第4章 ― 魔族の影 ―

 ― 不穏な予兆 ―


 北の辺境に魔族の影が現れた――。

 その知らせは王都中を駆け巡り、冒険者ギルドだけでなく、王国の騎士団や貴族たちまでもが動き始めた。


「魔族って……本当にいるのか?」

 ロイが眉をひそめる。


 レオンは真剣な表情で頷いた。

「俺は見たことがある。十年前の戦場でな。奴らは人の姿をしているが、人じゃない。圧倒的な魔力と破壊の力を持ち、この世界に災厄をもたらす存在だ」


 その言葉に、僕たちは息を呑んだ。


 ― 北への遠征 ―


 ギルドから緊急任務が発令された。北の辺境で発生した魔族の痕跡を調査し、可能であれば殲滅せよ――。


「これは遊びじゃない。本当に死ぬ可能性がある」

 レオンの言葉に、僕たちは互いに顔を見合わせた。


 だが退く者はいなかった。冒険者になったときから覚悟はできている。


「行こう。僕たちの力を試すときだ」


 ― 辺境の村にて ―


 数日後、北の辺境にある小さな村に到着した。

 しかし村は不気味なほど静まり返っていた。家々の扉は開け放たれ、まるで住人が一夜にして姿を消したかのようだ。


「……嫌な予感がする」

 リナが矢をつがえ、警戒しながら進む。


 その時、村の中央に黒い影が立っていた。


 ― 初めての魔族との遭遇 ―


「やあ、人間ども」


 不気味な笑みを浮かべる長身の男。だが肌は灰色、瞳は赤く輝き、背中には黒い翼。


 ――魔族だ。


「名はザイラス。お前たちが討伐に来たというわけか」


 彼の声は冷たく、どこか楽しげですらあった。


 レオンが一歩前に出る。

「仲間はどこだ。住民はどうした」


 ザイラスは肩をすくめた。

「死んだよ。皆殺しにした。抵抗する人間がどうなるか、見せてやったのさ」


 怒りが込み上げ、僕は無意識に杖を握りしめていた。


 ― 戦闘開始 ―


「来いよ、人間。少し遊んでやる」


 ザイラスの言葉とともに、周囲の影から無数の魔物が湧き出した。ゴブリン、ウルフ、そして見たこともない異形の獣。


「レン! お前たちは魔物を倒せ! ザイラスは俺がやる!」

 レオンが剣を抜き、ザイラスに向かって突進する。


 僕たちは迫りくる魔物の群れに武器を構えた。


 ― 激突の火蓋 ―


「来い、人間!」

 ザイラスの声と同時に、レオンが閃光のような速さで踏み込んだ。


 剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。ザイラスの剣筋は重く速い。レオンでさえ後退を余儀なくされるほどだった。


「レオンさんが……押されてる?」

 僕は驚愕した。あのレオンが、互角かそれ以上の相手と戦っているなんて。


 ― 魔物の群れとの戦い ―


「レン、こっちに集中しろ!」

 ロイの声で我に返る。目の前にはゴブリンやウルフ、牙を剥く獣たちが迫っていた。


「リナ、援護射撃を!」

「了解!」


 リナの矢が次々と敵を射抜き、ロイとカイルが前線を支える。僕は魔力を練り上げ、火球を放った。


「ファイア・ランス!」


 炎の槍が魔物の群れを貫き、数体が燃え上がる。だが敵は次々と湧いてくる。


 ― レオンとザイラス ―


 一方、レオンとザイラスの戦いは熾烈を極めていた。


「人間の中では強いな。だが――」

 ザイラスが黒い魔力をまとい、剣を振るう。その一撃は地面を抉り、衝撃波が周囲の木々を吹き飛ばした。


 レオンは辛うじて受け流したが、その口元に血が滲んでいた。


「やばい……レオンさんが……!」


 ― 力の覚醒 ―


 僕は胸の奥で何かが弾けるのを感じた。


 このままじゃレオンが……みんなが死ぬ!


 無意識に魔力が高まり、体の内側が熱くなる。これまで感じたことのないほどの力が溢れてくる。


「……行ける!」


 僕は杖を構え、呪文を叫んだ。


「フレア・バースト!!」


 轟音とともに巨大な火球が炸裂し、魔物の群れを一掃した。


 ― ザイラスの撤退 ―


 その爆発にザイラスが一瞬動きを止めた。


 レオンはその隙を逃さず、渾身の一撃をザイラスの胸に叩き込んだ。


「ぐっ……面白いな、人間」


 ザイラスは血を流しながらも不敵に笑い、黒い霧とともに姿を消した。


「今回はここまでだ。次はもっと楽しませてくれよ」


 その声だけが森に残った。


 ― 戦いのあと ―


 黒い霧が消え、ザイラスの気配が完全に消え去った。

 魔物たちも指揮官を失ったことで散り散りになり、森は再び静寂を取り戻した。


「……勝ったのか?」

 ロイが肩で息をしながら呟く。


「いや、逃げられただけだ」

 レオンは剣を鞘に収めながら苦い表情を見せた。彼の額には汗と血が混じり、さすがの彼でも今回の戦いは容易ではなかったと分かる。


 ― 力の覚醒と戸惑い ―


 僕は自分の手を見下ろした。

 さっき放った炎――あれは今まで使ってきた魔法とは明らかに違っていた。


 あれほどの力を自分が持っていたなんて、信じられなかった。


「レン、さっきの魔法……お前、いつそんな大技を覚えたんだ?」

 カイルが驚いた顔で聞いてくる。


「わからない……気がついたら、体が勝手に動いてたんだ」


 それがスキル《無限成長》の力だと気づいたのは、この戦いが終わった後のことだった。


 ― 不穏な予感 ―


 王都に戻る前、レオンが小さく呟いた。


「ザイラス……あいつはただの前哨だ。本格的に魔族が動き出すのは、これからだ」


 その言葉に僕たちは無言で顔を見合わせた。

 冒険者としての試練は終わった。だが、世界そのものが揺らぎ始めている――そんな予感があった。


 ― 第4章 完 ―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る