十話目 魔法少女は響かせたい
「……そうか。改めて名乗ってやろう、俺は三大極大魔人ランバナンダだ!」
「お前を、倒します」
「できるもんならやってみなぁ!」
私に残された力は、そんな多くない。
だから、一撃に全力を込めろ。一発でいい。本気で、全力で、今の一瞬に集中しろ。
世界がスローモーションになったように感じる。
ゆっくりと、触手がこちらに襲い掛かってきてる。避ける? 避けないと私の攻撃が間に合わない。
足は、ギリギリ動く。でも、その一回限りで終わり。その一回でいい。いいと信じて。
横なぎに振るわれる触手を避けるように、全力で垂直に飛ぶ。
高く、高く、とにかく高く。時間がほしい。魔力を込める時間が。
今、この世界には私と魔人しかいない。そのぐらい、集中できてる。見えている、くっきりと、どこを狙えばいいのかまで。
「――クリム」
弓を構える。炎の弓。イメージして、灼熱の矢を、全てを焼き焦がすそれを打ち出すイメージ。
弓を纏う炎が、花弁のように広がる。
「――フレア」
矢を番える。炎の矢。これは全部を焼き尽くす炎。私の全力を、魔法少女としての命を燃やす炎。
火の粉が舞い上がる。熱くはない。温かな輝きを越えて、冷たく鋭く研ぎ澄まされていく。
「――コメットッ!」
焼き尽くせ、通り過ぎるもの全てを。これは私の流星、私が放てる渾身の一撃。
そして、私は放った。全身全霊を込めた一矢を。
これが耐えられたら、私の負け。そう思える一撃を。
「う、うおおおおおおおおおおお!」
ああ、受けられた。
魔人は触手を幾重にも重ねて、盾のようにしている。その先端で、必死に私の矢を受け止めようとしてる。
その姿を見て、私は思わず表情が緩んじゃった。
「――勝った」
「う、うぐああああああああああ!」
炎は広がる。触手を焼き焦がす。炎は広がる。触手を飲み込む。
そのまま広がれ。魔人を飲み込んだ。
天高く、炎の柱が立つ。そのまま焼き焦がせ、私の敵を。
「あっ」
着地の事、考えてなかったや。どうしよう。
このまま落ちたら痛そうだなぁ。魔法少女だから、死なないとは思うけれど。
目を閉じて、襲い来る衝撃を待つ。けれども、私を包み込んだのは、硬い地面に叩きつけられる衝撃じゃなくて、そっと優しい感触でした。
「……お疲れ、クリムセリア」
目を開けると、すぐそこにルミコーリアの顔があったの。
お姫様抱っこをされてたみたい。落ちてる最中に、助けてもらえたんだと思う。
「ルミ、コーリア」
「見たよ。かっこよかった」
「……えへへ」
「立てる?」
「はい。っと、ごめんなさい、肩貸してください」
地面に下ろしてもらうけれど、足はやっぱりふらついてて。そのままだと立っていられないから、ルミコーリアの肩を借りて立ちます。
視線を、魔人の方に向けると、そこにはもう、魔人の影も形もなかった。
倒したんだ。私が、あの魔人を。
「……ルミコーリア」
「ん、なあに?」
「私、魔法少女続けたいです」
「そっか。辛い道だよ」
「はい。でも、やっと覚悟ができたんです。憧れとかじゃなくて、弱い自分と戦う覚悟が」
ルミコーリアは、笑って答えてくれる。それでいいんだって、答えてくれる。
だから、私は安心してこの道を進めるんだ。
「怖いのを、憧れで誤魔化すだけじゃ駄目なんですね」
「そうだね。いつだって、私たちが戦ってるのは現実なんだから。それから目を逸らしたら、どうしようもなくなっちゃう」
そうだ、あの子。取り残されてた男の子は?
「あの子なら、逃がしたよ。多分、そろそろ人が来るんじゃないかな?」
「――そうですか。良かった」
「うん、私もそろそろ行かないとね。人に見つかる前に」
「え?」
今、なんて言ったの? 人がくるから行かないといけない? どうして?
