33話 呪いから解き放たれる少女2
「くっ。離せぇ!」
「皆、そこで何やってるのぉ?」
私達は、奪われたくない。
苦しくなりたくない。
そんな風に必死に白石と河野の腕を何とか
引き剥がそうとしていた時
そんな、この場に似合わない呑気な声が聞こえた。
「な……何故、魁斗様が?」
「魁斗君、一体どうやってこの場所を?」
「え?…嫌さぁ、本当に偶然何だけど。
先生に頼まれて体育館の器具庫に用があってさ」
「器具庫?」
「それで……何で皆傷だらけなの?」
「逆に貴方は、不自然な程に冷静ね?
こんな大事になっているのに。」
こいつら何普通に会話をしてるんだ?
「うぅ…目が痛いよぉ。」
「えっと………その子は?」
「これは……その」
嵐雲が気不味そうにそっぽを向いた。
「魁斗様!近づいては、なりません!
この女は、危険です!」
「えっと……白石。この子誰?」
「まぁ……貴方のファンよ」
「ええ……何か面倒臭そう何だけど。
やっぱり教室戻ろうかなぁ。」
そう言いながらも段々と詩杏との距離が縮まって行く。
「ち……近付くな!」
私は、思わず大声を出してしまった。
でも、体は、動かなかった。
こいつら……しつこすぎる。
「ひっ。な……殴らないでぇ。」
詩杏は、真田が近付いてくるのが分かると
自分の頭を腕に隠しながら懇願していた。
「えっと……南雲さんだっけ?
流石に心をぐちゃぐちゃにへし折るのは、
やり過ぎじゃ?」
「ちがっ……違うんです!
先に手を出したのは、彼女達なんです!
それにこの人達は、魁斗様の写真をばら撒いたんですよ?」
「そうなの?」
真田が詩杏に問いかけてくる。
詩杏は、怯えながらこう答えた。
「すみません、すみません。
怖くて仕方なくて。姉様だけは、姉様だけは!」
後に下がりながらずっと謝り続けている。
「くっ。いい加減離せぇ!」
何とか振り解きすぐに真田の前まで行き手を広げる。
「おい、真田!殴るなら私にしてくれ。
詩杏は、私の言う事を聞いただけなんだ。」
「えっと。足大丈夫ですか?
その子、足捻った見たいですけど。」
「え?」
「え?」
唐突に詩杏の足を指差して心配そうな顔をした。
何を言ってるんだ?嵐雲の話を聞いてなかったのか?
「あのー………大丈夫ですか?」
今度は、詩杏に目を向けそう言った。
詩杏は、恐る恐ると言った感じで答えた。
「い……痛い……です…。」
「そっか。その怪我は、白石達のせい?」
詩杏に向けてそう言って来た。
これは、チャンスだと思った、思ってしまった。
この能天気の何も知らない馬鹿をこちらに 引き込む事が出来れば白石達は、私達にもう暴力を
振るわない、今やるべきは、それだけだ。
だから……大声で答えた。
「そうだ!白石達が急に襲って来たんだ!
それでビックリした詩杏が足を捻ったんだ!」
嘘でもいい、後でバレてもいい。
後で殴られるのは、きっと私だけ。
それなら今詩杏の身の安全の方が優先だ。
「なっ、貴方達が先に!」
「白石、大丈夫だって。別に色々知ってるし。」
知っている?嘘がここでバレた?
じゃあ……殴られる……どっちも。
逃げなきゃ…詩杏が。
必死に逡巡していた時だった。
急に真田が手を振り上げたのだ。
詩杏が殴られる!目を瞑り詩杏の前に立つ。
ゴン………鈍い音が鳴り響いた。
私に痛みは、ない。
急いで後を振り向くと目を見開いて唖然としていた
詩杏が居た。殴られて居ないことに安堵したものの
音は、響いていた、じゃあ……何を殴ったんだ?
思わず目を見張った。目の前で顔から血を垂れ流していた真田が立って居たからだ。
白石や嵐雲も目を見開いて驚いてる。
「真田……お前何やって。」
声に出してしまった。けど、それだけ衝撃的だった。
真田が自分の顔を殴ったのだ。
「これで白石達のは、チャラにしてもらえないかな?」
「何言ってるんだ?
知ってるんだろ?私達がお前の写真をばら撒いた。
恵梨香の手先だ!そんな事をして何になる?」
「ちょっと待ってね?」
そう言って走って何処かに行ってしまった。
数分経っただろうか?その場は、時間が止まったかの様に静かだった。誰一人その場から動かなかった。真田が帰って来た、袋を持って。
「ごめん。これ、包帯と氷入ってるから。
足をある程度冷やした後に包帯を巻いてあげて?」
そう言いながら詩杏の前で膝をついて頭を下げた。
「さっき言ってたよね?何の為にやるのかって。
出来れば邪魔をしないで欲しいな。
それともう一つ、その子が知り合いの妹に似てた
からかな。理由は、それだけだよ。」
詩杏が怯えながら私の後からこう質問した。
「あたち達は、貴方をこの学校から追い出そうとした。人生が滅茶苦茶になるかも知れなかった。
それに、先にその子達を殴ったのは、あたち達だよ?それでも、そんな風に笑ってられるの?」
「笑ってるつもりは、ないんだけどな。
不快にさせたならごめん。
だけどさ、知り合いの妹が本当に大切だったんだ。
だから……泣かせたくないんだよ。
君に傷を付けたからね、自分を殴ったのは、ただの
自己満足だよ。だけどこれだけは、誓えるよ。
俺は、貴方達の敵じゃない。
貴方達に何もする気は、ない。」
「ほん……とう?
姉様を虐めないの?あたちを殴らない?」
「あぁ……殴らない。」
無意識だったんだろう。
彼は、気付いて居なかった。
私と詩杏の頭を………撫でたのだ。
「俺はね、今から大切な用事がある。
だけど……貴方達に危害を加えない。
むしろ、守ると誓うよ。」
「嘘だろ?」
信じられない、だって人間が何の見返りもなしに
人の為に動く訳がないのだ。
それに……恵梨香に逆らうのが怖い。
恵梨香を裏切ったらどんな目に遭うか分からない。
「大丈夫だ、今日で全て終わらせる。」
「今日で?」
「そうだ。だから……安心しろ!
俺達が貴方達の平穏な学校生活を必ず守る。」
自然と涙が溢れてきた、それは、詩杏も同じだった。つくづく思うよ、私達が双子だって。
でも、彼は、優しく頭を撫でて頑張って優しい声を
出している、そんな気遣いにも胸が温かくなる。
「私達を許すのか?本当に。」
「許すも何も話は、これで終わりだよ。」
「行くぞ、白石、嵐雲さん?、隆太郎!
最後の仕上げだ。」
『『分かったよ!(分かりました!)
(えぇ、分かったわ!)』』
最後の最後まで涙が溢れて仕方なかった。
涙は、久しぶりだ。
彼の手が私達の頭に触れた感触が、温かいのが
残ってる、不思議と全然嫌ではなかった。
彼は、父親とは、違うのだ。
何故、あの3人が彼を慕うのか少しだけ分かった。
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