第6章 ― 魔族の要塞へ ―

 ― 王の命令 ―


 王都防衛戦から十日後。

 僕たちは王城の謁見の間に呼び出された。


「勇敢なる者たちよ。魔族が北方に築いた要塞を破壊し、その動きを止めねばならぬ」


 王は重々しい声でそう告げた。


「レオンはまだ療養中だが……彼はお前たちを推薦している。今度はお前たちが主力だ」


 僕たちは互いに顔を見合わせた。責任の重さは計り知れない。だが退く理由はなかった。


 ― 新たな仲間 ―


 作戦のために王国は一人の案内人を用意していた。


 フードをかぶった女性が静かに一礼する。

「名はセリア。北の地で情報収集をしてきました。あなたたちを要塞まで導きます」


 セリアの瞳は冷静で鋭く、その背には双剣が下がっていた。彼女はただの案内人ではない――そんな気配が漂っていた。


 ― 北への潜入行 ―


 僕たちはセリアの案内で北の地へ向かった。

 かつて村や砦があった場所はすでに廃墟と化し、魔族の旗が翻っている。


「奴ら、もうこんなに拠点を広げていたのか……」

 ロイが歯噛みする。


「ここを突破しない限り、王都はまた襲われる」

 セリアの声には迷いがなかった。


 ― 要塞の影 ―


 やがて霧の向こうに、黒鉄の巨城が姿を現した。


「……あれが魔族の要塞」

 リナが息を呑む。


 高い城壁、空を舞う魔族の飛竜、そして門前を警備する黒騎士たち。まるで生き物のように不気味な気配を放っていた。


 ― 潜入作戦開始 ―


 僕たちは夜を待ち、闇に紛れて要塞への潜入を開始した。

 カイルが軽やかに警備兵を気絶させ、リナの弓が見張りの目を潰し、セリアが迷いなく先導する。


 だがそのとき、要塞の奥から重々しい気配が近づいてきた。


「……歓迎しよう、人間ども」


 炎のような髪を持つ魔族の女戦士が、巨大な戦斧を肩に担いで立っていた。


 ― 炎の女戦士 ―


 要塞の広間に立ちはだかったのは、紅蓮の髪をなびかせた魔族の女戦士だった。


「名はヴァネッサ。侵入者はここで葬る」


 その声と同時に、戦斧が炎をまとい、床を砕く。熱風が吹き抜け、僕たちは思わず身を引いた。


「ロイ、カイル! 前衛を頼む! リナは援護射撃!」

「了解!」


 僕は魔力を練り上げ、ヴァネッサに向かって魔法を放った。


 ― 熾烈な戦い ―


 ロイの剣が斧を受け、カイルの槍が横から突き込む。だがヴァネッサは圧倒的な膂力と炎の魔力で二人を弾き飛ばした。


「この女……強い!」

 ロイが血を流しながらも立ち上がる。


 リナの矢がヴァネッサの腕に命中し、わずかに動きが鈍った隙を僕は逃さなかった。


「フレア・バースト!」


 炎の爆発がヴァネッサを包み込む。だが彼女は炎をものともせず、その中から戦斧を振り下ろしてきた。


 ― セリアの正体 ―


 その瞬間、セリアが素早く前に出た。

 双剣が閃き、ヴァネッサの戦斧を受け止める。


「……セリア、あなたは?」

 僕が驚いて問いかけると、彼女は淡々と答えた。


「私は王国の暗殺部隊影狼の隊長。魔族を討つために育てられた者よ」


 その言葉と同時に、彼女の剣が炎を裂き、ヴァネッサの防御を切り崩していった。


 ― 勝利と不穏な声 ―


 最終的に、僕たち全員の連携攻撃がヴァネッサを打ち倒した。

 彼女は血を流しながらも、不敵に笑った。


「……我らが王が目覚めれば、この世界は闇に沈む。貴様らの勝利など無意味だ」


 そう言い残し、ヴァネッサは炎に包まれて消滅した。


 ― 要塞の奥で ―


 要塞の最深部に辿り着いた僕たちは、そこで恐るべき光景を目にした。


 巨大な魔法陣の中で、漆黒の棺のようなものが脈動している。


「これは……封印?」

 セリアが険しい表情を浮かべる。


 棺の表面には、こう刻まれていた。


『魔王ルシファード』


 ― 魔王の棺 ―


 巨大な魔法陣に囲まれた漆黒の棺は、まるで生き物のように脈打っていた。

 そのたびに空気が震え、闇の魔力が滲み出していく。


「魔王ルシファード……」

 セリアが低く呟く。


「こいつが目覚めたら、この世界は終わるってことか」

 ロイが拳を握りしめた。


「まだ完全には復活していない。だが、このままでは時間の問題だろう」

 セリアの言葉は重く、冷たい。


 ― 迫りくる終焉 ―


 そのとき、頭の奥に不気味な声が響いた。


『人の子よ……いずれ我は目覚め、すべてを闇に還す』


 僕は思わず膝をつき、頭を抱えた。

 これは気のせいじゃない。魔王自身の声が、僕の中に直接流れ込んできたのだ。


「レン? どうした!」

 リナが駆け寄る。


「……魔王が……俺に語りかけてきた」


 ― 王国への帰還 ―


 要塞を破壊し、魔王復活の予兆を確認した僕たちは、急ぎ王都へ戻った。


 王や重臣たちは事態の深刻さを理解し、各国への援軍要請を決定した。


「これからは人類全体の戦いになる」

 セリアが静かに告げる。


 ― 決意 ―


 夜、城壁の上で僕は一人、北の空を見上げていた。


 魔王ルシファード――その名を聞いたときから、胸の奥に言い知れぬ運命の重みを感じていた。


「必ず……終わらせる。もう誰も死なせない」


 拳を握りしめた僕の瞳には、迷いのない光が宿っていた。


 ― 第6章 完 ―

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