32話 荒巻姉妹の過去
私達の家庭は、あまり裕福では、なかったが満足
出来る位にはご飯も食べれた。
そんな、有り触れた家庭で育った。
妹の詩杏は、姉である私の後をいつもついてきた。
それが可愛くて可愛くて仕方がなかった。
詩杏は、姉である私の背中を見て育ったと言っても
過言じゃないだろう。詩杏の幸せそうな笑顔を見ると元気が湧いてくる。
母や父、それに詩杏が当たり前の様に笑っている光景に幸せを感じていた。
母が亡くなるまでは。
その日から幸せだった日々は、終わりを告げた。
母が死んだのを悲しむ余裕すら私達には与えられなかった。酒に溺れた父が私を殴る様になった。
どうにか、妹を庇うけれど、妹に対しての暴力も
終わる事はなかった。私が妹を庇えば庇うほど
矛先が妹に向く。父に屈していない私が父は、
気に入らないのだろう。
だから、私の大切な人を壊そうとする。
でも……私達は、耐え続けた。
きっと……いつか……あの日の……母の居た頃の
優しい父親に戻ってくれる事を信じていた。
でも……そんな時事件は、起きた。
妹。詩杏に体の関係を迫ったのだ。
超えては、ならない線を簡単に……そして呆気なく
超えてしまった。その時は、思わず唖然としてしまった。私は、この時初めて知った。
父親は、優しい人だと思って居た。
でも……違ったんだ。
根本的な部分は、人は、変わらない。
つまり、父は、元々こんな人だったんだ。
父を尊敬していたのに。
その日、私が信じた物が一瞬で崩れた。
妹を連れ出して警察署まで走って逃げた。
その後、父は、警察に捕まった。
最後にこんな事を言われた。
絶対に許さない、いつか……痛い目を見せてやる。
詩杏は、膝をついて泣き崩れてしまった。
私は、恐怖で体が震えてしまった。
私達は、孤児院に入った。
孤児院の先生は、優しくしてくれたけれど私も詩杏も人を信じられなくなってしまった。
私達だって人を信じたいし縋りたい。
父が捕まってから私達は、何があっても涙が
出なくなってしまった。
目の前で動物が死んでも孤児院で陰口を言われても
何も感じなかった。
高校生になった。
二人でアルバイトを始めて学費を稼いだ。
何とかアパートに住むことが出来た。
何だかんだで詩杏と一緒に居るおかげもあり
辛くは、なかった。
やっぱり感情が表に出なくなっていた。
だから……詩杏と一緒に嘘の笑顔を張り付ける様になっていた。これなら、陰口を言われなくて済む。
そう思って居たが現実は、何処までも私達に残酷
だった。男に媚びててウザイと言われるようになった。
私達は、気付いた、搾取される側の人間だった。
搾取される、奪われる、弱いからだ。
弱ければ笑われる、弱ければ奪われる。
大切な妹を守れない。
だから二人で格闘技を習い始めた。
これ以上奪われない為に。
格闘技を習い始めて数週間。
あの女と出会った。今川恵梨香。
あいつは、人を恐怖で支配した。
父親とやり口が一緒だった。
だからこそ、抵抗出来なかった。
父親の呪縛からは、逃れられないのだと悟った。
父親に対しての恐怖が恵梨香と重なった。
でも、妹に暴力を振るう事は、なかった。
私が全て受けた。
皆、皆、どうして?
私達に暴力を振るうの?
痛いのは、もう嫌なんだ。
そんな思いを詩杏にさせれない!
姉様が大好きだった。
何時だってわたちを笑顔で見てくれた。
楽しそうに会話をしてくれる。
後をついて行くと楽しそうに笑ってくれた。
あたちを世界で一番大事に思ってくれる人。
そんな、姉様にずっとついて行く。
皆で姉様に暴力を振るう。
どうして皆して姉様を虐めるの?
あたち達は、何か悪い事をしたの?
作り笑顔をするのは、辛い。
暴力を振るわれても嫌味を言われても笑顔を
見せれば皆つまらなそうに去って行く。
あたちには、もう分からない。
でも……あたち達は、恐怖に弱い。
どれだけ格闘技を習っても根本的な部分は、人は
そう簡単には、変わらない、それはあたち達も同じだった。
恐怖で体が動かない。
あたち達は、やっぱりこの先も搾取されるんだ。
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