(5)強襲
暗闇エリアを走り抜け、自然エリアに近付くにつれ空が白んでいく。
マガトは小高い山の上にある高台の展望台を示した。
「あそこから自然エリア周辺は監視されている。つまり俺たちの動きはバレている。相手は十分に体勢を整えているぞ」
赤月は頷いた。
「奇襲は出来ないってことだね」
ジャスティス団の本拠地もその小高い山の上にあり、到達するために渦巻き状の坂道を昇る必要がある。
一本道で迷うことはないが、途中で丸太を詰んだバリケードに道を塞がれていた。
マガトが操縦者を押し退けて前に出て、前方に向かってロケット花火を放った。
色とりどりの花火が炸裂。
丸太は粉々になって道は開かれた。
大量の煙が流れて消えて、焼け焦げた跡だけが残されている。
公園で破壊された遊具の話しを思い出す。
(犯人はお前か!)
赤月は心の中で叫んだ。
山の上から石やら弓矢、ゴミなんかが落ちてきて進路を妨害する。
「キャリー!」
「あいあい!」
呼ばれてクマの頭上に降り立ったキャリーが、マガトの手を掴んで再び飛び上がった。
山上で爆発音と花火があがり、それからジャスティス団らしき駒が十何人と転がり落ちてきた。
これにより落下物による妨害は止まった。
仕事を終えたマガトは元居た場所に降り立った。
「人間そっちのけで大活躍だね。駒の方が強いんじゃないの?」
とぼやく赤月にマガトが答える。
「そうではない。駒の中でも俺が特別強いのさ。俺に太刀打ちできるのはこの盤上ではジャスティス団のトップくらいだ。だからお前らには、それ以外の取り巻きを蹴散らすくらいの活躍は期待している」
「そうかい」
思ったより期待されていないことは赤月には不満でもあったし荷が軽くなった思いもした。
ジャスティス団の進行妨害によりボンバー団は十人ほどは脱落した。
が、大きな戦力は欠けることなく展望台に到着した。
展望台は野球が出来るくらいには広い。
そして百人はくだらない数のジャスティス団が万全の態勢で待ち受けていた。
近くに建っている五階建ての東屋からまだぞろぞろと現れる。
およそ百対百のグループが敵対して向かい合った。
合戦でも始まりそうな雰囲気だ。
「盤上では平和的に遊技闘でケリ付けるんだよね? まさか大乱闘なんてしないだろ?」
と赤月はマガトに確認した。
マガトはボンバー団全員に、
「掛かれー!」
と号令を出し、赤月の問いに答えた。
「迎え撃てー!」
ジャスティス団のリーダーも声をあげる。
互いの団員が雄叫びと共にぶつかり合い、展望台は戦場となった。
蹴り合い殴り合いなど優しい方。
剣で斬ったり鈍器で殴ったり、銃で撃ったり魔法で燃やしたり……剣と魔法の大乱闘が始まった。
動物たちは展望台の出入り口に固まって逃げ場を塞いだ。
「話しが違う!」
クマの上で赤月は喚いた。
「セーラ、逢魔、お前らが連れてきた人間は使えないな!」
花火爆弾を撒き散らしながらマガトが叫ぶ。
役に立たねばレイスマが手に入らない。
赤月より早くそれを察した蒼沫はクマから降りて乱闘に加わった。
セーラが戦場から飛び上がり、赤月のそばに着地する。
「あのねえ、確かに最後は遊技闘で決着を付けるんだけど、その前にこの合戦を制する必要があるの。これだけの人数全員と遊技闘なんてやってられないでしょ? 代表を決めるまでその数を減らすのよ」
「言われてみればそうだ」
「わかったならお行きなさい」
うふっと笑って、セーラは赤月を戦場へ突き落とした。
ジャスティス団は光線銃やら電撃を放つ剣やら魔法の杖やらと、やたら高性能な武器を持っていた。
赤月は頭を撃たれ背中を斬られ足を打たれてすっ転んだ。
「いてっ……!」
いや、痛みはない。
だけれど衝撃はある。
何度もくらっては気を失いそうだ。
一人の駒が、アキトラを目掛けて槍を振り下ろした。
赤月は咄嗟に転がってかわす。
急激に敵意が沸いて、立ち上がると同時にアキトラを振り回した。
アキトラは短い手足を振り回して敵を攻撃。
引っ掻いたり噛みついたりしてジャスティス団を蹴散らした。
駒って弱い。
こんなに好戦的なのに、攻撃は痛くないし簡単に倒せる。
しかし駒自身も痛みを感じていないのか、倒しても倒しても起き上がる。
「倒すのではない。突き落とすのだ」
赤月が倒した駒に向かって、サージャンがでかい腹で突進する。
三人まとめて展望台から突き落とした。
「うわっ、やり過ぎ!」
驚く赤月にサージャンはため息をつく。
「何を今さら……駒がこれくらいでどうにかなるものではないことを知らないのか?」
展望台を見下ろすと、突き落とされた駒たちが元気に立ち上がって山を駆け上がるのが見えた。
しかし入り口で立ち塞がる動物たちに妨害されて戻ってこれない。
