六話目 魔法少女は応援したい

「おー、ニュースになってるなってる」


 大学の休み時間に、私はネットニュースを見ていた。すると、見知った名前が一斉に出てくる。

 先日鍛えた成果が発揮されたのか、これまで以上にクリムセリアに着目したネット記事が増えていたのだ。

 先週の土曜日の事だから、またしても魔人が出てきたことになる。週一発生かぁ、早いなぁ。因みに、日曜日も練習しにいこうと思っていたけれど、魔力の使い過ぎで芹香ちゃんがばてちゃったみたいで、お開きになった。


「インタビュー記事も増えてる。頑張るねぇ」

「何が頑張ってるの?」

「うわぁ!」


 後ろからいきなり話しかけられて、危うくスマホを落としそうになってしまった。

 この大学で私にいきなり声をかけてくるような子は一人しかいない。


「……もう、驚かさないでよ。彩花あやか

「あははー。ごめんごめん」


 彼女の名前は、星乃ほしの彩花。元魔法少女だ。

 数少ない私の大学内の友達でもある。


「何見てたの? また魔法少女についての掲示板? エゴサはほどほどにしときなよ~」

「ちょちょちょ、ここ大学内だって!」

「ごめんごめん。でも、人通りはないし、大丈夫でしょ。誰も聞いてないって」


 ここは講堂へ繋がる道の途中にあるベンチで、この時間はあまり人通りがない。大抵の人は食堂にいったり、次の講義へ向かってたりだ。

 だから、聞かれる心配は薄いっちゃ薄いんだけれど……。彩花はそういうところ目ざといから、大丈夫かな。


「んで、何を見てたの?」

「んー、魔法少女クリムセリアのネット記事」

「ありゃ、最近話題の後輩ちゃんだ」


 彩花も知ってるんだ。それもそうか、何もしてなくてもこの辺に住んでれば聞こえる名前だもんね。


「でも、なんでまた急に美羽からその子の名前が出てきたの」

「ちょっと面倒見てあげてるの」

「えっ」


 ん? 彩花が固まっちゃった。

 何か引っかかることがあったのかな? ……なんて思ってたら、正面に回られて両肩をがしりと掴まれた。

 こちらを見てくる目はとても真剣で、何事かなんだろうって思っちゃう。


「クリムセリア、辞めたいとか言わなかった?」

「えぇっ!」

「やっぱり! ああっ、どうしよう。幼気な後輩がこんなの相手にさせられて心に傷負っただなんてかわいそうでかわいそうで……」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!」


 彩花は私の事を何だと思ってるの!?

 そりゃあ確かにちょっと怖がらせちゃったけれども、辞めたいとまでは言わなかったよ!?

 そのことを説明すると、彩花は肩を降ろして安堵の表情を見せてくれた。


「なーんだ。心が強い子でよかったよかった」

「なーんだ、じゃないでしょ。私の事、魔人か何かだと思ってる?」

「ううん。そんなこと思ってないよ」

「ほんとかなぁ」

「魔人よりも怖い何かだと思ってる」

「ちょっとっ!?」


 軽口だとしても大分聞き捨てならないんですけれども!

 え、え? 私ってそんなに怖い? まったく自覚ないんだけれど。

 表情? 意識してなかったけれど、表情が硬いとか? 芹香ちゃんはかなり表情豊かでかわいかったけれど、私には全くそれがないとか!?

 むにむに指で頬を動かして表情を動かす練習をしてみる。うーん、多分違う気がする。


「あははははは。ごめんごめん。ちょっとからかっただけ」

「もうっ! 彩花はそうやってすぐ私をからかうんだから」

「はいはい。んもー、そういうところがかわいいんだから美羽は」


 誤魔化すように一通り笑った後、彩花は途端に真面目な顔になって話題を戻す。


「それで? 後輩の面倒一々見るようなタイプでもなかったでしょ。どうして急にそんなことになったの?」

「んー。まあ、彩花にだったら話してもいっか」


 元だけれど、魔法少女だからね。私の同期でもある。何か強くなる心当たりとかあれば、芹香ちゃんに教えられるかもしれないし。

 と、いうわけで相談してみることにした。クリムセリアが強くなりたいと考えてること。で、魔力の制御を教えて、その一環として武器をイメージしてみるのはどうかという話をしたこと。

 それらを話したんだけれど、彩花には凄い微妙な表情をされた。


「……まあ、あなたと比べれば大半の魔法少女は雑魚でしょ」

「うん? 何かいい案あるの?」

「ううん、今のは独り言」


 ぼそりと何か呟いていたのは分かるんだけれど、上手く聞き取れなかった。

 何だろう?

 誤魔化すように、露骨に考える素振りを見せられる。


「強くなれるいい方法ねぇ……」

「やっぱないよねぇ」

「そうだね。魔力制御を高める以外だとパッと思い浮かばないかな。でも、武器を使ってイメージを固定するってのはいい方法だと思うよ」


 うーん。彩花に聞いても真新しい方法は思いつかないかぁ。

 そんな簡単に強くなれたら世話ないってことなんだろうけれど、辛いなぁ。


「その子は炎を操る魔法少女なんでしょ?」

「うん、そうだね」

「じゃあ、剣よりも弓の方がいいんじゃないかな」

「その心は」

「んー、炎を飛ばして戦う子なんでしょ? なら、近距離やらせるより遠距離継続させた方が良いでしょ」


 なるほど。それは確かにそうかも。

 私の想定では、弓に炎の矢を番えて放つみたいなことを考えてたんだけれど、それについてはどうだろう?


