第7話
私の所属する研究室は、四階建ての棟の三階にある。
ちょっと星を見たいときや、涼みたいとき・息抜きしたい時は、棟の端にある階段を使って屋上へ出る。
エレベーターも勿論付いているが、若い学生が多いせいか、皆屋上へ行くときは階段を使うのが普通だった。
薄暗い階段を上がり、吉彦は屋上へ通じる重いドアを開けて私を招いた。
「・・・わぁ」
彼の言ったとおり、空には満点の星があった。
「ね?すごいだろ」
「ほんとね」
言葉もなく星を眺めていた私たちだったが、唐突に吉彦が言った。
「そうだ、ね、亜紀、ここで乾杯しよう!」
「え?ここで?」
「俺、ビール持ってくるよ。確か研究室の冷蔵庫にあった」
「ち・ちょっと吉彦、」
「すぐ戻るから待ってて!駆け足で行って来る!」
そう言い終わらないうちに、もう彼はドアに向かって駆け出していた。
「そ・そんな・時間・・・!」
腕時計を見ると、「問題の時間」まであと5分もなかった。
私は慌てて吉彦の後を追った。
彼が出ていったばかりの、閉まったドアノブをひねり、ちからいっぱい開けようとした、だのに・・・!!
がちゃん!!冷たく弾き返された!
・・・カギ?カギがかかってる?!
「ちょっと!吉彦!開けてよ、どういうつもりなの?!」
私はドアを叩きながら叫んだ。
しかし、もし間違って吉彦がカギをかけたにしても・既に階下に下りてしまっていたら、私の声はきっと届かない。
「・・・っ」
私は諦めて、ドアに背をもたせてよりかかった。
一体彼は何をやってるんだろう??
きっと急いで戻って来るはずだから、そしたら思い切り文句を言ってやらなくちゃ。
待って。まさかわざと・・・?
いえ、それより大急ぎで研究室に戻るのが先だ。
一年に一度しかないこのチャンス、むざむざ逃すわけにはいかない!
じりじりしながらドアの前で待っている私に、時間だけがどんどん迫ってくる。
もう既に二分前・・・これでは、今吉彦が戻ってきたとしても予定の時刻まで研究室に戻れるか危うい。
何を手間取っているのか、吉彦の靴音すら階下からは聞こえてこない。
「・・・っ、もう!」
私は舌打ちして、あてもなく星空を見上げた・・・
ぐるりと首をめぐらし、ふと・・・よりかかったドアのすぐ横の壁に気が付いた。
・・・・・白い、壁、だ。
私はふうっと吸い寄せられるように壁へ一歩近づいた。
おそるおそる、ゆっくりと手を伸ばし、壁に触れる。
そして体を寄せる。
私は心の中で思った。「美奈・・・・・」。
時刻は1時11分ジャスト。
唐突に、吉彦の靴音と声がドアの内側から響いた。
「亜紀!!ごめん!!間違って俺カギかけちゃった、それとビール捜すのに手間取って・・・」
私があの・青い光に包まれるのと、吉彦が屋上のドアを開けたのは同時だった。
ドアを開けて入ってきた吉彦の目が・一瞬私の姿を捜し、
そしてすぐ横の壁から放たれる青い光に気が付いて私を見つけたとき。
彼の瞳は、驚愕に大きく開かれた・・・
彼は手に持ったビールを落とし、私に向かって手を伸ばした。
そして叫んだ。
「亜紀!!」
~つづく~
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