(15)敵同士手を組んで

 本当なら赤月はこの戦いの決着がついてから登場するつもりだった。

 モナミとジャスティス団の戦いは、ジャスティス団が勝つと赤月は予想していた。

 しかしモナミもこれまでボンバー団とジャスティス団双方と敵対しながら生き残っている。

 蛭馬といえど無傷では済まないと踏んで、勝利しつつも弱ったところを襲撃する寸法だった。

 それが蛭馬と将吾があっさり退場するものだから、今度はモナミが無傷で勝利する予想が立った。

 無傷のモナミを相手するより、さっさとモナミを倒し、蛭馬と将吾が目を覚ます前にジャスティス団を蹴散らす。

 それが公園を奪う一番確率の高い手段と踏んだ。

「エマージェンシーコール!」

 蒼沫は高々と宣言した。

 蒼沫とボーラインの体力値を合計して二一〇。

 赤月とキャリー、二人が加わったので二〇加算。

 合計して二三〇の体力値を蒼沫、ボーライン、赤月、キャリーの四人で共有する。

 計算を終え、ゲーム再開。

 赤月とキャリーは前衛エリアについた。

 次の攻撃権はこちらにある。

 ボールがジャスティス団のフィールド上空に落ちてくる。

「斬れるパンチ!」

 蒼沫の攻撃。刃付きグローブでボールを殴る。

 怪鳥の片翼が分裂し、ハヤブサとなってボールを弾き落とす。

 ボールが盤面につく前に前にハヤブサは再び怪鳥とひとつになる。

 怪鳥は素早く攻撃態勢を取り、バウンドするボールを巨大な翼で打った。

「トビの翼」

 モナミの攻撃。ボールは竜巻となって蒼沫に迫った。

「はっ? こんなのどうやって……」

 防ぐんだ、と言い終わる前に蒼沫は回転しながら空へ舞い上がった。

 目が回る……落ちる。

 逆さになって落ちる寸前、蒼沫は足首を掴まれ宙吊りになった。

「あの竜巻攻撃はねぇ、防ぐのは難しいの。当たれば宙に飛ばされて、着地に失敗したらダメージを受けるんよ」

 空を飛べるキャリーに救われた。

 きちんと着地するか、こうして味方に受け止められれば攻撃は無効となるらしい。

 こちらのターン。ボールはジャスティス団のフィールド上空に落ちてきた。

「花火爆弾!」

 赤月の攻撃。花火爆弾をボールにぶつける。

 ボールは火花を散らしモナミに迫る。

 モナミは素早く翼を振り、最初に見せたそれと同じく風圧で攻撃をかき消した。

「花火爆弾は当たれば強力だが、飛ぶ威力はそんなでもないんだなあ」

 慣れない武器に赤月は不満を漏らす。

「ハヤブサの翼」

 次のモナミの攻撃はキャリーを狙った。

 トビの翼よりも鋭い竜巻攻撃にキャリーも宙へ飛ばされたが、元々空を飛べるキャリーにその攻撃は通用しなかった。

 互いの攻撃が通用せず時が過ぎる。

 モナミにとって有利な流れだ。

 空の暗雲がいっそう濃くなり風が強くなった。リセットが近い。

「思い付いた! 蒼沫、これを打て!」

 赤月がトスを上げる。

 火花を散らしてうち上がるボールを蒼沫はやけくそで殴った。

「斬れる花火爆弾!」

 蒼沫の攻撃。モナミは風圧を飛ばしたが、これまでと違いかき消せない。

 ボールはモナミに直撃して爆発した。五〇ダメージ。

 ようやく攻撃が通った、と喜びたいところだが、四人分の体力値を持つモナミはまだ三三〇もの体力値を残している。

 モナミは立ち込める煙を羽ばたいてかき消した。

 続けて翼をはためかせ、宙に浮かぶ。

 フィールドに風が吹き荒んだ。

「怪鳥の翼」

 モナミの攻撃。落ちてくるボールを吹き飛ばす。

 ボールはフィールドを埋め尽くす竜巻となり、赤月、蒼沫、キャリー、ボーラインを空高く舞い上げた。

「ちゃんと着地すればダメージ受けないから!」

 風車を振り回し、いち早く宙で体勢を立て直したキャリーが声をあげる。

 簡単に無理を言う。

 人の世であれば落ちれば確実に死ぬ高さまで飛ばされて、おまけにぐるぐる回されて視界が定まらない。

 キャリーのサポートがなければ蒼沫とボーラインは墜落する。

 赤月は一番高く飛ばされて、逆さまになった状態でフィールドを見下ろした。

 赤月にはマガトが取り憑いている。

 歴戦の駒であるマガトは宙に飛ばされても冷静に状況を把握できた。

 怪鳥となったモナミがこちらまで飛んできて、まずは一番厄介だろうキャリーを蹴り落とした。

 キャリーはすぐ下にいた蒼沫に激突して、二人揃って盤面に墜落した。

 飛行師モナミは宙で与えるダメージが増加する。

 キャリーに直接攻撃を加えたことで三〇ダメージ。

 墜落させたことでプラス六〇……蒼沫も墜落したからさらに六〇ダメージ。

「合計して……一気に一五〇ダメージっ?」

『落ち着け』

