第5章 ― 王都防衛戦 ―

 ― 不穏な報せ ―


 ザイラスとの戦いから数日後。

 王都に戻った僕たちの耳に、衝撃的な報せが飛び込んできた。


「北方の砦が……落ちた……?」


 ギルドの掲示板に貼られた緊急依頼には、魔族の大軍が北方から進軍していると書かれていた。すでにいくつもの村と砦が壊滅し、次の標的は王都だという。


「ザイラスだけじゃない……魔族は本気で攻めてくるつもりだ」

 レオンの表情はかつてないほど険しかった。


 ― 王国の決断 ―


 王都の城では、王と重臣たちが緊急会議を開いていた。

 騎士団、冒険者ギルド、魔法学院――すべての戦力を結集し、王都防衛戦の準備が始まる。


「俺たちも行くぞ」

 レオンは迷いなく言った。


「当然だ。ここで逃げるわけにはいかない」

 ロイが頷き、カイルもリナも力強く武器を握りしめた。


 僕は――胸の奥で燃え上がるものを感じていた。

 前世では何もできないただの学生だった。でも今は違う。この世界で生き、この世界を守るために戦うと決めたのだ。


 ― 王都防衛線 ―


 数日後。王都の外周には巨大な城壁と防衛陣地が築かれていた。

 騎士団が盾を並べ、魔法使いたちが詠唱を始め、冒険者たちが各々の持ち場につく。


「来るぞ……!」


 地平線の向こうから黒い波が迫ってきた。

 魔物の群れ――そして、その背後に立つ漆黒の鎧を纏った魔族の将軍の姿。


 ― 開戦 ―


「全軍、構えッ!!」


 号令とともに戦いの火蓋が切って落とされた。

 矢が雨のように降り注ぎ、火球と氷槍が空を裂き、魔物たちが城壁に殺到する。


「ロイ、カイル! 前線を支えろ! リナは援護射撃、俺は魔法で援護する!」


 僕たちはそれぞれの役割を果たしながら必死に戦った。だが敵の数は圧倒的だ。


 ― 魔族将軍の登場 ―


 そのとき、漆黒の鎧の魔族将軍が前線に現れた。

 巨大な剣を振るうたびに、騎士たちが吹き飛ばされていく。


「こいつ……ザイラスより強い!」


 レオンが剣を構え、将軍の前に立ちはだかった。


「ここは俺がやる。お前たちは防衛線を守れ!」


 ― レオンの死闘 ―


 漆黒の将軍とレオンの剣が火花を散らしながらぶつかり合った。

 将軍の一撃はまるで大砲のように重く、レオンの剣が軋みを上げる。


「ぐっ……こいつ……力が桁違いだ!」

 レオンは必死に剣を受け止めながらも、徐々に押され始めていた。


 僕は歯を食いしばった。ザイラスですら手強かったのに、今度の敵はその比ではない。


 ― 崩れる防衛線 ―


 城壁の一角が爆発で吹き飛び、魔物たちがなだれ込んできた。

 ロイとカイルが必死に食い止めるが、敵の数は尽きることがない。


「レン! こっちも限界だ!」

 ロイの叫びが聞こえる。


 僕は魔法で援護するが、今の力では防衛線を完全に守り切れない。


 ― 将軍の猛攻 ―


「人間の英雄よ……ここで終わりだ!」


 将軍の大剣が唸りを上げ、レオンが吹き飛ばされた。地面に叩きつけられ、血が飛び散る。


「レオンさん!!」


 僕の胸に熱いものが込み上げてくる。恐怖と怒り、そして――守りたいという強い願い。


 ― 力の覚醒 ―


 その瞬間、頭の奥に声が響いた。


『解放しますか――《無限成長》の真価を』


 気がつくと、僕の体から金色の光があふれ出していた。


「これが……俺の力……!」


 杖を構えた瞬間、巨大な魔法陣が空に展開し、眩い光が戦場を包み込んだ。


「ライト・カタストロフ!!」


 光の奔流が敵軍を一掃し、魔族将軍すらもその輝きに後退を余儀なくされた。


 ― 将軍の撤退 ―


 将軍は剣を地面に突き刺しながら睨みつけてきた。

「……覚えていろ、人間。次は必ず殺す」


 その言葉を残し、魔族軍は黒い霧とともに退却していった。


 戦場にはようやく静寂が訪れたが、その代償は大きかった。


 ― 勝利と代償 ―


 戦いが終わった後、王都の防衛線には破壊された城壁と、無数の騎士や冒険者たちの亡骸が残っていた。

 勝った――しかし、それは決して喜べるような勝利ではなかった。


 ロイが剣を地面に突き立て、肩で息をしながら呟いた。

「……守れたんだな」


 リナは弓を下ろし、目を伏せた。

「でも……代償は大きい」


 誰もが無言で頷いた。


 ― レオンの容態 ―


 レオンは戦いの最中に重傷を負い、王都の医療院に運ばれていた。

 僕たちはすぐに駆けつけたが、レオンはまだ意識を取り戻していなかった。


「レオンさんがいなかったら……王都は落ちてた」

 カイルが拳を握りしめる。


 僕も強く頷いた。もっと力があれば、彼をこんな目に遭わせずに済んだのに。


 ― 《無限成長》の真実 ―


 その夜、ギルドの賢者と呼ばれる老魔導士が僕のもとを訪れた。


「おぬしの使った魔法……あれは人の身で扱える力ではない」


「でも、あの時は……勝手に力が溢れてきたんです」


 老魔導士は長い白髭を撫でながら静かに言った。

「それは《無限成長》の加護……だが、その力は同時に呪いでもある。使いすぎれば、いずれおぬしの身を滅ぼすだろう」


 僕は言葉を失った。


 ― 次なる脅威 ―


 戦いの翌日、王都に偵察部隊が戻ってきた。


「魔族の軍勢は退いたが……北の地に巨大な要塞を築いています!」


 王城の空気が一気に張り詰めた。

 魔族はただの侵略者ではない。彼らには計画があり、この戦いは序章に過ぎない――それが誰の目にも明らかだった。


 ― 新たな旅立ちの予感 ―


 僕たちは王都の城壁の上に立ち、遠い北の空を見上げた。


「次は……こっちから攻める番だな」

 ロイが笑みを浮かべる。


「まだ終わりじゃない。俺たちが、この世界を守るんだ」


 風が吹き抜け、僕たちの心に新たな決意が芽生えた。


 ― 第5章 完 ―


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