第5話 細かい設定なんて覚えてない
「ぼっちゃまの頑張りはこのセバスの目にしかと焼き付いております。私の助力は無駄にはならない、そう自負しております」
とは言われてもな。セバスはただの初老の執事だ。
正直役に立つとは思えない。
それにこんなチャートは存在しない。
よって答えは決まっている。
「いらない。業務に戻ってくれ」
「っ?!」
まさか断られるとは思っていなかった。
そんな顔。
「なるほど。己の手の内を明かしたくない。そうお考えなのですか?たしかに戦う者にとって己の手の内とは生命線でもありますからな」
「(別にそういう訳でもないけど)まぁそんなところだ」
「不躾なことを言いましたね。この件はお忘れ下さい坊っちゃま」
頭を下げてきた。
「では、ごゆっくりと」
俺は素振りに戻る事にした。
◇
翌日。
なんとかチャート通りの数字に追いつくことが出来た。
その代わり全身汗びっしょりだ。
チャートでは最初の夜は睡眠でスキップしていたから、初日からこんなに努力するなんていうことは初めての経験だ。(スキップしてもレベルは足りていたのでこの世界のレベルの上がらなさがよくわかる)
(次はどんなチャートだったかな)
そもそもの話最初のセバス戦は勝つ必要があったんだがそこで負けてるからな……。
ちなみに大筋的には負けていても問題は無い。
後で勝てば問題ないシーンだからだ。
RTA的な話をするとタイムは出ないことになるんだが。
「ちゃまー?」
(とりあえずセバスに確実に勝てるくらいには強くならないと、か)
「坊っちゃま?」
(2週間時間をくれと言ったし、うん。きっちり2週間は使わせてもらおう)
「あのー?坊っちゃま?」
前を見るとミーナがいた。
「すまない、考え事をしていてな」
「それはいいんですけど、すごい汗ですね。夜通し訓練していたとは聞きましたが本当だったんですね」
「あぁ。予定に大幅な遅れがあったから帳尻を合わせる必要があった」
「予定というのは?なんのことなんでしょう?そんなのありましたっけ?」
「今日までに魔法と剣術のレベル3が欲しかった」
「え?どうしてそんなにレベルを上げる必要が?」
「ま、いろいろとな」
ミーナはそこでニヤニヤしていた。
「で実際のところは上がれたんですか?」
「なんとかな」
とは言ったがミーナは聞いていないようだった。
「ま、上がれるわけもないですよね。レベル3なんて数年単位でかかるって言われてますしー」
「(通常プレイだとそうなのか?)いや、あがったよ」
ミーナは俺の顔を見てパチパチと瞬きしてる。
「え?」
「(口で言うより見せた方が早いか)ステータスオープン」
俺とミーナの前にステータスが出てきた。
「え?ほんとにレベル3?!!!すごいです!どうやったんですか?!」
「普通に」
「えぇ?!私にも教えてくださいよー」
教えてやりたいのは山々だけど。俺には他の人間にかまけてる暇がない。
という訳で言葉は濁しておく。
「今日も訓練なんですか?」
「もちろん。2週間後こそセバスに勝たないといけない」
「えぇ?!セバス様に勝つなんて無理では?!」
「(大げさな反応だな)なぜだ?」
「かつては大陸最強と言われた人なんですよ?!」
(ん?そんな設定あったっけ?)
ゲーム内ではあまりにも呆気なく倒せてしまうので細かい設定なんか覚えてないんだけど。実は元大陸最強だったのか。知らなかった。
「なんにせよ、俺はセバスを倒さないといけない(チャート的に)。それに元大陸最強でも今はただの執事だろう?俺は勝たないといけない」
「セバス様をただの執事扱いせるなんて。すでに大物になりそうな予感がするのです。私も陰ながら応援するのです!ふれーふれー!ぼっちゃーまー!」
そんな応援を聴きながら俺は思っていた。
(なんか違和感があるんだよな)
昨日の夜のセバスの件も違和感と言えば違和感だ。
あんなイベントなかったし、俺の訓練に関わってくるような描写なんて原作にはなかったからな。
(でもこの世界のセバスは己の意志を持って生きてるし、まぁ原作と違った行動のひとつやふたつくらい取るのだろうか)
さてと。そんなことより訓練だ訓練。
とりあえず一週間後くらいまでにはプレイヤーレベルがチャート的には最低でも10くらい欲しい。
ちなみに今はレベル3だから一日でレベル1つくらい上げていかないといけない。
休む暇など一秒もない。
ここから先は俺が負けていいチャートなんて一つも存在しない。
訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練。
「ところでぼっちゃま。お風呂で汗など流してはどうでしょう?」
「いらない。訓練をして新しい汗で古い汗を流せばいい」
訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練。
「?」
訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練。
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