第1話 自分のお葬式

「粗茶ですが」

応接間に案内されたまゆに、ミトリと名乗った少年がお茶を出してくれた。

(あったかい)

まゆはホッとして湯呑みに口をつけ、次の瞬間盛大に吹き出した。

「ゴホゴホ、何これ!マズ!!」

「粗茶だって言ったじゃないですか」


「そういうのって謙遜でしょ!本当に不味いことないから」

勢いよく突っ込んだまゆを、ミトリはニコニコして見つめる。

「ちゃんと怒れてよかったです」

「え……」

「誰にもぶつけられない気持ちを抱えていたように見えたので」

図星をつかれたような気がして、まゆの顔が赤くなった。


「改めまして」

まゆの正面に座ったミトリが名刺を差し出した。

「本当に葬儀屋さんなのね」

「子供に見えますか?僕はこう見えても18歳です」

「年上!」


ミトリはまゆの一個上だった。確かにいい身なりはしているが、到底大人には見えない。

「高校に行かず、家業を継ぎました。社会人は、お金があっていいですよ。我慢しなきゃいけないことがウンと減ります」

家の経済状況のために、自分の気持ちを押し殺していたまゆにその言葉は響いた。


「ボサボサの髪を綺麗にするシャンプーとか、そばかすを隠すための化粧品も買えます」

「なっ」

(こいつKYってやつだ)

かなり前に流行った言葉。K=空気、Y=読まない。いつも空気を読んで言葉を飲み込んでしまうまゆとは、正反対の男だった。


「自分に余裕ができると、人は優しくなれるんです」

そう言って笑うミトリを、まゆは訝しげな目で見つめた。

「疑ってますか?」

「当たり前でしょ!」

「じゃあ、試してみましょう」

「え?」


「言ったでしょう?ボクがあなたの葬儀を担当します、まゆさん」

そう呼びかけたミトリの背後に、カタギには見えない黒服の男が2人現れた。

「一回、死んでみましょう♪」

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