幕間(3)

 璃玖にウスバニジヤモリを――フルーを贈って本当に良かったのか、ベルトホルトにはわからなくなっていた。“もとの世界”での璃玖の話を聞き、格好の遊び相手になると思っておこなったことだったが、浅薄な自己満足だったのではないか。


 その理由のひとつは、おそらくフルーの存在をきっかけに、璃玖が“もとの世界”の記憶が薄れはじめていることに気づいてしまったからだ。


 目の前にある世界に記憶が圧倒されていることも、璃玖が“もとの世界”に帰れることも、嘘ではない。だが、後者については完全な真実ともいいがたく、いまさら何をと自嘲しながらも、ベルトホルトは良心に責め苛まれる。


 何より、これ以上璃玖に不安や苦悩を与えたくはなかった。こぶしを握る姿や掠れた声、憂いに沈んだ瞳が、ベルトホルトの胸を搔き乱し搔きむしる。


 ――もうひとつの理由は、フルーが予想以上に璃玖に懐いてしまったことである。


 ウスバニジヤモリは生来穏和で物怖じしない生き物だが、まさか一日であれほど懐くとは……。


 璃玖に魔蒼玉を装着したあとは、自分がフルーの世話をしようと思っていたが、あれほど懐いている飼い主に会えなくなったら、フルーは大きな打撃を受けるだろう。ともすれば体を壊してしまうかもしれない。


 そこで、ベルトホルトは自分の思考に驚いた。いままで、獣人以外の生き物の身をこれほど案じたことはない。――いや、獣人の友といっても過言ではない、竜や小竜については例外だが。自分も璃玖に大いに感化されているのかもしれない。そう思うとささやかな喜びもまた湧いてきたが、すぐにその喜びもフルーにまつわる心配も振り払った。少なくとも、振り払おうとした。


 自分はこのディーゲルヘンの地の領主だ。領民を守り、土地を栄えさせなければならないのだ。いくら璃玖と強い絆で結ばれているからといって、ウスバニジヤモリ一匹にかかずらっている暇などない――。

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