シュミレーション仮説
ようすけ
第1話
これは誰でも知っているはずだが、本当にそうなのかと考えた。
わたしたちは政府の考えた策略のせいでそうだと思わされているだけで、わたしもそうだが、これまで誰一人として実行した試しは無いではないか。
あるのかもしれない、と散歩の途中でわたしは立ち止まった。
これまでの歴史の中で、わたし以外にも同じような疑念を持った人物はいるはずだ。
あるのか、あるのかもしれない。
などと言ったようなことを考えながら、わたしはガソリンスタンドでガソリンを買おうとした。すると店員の男がこう言うのだった。
「ガソリン缶がないとガソリンを売ることはできないんですよ」
「どうしてですか?」と聞いた。
「危ないからですよ、最近は消防がうるさくって」
「消防が?」
「ガソリンは危険物という扱いだから、個人宅で扱う際にはJISマークのついたガソリン缶が必要になるんです。ほら、赤い缶をよく見るでしょう」
「赤い缶?」
その後で店員の男がガソリンスタンドの店内に案内してくれた。
そこには確かに、店員の男が言うような缶が並んでいた。
わたしは店員に聞くのだった。
「ガソリンて本当に燃えるんですか?」
頭の弱い男に思われたかもしれないと不安になる。ガソリンが燃えるというのは、政府による陰謀で、これまでの歴史の中で、誰一人として実際にガソリンを燃やして確認した人物はいないことをガソリンスタンドの店員に話したとしても、やはり頭の弱い男だと思われるのは避けられなかった。
店員の男はわたしの質問を無視した。
ずらりと並ぶガソリン缶を前に、「これが無ければガソリンを売れないんです」
「どうしてですか?」とわたしはまた聞いた。
男はちょっと気分を害したように見える。先程までの店員然とした余所行きの表情とは打って変わり、目は虚ろ、口を半開きにして死体のような表情でわたしを見た。
「ガソリンを売る時の決まりになっているんです」
「決まりなんか破ればいいではないですか、まだ若いんだし」
「え?」
「決まりなんか破ってやりたいようにやればいいんですよ、その若さで常識とかルールに縛られるのって面白くない」
「面白いとかそんなことを考えて生きてはいないです」
「だったらなんで生きているの?」とわたしは聞いた。
それは単純に疑問だった。日本人の中には、ルールやマナーを守ることで社会との一体感を得て、それが生きている実感に繋がると考えている輩が随分といるものだったが、そんなのますます政府の思うツボではないか。
「ルールを守ることで少しでも自分がマシな人間に思えるからそうしているだけではないの?」
店員の男は口を開けていた。思考が停止したのだ。
店員の男に直接、どうして「思考が停止しているのか」と聞くのは簡単だった。だが男は「あなたが話の通じない人だから驚いているんです」と答えるに違いない。だが実際には、店員の男はプログラムされていない会話の流れになったから、まるでモブのように思考を停止してしまったに違いない。
やっぱりそうだ、とこういった時にわたしは考える。
この世界はシュミレーションに違いない。
シュミレーション仮説 ようすけ @taiyou0209
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