第30話 アスカトール

 開始と同時に鋭い横薙ぎを放つローゼフ。

 俺はそれを剣で受け止める。


「今の一撃を止めやがった!」


「やるぞ、あの狩人!」


 騎士達が騒ぎ始める。


「ちっ。もっと速度上げるぞ」


 ローゼフはさらに剣速を上げながら連撃を放つ。

 まあ、中々かな。

 俺はその連撃を全て真っ向から受け止める。


「あいつ……うちでも通用するぞ」


「レイル、さっさとやっちゃいなさいよ!」


 ソフィアが好き勝手言っている。

 誰のせいで戦っていると思っているんだ。

 あまり剣戟が長引いても、面倒だ。

 勝つのは余裕だが……そろそろ負けるか。


「おい、レイル! 解体もせず、何してんだ!」


 ベン爺の怒鳴り声が聞こえる。

 まずっ、解体まだ終わってなかった!

 俺は振り上げの一撃で、ローゼフの剣を弾き飛ばして強制的に試合を終わらせた。


「すまない、仕事だ」


 俺はそう言うと、剣をアスカトールに投げて返す。


「おいおい……ローゼフが負けたぞ」


「流石にまぐれでしょ」


「何者だよあいつ」


 ざわめく中、俺は逃げるようにその場を去った。

 ベン爺に叱られた後、俺は解体を終え酒場に肉を卸し家に戻る。

 すると家の前にアスカトールが立っていた。


「さっきは良い戦いだったよ」


「どうも」


 俺は軽く頭を下げる。


「明らかに君の腕は村人のレベルではない。君は何者だ?」


 剣の柄に手を当てながら、鋭い表情でアスカトールはそう言った。

 やはりその件か……。

 副団長クラスなら、俺が手加減していたことに気付いてもおかしくはない。

 模擬戦を受けるべきじゃなかったな。

 どう言い訳するか考えていると、家の扉が開く。


「うちの孫がどうかしましたかな?」


 そう言ったのはクリフさんだ。


「お爺様ですか。お孫さんがたいそう強いもので理由を聞いていたのですよ」


 アスカトールは笑顔でそう返した。


「うちは私も、この子の両親も冒険者でね。昔から英才教育を施していたのですよ。まさか騎士様と少しでも戦えるほどになるとは。自慢の孫です」


「なるほど。ちなみに御両親もお強いのでしょう。ランクはどれくらいですか?」


「二人ともオリハルコン級です」


「なるほど。それが理由ですか。素晴らしい教育です。うちの騎士達にもその秘訣を教えて欲しいくらいですな」


 アスカトールはそう言うと、剣の柄から手を放した。


「まさか。騎士様に教えるほどの実力はありません。帰るぞ、レイル」


 そう言って、クリフさんは家の中に入っていった。


「はい」


 俺はアスカトールの前を通り、家に戻ろうとノブに手を当てる。

 次の瞬間、アスカトールは剣を抜刀し俺の首を狙い一閃を放った。

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