

 後ろを振り返ると、白い壁・・・。

 美奈が突然、私との手をほどいて何歩か駆け出した。

 「戻ってきた!!」

 顔をほころばせ、興奮そのままの声で叫ぶ。


 しかし、私にはまだ簡単には信じられなかった。

 ゆっくりと慎重にあたりを見回しながら歩き出し、言った。

 「本当に”あの日”に戻ってきたのかしら・・・?」

 「見て!!この看板!!同じだよ!!」

 「ほんと?!」

 何かしら証拠たるものを見ずには、確信が持てない。

 私は美奈の言葉に、急いでビルの説明が書いてある看板の前へ回り込んだ。

 「199○年オープン!」

 と書かれたあの時の看板が、そこに。そう、あのときのままでそこにある!!

 美奈は、広い通りに駆け出した。私も急いで後を追う。

 見覚えのある懐かしい文房具屋、シャッターの下りたその表の張り紙に、

「謹賀新年」の文字と一緒に描かれた、新年の干支。

 それを見た瞬間、私達の戻ってきた時代が、十年前のあの時に間違いないことを私は確信した!!


 「すみません、今何時ですか?」

 私は、道行くひとを一人捕まえて訊ねた。

 「午前一時半ちょっと過ぎですね」

 子連れの夫人は、にこやかに腕時計を見て私に答える。

 「ね、本当に戻ってこれたんだよ!!」

 その辺りを走り回って様子を見ていた美奈が、息をきって戻ってきて言った。

 私は顔をほころばせ、うなづいた。


 「・・・ごめん、私、家に帰らなきゃ」

 美奈がもじもじしながら、落ちつかなげに言った。

 「亜紀は・・・もう帰っちゃったのかな」

 美奈は、十年前の私のことが気になっているのだ。私は言った。

 「そうね。もう帰ってるわ」

 「明日、朝一番に訪ねてみる、私」

 私の口元がぴくりと痙攣した。美奈はそれには気づかず、ふと目を上げて私の顔を見つめる。

 「・・・亜紀は、・・・これから、どうするの?」


~つづく~

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