七話目 魔法少女は射貫きたい

「うんうん! いい感じいい感じ!」


 迫りくる炎の矢を避けながら、私はクリムセリアを褒める。

 再び訪れた土曜日。私たちは当然連絡を取り合い、再び訓練場に来ていた。

 事前にアプリで、今日練習する内容は教えてた。彩花におすすめされた、炎の弓矢についても、アイデアの共有はしてある。


 すると、事前にイメージの練習をしてきていたのか、炎を弓の形に模ることはすぐに実践できた。

 じゃあ後はもう発射の練習をするだけっていうことで、今は色々と練習をしているところ。

 的は動いた方が良いだろうってことで私が引き受けてる。何か的を投げればいいだろうって? ほら、色々不規則に動いた方が実戦に近いからさ。


「いいよ! ちゃんと狙ったところに飛んでるよ!」

「は、はい!」


 最初は狙いも上手くいかなかったんだけれど、練習しているうちに精度も上がってきたみたい。

 今では、動き回る私をきちんと狙えている。

 センスいいねぇ。クリムセリアはやればできる子だ。


「おっと」

「やった! 当たった!」


 動いてた私に確実に当たる一発が飛んできたので、ステッキで打ち払う。いや、動く速度を上げれば余裕で避けられるんだけれどね。それだと練習にならないから。

 私が避ける練習じゃなくて、クリムセリアが動く的に当てる練習だからね。


 彼女は、ついに一発偏差で命中させたことで、その場で小さく飛び跳ねて喜んでる。

 うーん、微笑ましい。思わずこっちも笑顔になっちゃう。

 遠くで話しかけててもあれなので、一旦的当ては中断して、私もきちんと近くに寄ってから話しかける。


「いい感じだね。それで、肝心の魔力制御の方はどう?」

「あっ、はい! そっちもわかりやすくて良い感じです」


 言いながら、クリムセリアは炎の弓矢の魔力制御を見せてくれる。


「おおっ」


 矢の部分の魔力が大きくなり、より鋭利な見た目へと変わる。弓の方も、発射台としての機能が洗練された。

 精密に狙うのと同時にやるのはまだ難しそうだけれど、どちらも片方だけならできるってのは大きな進捗だ。


「他に提案してみた、銃とかだとどう?」

「銃は……試してみたんですけれど、ちょっとわかりづらくて」

「何かわからないの?」

「どうやって弾を発射してるんだろう、とか。イメージがしづらいんです」


 ああ。弓なら、弦で弾いて矢を飛ばすってシンプルなイメージだもんね。

 銃は……火薬かなんかで衝撃を与えて弾を飛ばしてるんだっけかな? 銃の中での処理だから、イメージがしづらいってのは分かるよ。

 指向性が必要だから、ただ衝撃が強ければいいってわけでもないし。


「じゃあ、弓で練習する方向で行こう」

「はい!」


 進むべき方向さえ定まってしまえば、後は楽なものだ。

 付き添いで今日も私が付いてきたけれど、次回からは一人でも大丈夫かな?


「この分だと、早いけれど今回で私もお役御免かなー」

「えっ!」


 聞き捨てならないことが聞こえたと言わんばかりに、ものすごい勢いでクリムセリアがこっちを向いた。

 あまりの勢いに、思わずびっくりしちゃう。何々、私が言ったことそんなに変だった?


「み、ルミコーリアは手伝ってくれなくなるんですか……?」

「いや、そういうわけじゃないよ? ただ、練習に付き添う意味があんまりないかなって。あんまり魔法少女として町を空けるのも良くないしね」


 そう、私たちは担当区画が被ってる。

 私たちの区画の近くには他にも魔法少女がいるからまだいいけれど、他の魔法少女からすれば、魔人が出た時に遠出させられることにもなっちゃう。

 私みたいに宙をぴょんぴょん移動できればいいんだけれどね。人様の家の上を飛んだりするのもマナー的によろしくないからさ。法律的に問題ないとしても。


 そんなことを考えれば、私達二人とも留守にしてる現状はあんまりよろしくないんだよね。

 だから、そんな捨てられる子犬みたいな目でこっちを見ないでほしいなぁ。


「そう、ですよね。これは、我儘ですよね……」

「大丈夫だって。ほら、今週もアプリでいっぱいやり取りしたでしょ? いつだってアプリでやり取りはできるから」

「あれでも我慢した方なんですよ? 本当はもっといっぱいルミコーリアとお話したいのに……」

「あれで我慢した方なの……?」


 私、正直びっくりしたよ。普段ないぐらいスマホに通知が来てて、何事かと思ったよ?

