(6)盤上のルール
遊技闘にはふたつのルールがある。
ひとつは競技の基本となる人の世向けのルール。
もうひとつは基本のルールに加えて、駒の持つ役職が大きな意味を持つ盤上のルール。
盤上に降り立つとき、ワイオアルユに貰った説明書に書いてあった。
【格闘家(蒼沫)】……直接攻撃によるダメージに一〇加算される。
【海賊(セーラ)】……味方の賊とついた役職の駒は相手の陣地の前衛エリアまで乗り込んで攻撃できる。
こんな風に、役職にはそれぞれゲーム中に活かせる能力がある。
【盗賊(赤月)】……自分が倒した相手の武器を盗み取り使用できる。
【爆弾魔(マガト)】……爆弾武器使用時のみ、ボール攻撃をヒットさせた場合、周囲の駒にも一〇ダメージを与える。
味方の役職と能力を把握することも大事だが、敵の情報も同じくらい大事だ。
赤月はポケットから説明書を取り出してページを捲る。
【弓兵(モヤイ)】……後援エリアの敵にボール攻撃を当てたとき、自分が前衛エリアにいた場合はダメージを一〇追加。後援エリアにいた場合は二〇追加する。
【魔法使い(ボーライン)】……魔法攻撃を打てる。最初の一回は条件なし。二回目以降は体力値を二〇消費して打つ。
魔法攻撃は当たれば五〇ダメージ。
防御しても二〇ダメージを受ける。
【盾兵(マーリン)】……相手の攻撃を盾で防いだ場合、その攻撃による職務を無効にする。
【司令官(蛭馬)】……??
司令官の能力の説明は載ってない。
説明書に書かれていないのはレアな役職だと書かれている。
どんな能力かは実際に見て知れということだ。
赤月はこれらの情報を頭に叩き込んだ。
「お喋りは終わりだ! ゲームを始めるぞ!」
マガトの号令によりフィールドの上空にボールが現れた。
勝負開始。
やはり基本は武器でボールを打って相手に当てて倒すゲーム。
ボールが矢となって飛ぶモヤイの攻撃。
セーラの曲がる攻撃。
ボーラインの光る魔法攻撃。
蒼沫の殴ったボールがマーリンの盾を弾き飛ばした。
ダメージこそ与えられなかったがその威力に敵も味方も驚いた。
「これが強化アイテムの力かよ!」
「そして人間の力だな」
蒼沫とマガトが言葉を交わす。
マガトの攻撃は火のついた花火をボールに当てる。
ボールは火花を散らして相手のフィールドで爆発した。
派手で煙い。
再びボーラインの魔法攻撃。
魔法攻撃は厄介だ。
防御しようともダメージを受ける。
マガトが光るボールに花火爆弾を当てて弾き落とした。
「魔法攻撃は当たる前に叩き落とすんだ。武器でもなんでも投げつけてな」
なるほど参考になる。
しかし無理だ、と赤月は考える。
アキトラを投げるくらいなら蒼沫を盾にする。
赤月の攻撃。
「怪獣パンチ!」
赤月はぬいぐるみを振り回してボールを打った。
ボールは駒と同じくらいの大きさの四つ足の怪獣となり、マーリンに迫り短い前足を叩きつけた。
マーリンに五〇ダメージ。
次の瞬間怪獣は消え、赤月は強烈な疲労感に襲われ膝をついた。
あんな攻撃打ったの初めてだ。
それにこんなに疲れるのも。
「強力すぎる武器を使うと駒は疲労状態となりしばらく動けなくなる」
「しかも、強化アイテムのおかげでその武器はさらに強力になってるしね、うふ」
マガトとセーラが解説する。
蒼沫が邪魔臭そうに赤月を見下ろす。
「こいつ攻撃する度にこんな風に動けなくなるの?」
「少し休めば回復する。それまで守ってやれ」
「やだ」
マガトの命令に小声で答える蒼沫の声が聞こえた。
その後もゲームは進む。
ボンバー団は攻撃毎にダメージを与え、ジャスティス団を追い詰めた。
二ターンほど休み、嘘みたいに疲れが取れた赤月は立ち上がった。
これまでの攻防を見て気づいた。
ジャスティス団は本気でパーティを作っていない。
モヤイ、ボーライン、マーリンの三人はついさっきまで蒼沫と組んでいたのだからジャスティス団としては新入りだろう。
弱いとは言わないが今のボンバー団の敵じゃない。
さらなる攻防の末、三人を外野に送る。
ジャスティス団のフィールドには蛭馬だけが残された。
「上出来とは言えないが、ご苦労だった」
外野に送られた三人に蛭馬が労いの言葉を送る。
続いて宣言した。
「エマージェンシーコールを発動する」
遊技闘では、フィールドに立つ駒が二人以上脱落すると控えエリアの駒を補充できる。
その際「エマージェンシーコール」と宣言するのだ。
控えエリアで待機していた駒はたった一人。
黒い道着を着て、怒りに燃えた目をした【狂戦士】将吾がフィールドに入った。
「あ、アイツ見覚えある」
蒼沫が気づく。
「強いの?」
「強いっつーかクレイジー」
セーラの問いに答える。
赤月は素早く説明書を確認する。
【狂戦士(将吾)】……手で持てるものを武器として扱う。駒を武器としているときは相手フィールドに乗り込んで攻撃できる。
強いのかどうかわからない。
狂戦士の能力はともかく、将吾自身はかなり強そうだ。
「こいつは俺が直々にスカウトした駒だ。ジャスティス団に必要な強さを持っている。よく見ておけ」
蛭馬は外野の三人に再び声をかけた。
三人はもちろん、ボンバー団の面々も気を引き締めた。
勝負再開。
大半の駒がボールに注目している中、蛭馬と将吾はそれを全く無視して動いた。
二人同時にこちらに向かって突進してくる。
いち早くそれに気付いたマガトが花火爆弾を撃つ。
二人は飛び上がってそれをかわす。
花火爆弾は盤面に落ちて爆発した。
飛び上がった二人は宙で互いの手首を掴み、こちらの陣地、蒼沫の目の前に着地した。
蒼沫は素早く拳を突き出した。
それ以上に速く蛭馬の蹴りが入り、蒼沫はフィールドの奥へ吹っ飛んだ。
振り回す将吾。
振り回される蛭馬。
「バーサーカーダンスだ!」
観客の誰かが技名を叫んだ。
「ネーミングがダ……!」
言い切る前に赤月は蹴り飛ばされた。
ひと振り毎にボンバー団の誰かが吹き飛んだ。
これまでほとんど無傷だったパーティの体力値があっという間に削られていく。
ダメージの計算が追い付かない。
余りにも衝撃が強く、痛みすら感じる。
「撤退だ!」
逢魔の声を聞いた。
敗北を悟ったボンバー団は動物を置いて山を駆け降り逃げていく。
戦いの決着がつく頃には乱闘や観戦していたボンバー団はみんな逃げ去っていた。
勝負が着いたとき、マガトもセーラも蒼沫もみんな横たわっていた。
その光景を最後に赤月は意識を失った。
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