 慌てる赤月をマガトの霊が諌める。

 竜巻が消えて、ようやく上昇が止まった。

 ボーラインを狙うモナミに向かって赤月は花火爆弾を投げつける。

 命中。爆風でモナミは一瞬飛行力を失った。

 だが墜落することなく、赤月に狙いを定めて上昇する。

 赤月とボーラインも落下を始めている。

 ボーラインはキャリーが受け止めてくれるだろう。

 赤月は落下しながらもう一度花火爆弾を複数投げつけた。

 怪鳥の巨体ではかわせないはずだったが、モナミは本体と三羽の鳥に分裂して全てかわした。

 モナミ本体と赤月が空中でぶつかり合う。

 くちばしが腹に突き刺さる。三〇ダメージ。

 ジャスティス団の体力値は残り五〇。

 上を取られた。

 空中戦ではとてもじゃないが勝てそうにない。

「トドメ」

 とモナミは鉤爪のついた足を振り上げた。

 蹴り落とされると思ったその瞬間……ダミ声と共に懐から顔を出したアキトラがモナミの足に噛みついた。

 アキトラが首を降りモナミの体を真下へブン回す。

 赤月と態勢が入れ替わった。

「トドメだ」

 それは赤月かマガトの声だったか……。

「打ち落とし花火!」

 振り下ろした拳と共に花火爆弾をぶつける。

 大きな花火と共に墜落したモナミはこのとき気絶した。

 落下するモナミの下には蒼沫が拳を上げて待ち構えていた。

 気絶状態……このとき攻撃を受けると体力値を全て失う。

 仰向けに落ちていくモナミの背に蒼沫の拳が刺さる。

 モナミは最後に一際大きく長い断末魔をあげ、尻すぼみとなった声が耐えると同時に力なく崩れ落ちた。

 決着。

 ギャラリーが歓声をあげている間に赤月たちは倒れている蛭馬、将吾、モナミをせっせと運び、自分たちもフィールドから出た。

 盤面に沈んだ柱が回転しながら、静かな摩擦の音を立てて浮かび上がる。

 それに合わせて暗雲が晴れていく。

 柱がすっかり元の高さに上がったと同時にゲーム盤の揺れも収まった。

「あぶねースイッチもあったもんだ。こんなでかでかと」

 蒼沫は柱を見上げてぼやいた。

「リセットされた方が、この公園にとってはよかったかもしれんよ」

 と赤月。

 カバとウマに乗ってボンバー団が現れる。

 セーラと逢魔が数十人の子分を引き連れて柱を取り囲んだ。

 大衆に紛れていた子分も含めれば、この場にいるジャスティス団や大衆を優に越える数だ。

 子分たちは獲物を前にした獣のようにギラついた目をしている。

「大事な戦いに遅れちまったと見える」

「でも、最後の戦いには間に合ったよね、うふふ」

 逢魔とセーラが赤月に手を振った。

 赤月はそれに答えて手を上げて、小さな花火爆弾を鳴らして注目を集めた。

「この場はボンバー団が制圧する。十秒以内にこのゲーム盤から出ていく者だけ見逃してやる!」

 赤月の声を聞いてすぐに動けた駒はいない。

「逃がす気ないだろ。モナミだってもっと時間くれたぞ」

 蒼沫は憎らしげに赤月を睨む。

「逃げれば追いはしない」

 赤月の言葉を聞いてようやく大衆が逃げ出した。

 子分たちは不満げにしていたが、赤月はこのまま襲撃してジャスティス団と大衆を相手にするより、抵抗する駒を減らした方が目的を達成しやすいと判断した。

「蒼沫も逃げればいいのに。レイスマを取り戻すのは諦めるがよい」

「それは諦めてもいい」

「えっ、本当?」

 蒼沫の返答が意外で思わず聞き返す。

「だがこの公園はボンバー団には渡さない」

「……蒼沫、そんな質だっけ?」

「別に、俺自身は公園を守りたいと思っちゃいない。だが、そうしたいと言うやつが仲間にいた。そいつの分くらい抵抗させてもらう」

 ジャスティス団の多くは蒼沫と共に戦う気概を見せた。

「成長したね……でもそれじゃ僕が悪者になる! なに成長してくれてんだ!」

 思ったままを素直に口にする赤月。

「今更気付くな。お前は最初から悪事を働いてる!」

 とっくに十秒以上経過していた。

「やれっ!」

 逢魔が親分を差し置いて指示を出し、ボンバー団とジャスティス団がぶつかり合う。

 所々で遊技闘のフィールドが出現し、近くにいた駒とパーティが組まれ、勝手に勝負が始まった。

 赤月と蒼沫の周りにも自然と仲間が集まり、それらを囲むようにフィールドが作られた。

 最早言葉はいらない。最後の戦いに勝つだけだ。


 勝負開始!


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盤上のメルヘン 第二幕 盗賊と格闘家の章 行條 枝葉 @yukieda

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