だって、ルミコーリアは、あんなに活躍したのに。
「どうして、ですか?」
「だって、魔人を倒したのはクリムセリアだよ。こんなにボロボロになって頑張ったのも、クリムセリア。私はただ、クリムセリアが歩もうとした正しい道に、偶然居合わせただけ」
違う。違う。そんなこと言わないで。
この道は、あなたがいたから歩こうと思えた道なの。あなたがいなければ、何も救えなかった道なの。
「私がいなくても、他の魔法少女が来てたかもしれない。私がしたのは、せいぜい子供を逃がしたことぐらいだよ。誰でもできることだった」
そんな風に言わないで。あなたは凄い人なの。私の憧れの人なの。
「それに私がいたら、クリムセリアの名声に傷がついちゃうでしょ? せっかく、心機一転って感じだったんだから。その先は晴れ晴れとしたものじゃないと」
そんなもので傷つく名声ならいらない。大切な恩人が報われない新しい道なんていらない。
――ああ、そっか。こういう人だから、誰も知らないんだ。
ルミコーリアが凄い人だって。ルミコーリアが、本当は誰よりも魔法少女なんだって。
私は、主人公なんかじゃない。この人が、こういう人が、主人公であるべきなんだ。
「それに、ほら。クリムセリアがボロボロなのに、私だけ無傷で、何て言えばいいのか――」
「――大丈夫です」
「へ?」
あっ、人が来る足音が聞こえる。きっと、男の子が応援を呼んできてくれたんだ。
それとも、魔人の反応が消えたから、テレビの人とかかな?
ちょっとだけ口元が緩んじゃう。そして、ぎゅっとルミコーリアの腕に腕を絡ませた。
「えっ!? ほ、ほら。人が来るから、放してクリムセリア」
「駄目です」
「ええっ!?」
ルミコーリア、今すっごい困ってる顔してる。かわいい。
ああ、そうだ。こうすればいいんだ。
今、私は心の底から笑えてる。やりたいことを、見つけられた。
ボロボロの私なんか、力いっぱい払えば振り払えるのに、そうしないなんて本当にルミコーリアは優しいなぁ。
大好き。大好きだから、ごめんなさい、言う通りにはできません。
ああ、ほら、人が来た。ありがとう、カメラを持ってきてくれていて。
だって、私が魔人を倒した後はいっつもテレビの人やインタビューの人が来てたから。今回も来てくれるかなって、期待してたの。
「クリムセリア! 今回も魔人討伐――大丈夫ですか!」
「はい。今回の魔人は強敵で、ちょっと手ごわくってですね。でも、ご安心ください。この方と一緒に、魔人は倒しましたので!」
カメラに向かって、笑顔を振りまく。本当は立っているのもやっとだけれど、人に安心を与えるのも魔法少女の役目だから。それに、今は本当に心の底から嬉しいんだもん。
隣のルミコーリアはずっと困惑してる。ふふふ、本当にかわいい。
「それは、ありがとうございます。今すぐ病院へ行った方がよろしいのではないでしょうか?」
「大丈夫です!」
いや、全然大丈夫ではないけど。でも、今を逃したら絶対に次のチャンスは回ってこないから。
ルミコーリアが凄いびっくりした表情でこっち見てるけど。駄目だよ、カメラの前なんだから笑顔笑顔!
「そ、そうですか。それで、こちらの魔法少女の方は? すみません、不勉強で……」
「はえぇっ! いや、私の事は気にせずに……」
「この方は、私の師匠なんです! 師匠がいなかったら、今回の魔人は討伐はできなかったと思います! 捕まってた男の子を助けてくれたのも、師匠のおかげなんです!」
インタビューは私の方が慣れてるみたい。だから、ルミコーリアには話の流れを渡して上げない。
きっと、渡したらどうにかして逃げようとするから。逃がしてあげない。
私が見つけた、私が望む未来のために。
「クリムセリアの師匠! そのような方がいたのですね!」
「はい! 私の大好きな、私よりもよっぽど強い、最高の魔法少女なんです!」
「えっ、えっ、えっ」
ああ、もう。ルミコーリア、そんなに慌てるとテレビ映り悪いですよ?
これからは、いっぱいやることになるんですから、慣れてくださいね? ……口には、しませんけど。
「この人は――ルミコーリア! 魔法少女、ルミコーリアです!」
テレビの向こうに向かって、記者の方々に向かって、私は全力の笑顔を振りまいて答える。
――ごめんなさい、美羽さん。私、やっぱり美羽さんに魔法少女辞めてもらいたくないです。
だから、ごめんなさい。有名になってもらって、誰からも惜しまれる存在になってください。
これが私からの、一番弟子としての、最初の望みです。
私が有名になったのは、私が人々の注目を集めていたのは、全部こうやってルミコーリアを有名にするためだって、思えちゃったんですから。
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