 見てみたらさらにびっくりしたよね。全部クリムセリアからだったんだもん。

 幾ら匿名性が確保されてる魔法少女専用アプリだからって、そんなに連絡することある? って思って開いたら雑談の内容ばっかりでびっくりしたよね。


 今時の子ってこんなにチャットで喋るんだって感動しちゃったもん。

 いや、私が友達少ないだけなんだけれども。

 グループからも孤立していっつも一人だったからなぁ、私。混ざるに混ざれないし。


「私、もっとルミコーリアと一緒にいたいです! 見捨てないでください!」

「見捨てないでって、そういうわけじゃないんだけど……」

「お願いですから!」


 うーん。考えてみよう。

 ぶっちゃけ、教えられることはもうない。私にできるのは、せいぜい練習の的になることぐらいかな?

 そのためだけに、担当区画を空けるのはよろしくない。これは前提条件として頭の中に入れておく。


 そのうえで、私がこの子のためにしてあげられることってなんだろう?

 最初みたいなメンタルケアぐらいだよね。芹香ちゃんは頭が悪いわけじゃなさそうだから、そのぐらいはわかってくれそうなんだけれども……駄目だ、目を見たら絆される。あんなかわいいうるうるおめめは正面から見られない。


「……わかった。でも、ポムムから魔人出現の話が出たら、有無を言わさずに私は行くからね」

「はいっ!」


 ああ、もう。そんなに嬉しそうにしちゃって。

 私が全力を出せば、ここからでもそんな時間かからないのはそうだけれど、あれ危ないんだよねぇ。

 電車より速度出すってことだから、一歩間違えれば周囲に被害が出ちゃう。


 駄目だなぁ。随分と懐かれちゃったみたい。

 最初は弟子にして、私の代わりになってもらおうと思ったんだけれど、ちょっとクリムセリア一人に任せるのは辛そうだし。

 他の子も候補として探しに行きたい、だなんて言ったらどんな顔されるんだろう。うーん、予想ができない。

 でもなぁ、せめて二人は用意したいんだよね。ポムムを納得させるためには。


 申し訳ないけれど、クリムセリア一人だとどう考えても私より弱いし。

 ひょっとして、私の周りの魔法少女たちが強かっただけなのかな? その可能性を考えるぐらい最初のこの子は弱かった。

 クリムセリア一人が弱いんだったらいいんだけどねぇ。希望的観測でしかない。


「ルミコーリア、ルミコーリア」

「ん? どうかした?」

「上手くできたご褒美に、ぎゅーってしていいですか?」


 どういうこと?

 うーん、今時の女の子のスキンシップなのかなぁ。

 まずい、本当にこういうのに触れてこられなかった弊害が出てる。ずっと一人で魔人と戦い続けた女の末路よこれが。


「……いいけど」

「わあい!」


 勢いよくクリムセリアが抱き着いてきた。もちろん、炎の弓矢は宙に掻き消えた後に。自由自在に出し入れができるみたい。器用だねぇ。

 ……こうやって抱きしめられると実感するけれど。私、ルミコーリアの姿だとクリムセリアより身長が……。あの、その、現役中学生に身長で負けてぬいぐるみ扱いされてるって考えると、途端に凄い虚無感が出てきたかな。


 いやいやいや、これは十二歳の時の身長だから。元に戻れば私の方が……ギリ身長は勝ってるし。気にしすぎ気にしすぎ。

 お姉さんとしての威厳が……。まあ、いいか。喜んでるし。


 私はしばらくクリムセリアの腕の中で、虚無顔のまま考え事をする羽目になった。

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