「そうか、完全には倒せなくてもここから落とせば脱落させられるんだ」
「その通り、そしてボンバー団が落とされた場合はあのように、キャリーが回収してくれる。ジャスティス団の数は減り、ボンバー団のみ復活する」
サージャンの言った通りの光景が見えた。
「この作戦は私とキャリーで立てたのだ」
とサージャンは胸を張った。
「平気だとわかっていてもここから落とすのは心が痛むな」
「お前さんの相方はそんな弱音など吐かずに誰よりも突き落としておるぞ」
蒼沫は敵の攻撃をとことんかわし、他の誰かに倒された敵を淡々と展望台から投げ落としていた。
「アイツは元々心があったかも怪しい……」
そうは言っても働かない訳にもいかず、赤月も動いた。
「ジャスティス団のボスにはまだ手を出すな! 奴だけは遊技闘で決着を付けねばならん!」
サージャンの言葉に頷いて、赤月は思うままに暴れた。
やはりこれはゲーム。
罪悪感もすぐ消える。
ボンバー団は確実にジャスティス団の数を減らしていた。
強化アイテムを使う分、大半のジャスティス団よりも強い。
しかしジャスティス団の中にはどうしても倒せない駒も少なからずいた。
そういった駒に共通するのは黒い電流がほとばしる武器を持っていること。
あれもワッペンのように駒を強くするアイテムなのかもしれない。
ボンバー団が展望台を制圧しかけたころ、不意に赤月は上空から肩を掴まれ宙に浮かんだ。
キャリーに運ばれて展望台の真ん中に落とされる。
そこでは遊技闘の準備が整われていて、すでに蒼沫、マガト、セーラ、サージャンが揃っていた。
それと名前の知らない仲間が三人。
ジャスティス団の方もパーティを揃えて待ち構えていた。
トップは蛭馬、という名前だったか。
フィールドの真ん中で堂々と立っている駒がそうだ。
黒い軍服姿。
同じく黒い軍帽とマスクの隙間から覗く尊大な目が威厳を醸し出している。
武器は元帥杖。
役職は【司令官】とある。
赤月は人の世で感じた恐怖を思い出した。
年上の不良に睨まれたときも同じように震えたものだ。
蛭馬という駒からその不良と同じ恐怖を感じた。
マガトにも同じ怖さは感じるけれど、人間の方が強いという思い込みが恐怖を薄れさせていた。
この蛭馬という駒は、その恐怖を思い出させる。
二頭身でまるっこいのに、かわいいと言う気にならない。
落ち着け。
ここはゲームの世界。
殴られても痛みはない……自分にそう言い聞かせ、赤月はアキトラを抱き締める。
「散々暗闇に閉じこもっていた臆病者が、ここまで来るとは勇気を出したじゃねえか」
威圧と挑発と侮蔑を混ぜっかえした言葉が蛭馬から送られた。
「ぬかせ。お山の大将」
マガトも言い返すが、あまり返せていない。
空から鳥の鳴き声が響く。
大きな鳥が上空を旋回している。
「親分、私はあの鳥追い払ってくるねえ。逢魔と一緒にぃ」
キャリーは逢魔の手を掴んで空へ浮かんだ。
逢魔がマジックハンドを振り回しトビを威嚇する。
「え、鳥さんいじめるの?」
赤月がたずねる。
作り物ならいいが、本物なら動物を攻撃するのは胸が痛む。
「あの鳥も敵だからね。ジャスティス団とは別のね。うふふ」
セーラが答える。
逢魔が連れていかれた理由は、赤月と同じ【盗賊】の役職を持つから。
ひとつのパーティに同じ役職の駒は組めないという決まりがある。
ルールに則りそれぞれが配置につく。
赤月と蒼沫が前衛に立ち、マガトとセーラは後衛に立つ。
サージャンと他三人は控えエリアで待機。
ジャスティス団の方は【司令官】である蛭馬と【弓兵】のモヤイは後衛。
【魔法使い】ボーラインと【盾兵】マーリンが前衛。
蛭馬以外のその三人は、ちょっと前まで蒼沫とパーティを組んでいた三人だ。
「蒼沫、よもやと思っていたが、こんな形で再会するとは残念だ!」
ボーラインが声をあげる。
蒼沫は悪びれもしない。
「お前らがジャスティス団に入らなければこんな再会はなかったんじゃね?」
「否、お前がボンバー団に入らなければこんな再会はなかった」
「向こうが正しい!」
赤月が勝手に裁定を下す。
「連中は強いのかな?」
赤月の問いに蒼沫は答える。
「チームワークはある。それよりも赤月、遊技闘のルールはわかってるよな?」
蒼沫の質問はとんでもないものだった。
遊技闘ならこれまで何度もやって来た。
「僕の記憶力をどこまで疑ってるんだ? 武器でボールを打って相手にぶつけて倒す。ほら完璧だろ!」
「完璧にはほど遠い説明だけど、人の世の遊技闘と盤上の遊技闘ではルールが違うんだ。盤上のルールは知ってるのか?」
「大丈夫……のはず」
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