「それは……いいんじゃないかな? 私なら、弓自体も炎で作れないか試してみるけどね」

「ほうほう」

「そっちの方が取り回しがいいでしょ? 多分あの子を想像して思いついたんだろうけれど、あの剣執着野郎と一緒にしない方が良いと思うよ」

「あはは……」


 剣執着野郎って。いやさ、間違ってはないのかもしれないけれども。

 確かに、剣の方は炎の剣を振るうってイメージがあったけれど、弓そのものも炎にするイメージは私にはなかったな。盲点だった。これを聞けただけでも、相談した甲斐があったかな。


「しかし、美羽が弟子ねぇ」

「なぁにその口ぶり。私には人に教えるなんて無理だって思ってる?」

「ううん。ちょっと思うところがあっただけ」


 あっ、懐かしんでそうな表情してる。彩花からすれば四年前の事だもんね。


「……クリムセリア、心壊れないかなぁ。大丈夫かなぁ」

「ちょちょちょちょ」

「美羽は昔から周りの状況見るのが下手くそだったからなぁ……」

「それはぁ! そうかもしれないけれどさぁ……」


 合同で戦った時の話はしないで! だって、私が勝手に突っ込んで勝手に殴れば終わる話だから突っ込んでただけじゃん! 魔獣は周りにいたけれど、魔人をさっさと仕留めれば指揮系統が止まって楽になるじゃん!

 合理的判断、合理的判断での突撃だったの!


「一つだけ私がアドバイスするのなら、美羽は自分の魔力量を基準に教えないようにね」

「あっ」

「えっ?」

「……」


 既に練習させすぎて、次の日ダウンさせましたなんて言ったらどうなるだろう。

 言わなくても伝わってそうだけれど。


「美~羽~?」

「ごめんなさい! 次からは気をつけます!」


 あまりにも怖い顔をされたので、即座に謝ります。

 実際反省はしてます。中学生相手なんだから、大人な私が気をつけないといけないんだよね。

 ……素の体力はびっくりするぐらい負けてたけどね!


「はぁ。本当に心配なんだけど」

「あははは……できれば、今後も少しずつ相談に乗ってほしいなー。なんて」

「それはいいけどさぁ。クリムセリアの身の安全のためにも」

「私、凶悪な魔獣か何かだと思われてる?」

「ううん、破壊神だと思ってる」

「邪悪さが跳ねあがった!」


 本当になんだと思われてるの私!

 そんなに私怖いのかなぁと日ごろの行いをちょっと振り返りつつ、次の講義の時間になったので、一旦私たちは分かれることとなった。

 ……笑顔の練習、頑張ってみようっと。



 ◇ ◇ ◇



「本当に、辞められると思ってるのかなぁ」


 私の親友は、二十歳になっても魔法少女を辞められないでいる。

 理由は単純だ。彼女があまりにも強すぎるから。


 昔話をしようと思う。

 魔人が現れて、その魔人は無尽蔵に思えるぐらい魔獣を生み出して従えていた。複数人で魔人の対処に当たっていた私たちは、魔獣の対処に手いっぱいだった。魔獣と言っても、並の魔人ぐらいの力はある。

 ひょっとしたら、魔神とかいう奴らの中でも恐ろしく強い個体だったのかもしれない。


 対応してた私たちは、軽く絶望してた。あまりにも底が見えなかったから。

 そこにひょっこりと後から現れたあの子、ルミコーリアは、私たちの制止も聞かずに突撃し、単身で魔神を打ち取って見せた。

 周りの子たちは、良いところ取りしただけだの、本体は弱かっただけだの言ってたけれど、私はそうは思わない。あいつは、絶対に私達だけじゃ対応できなかったぐらい強かった。


 思えば、あの子はあまりにも名前が広がらなさ過ぎていると思う。

 同期の魔法少女たちは、あの子に反感を持って名前を呼ばなかった。

 でも、実際に活躍してたのは誰よりもあの子が多い。あの子が討伐した魔人が、他の子の手柄になってることも多々あった。

 そこには、あの子を隠していたい大人の都合があったんじゃないかって、今ならわかる。


 だって、単純に、あの子はあまりに善良だから。口ではあれこれ言うけれど、最終的な結果さえよければ、あの子は仕方がないで収めてしまうという確信がある。

 実際そうだ。毎回毎回掲示板で悪口言われたと文句を言うけれど、本気でどうにかしようとしてるところは見たことがない。できないから、ではなく、できてしまうから彼女は手を出してないだけなんだって、私には分かる。


「……どうせ、今回も何かと理由をつけて続けることになるんだろうな」


 親友の努力を徒労と笑うわけじゃないけれど。途中で逃げ出した私が言えた口ではないけれど。

 それでも、一言ばかりは言わせてほしい。

 ――頑張って、私の憧れの主人公魔法少女

 いつの日か、光が当たるところで輝いてる姿を見せてくれると信じてるよ。例え、あなたが望んでいなくても、私はその姿が見たいんだ。

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