物足りない妻
私の夫はとても優しい。思いやりもあって、私が体調不良で寝ている時は家事全般を担ってくれるし、日々の感謝も欠かさない人だ。
でもね、彼って優しいだけの人なのよ。
私は常に彼に物足りなさを感じていて、だからスリルをあの人に求めたの。
彼……ライは、私の勤める会社の取引先の人だった。
私はその端正な顔つきと、スマートな物腰、女慣れしたエスコートっぷりにすぐに夢中になった。
彼と会う時間は、『残業』や『休日出勤』という体で捻出した。時には営業の途中に彼と落ち合って逢瀬を重ねる事もあった。
何もかもが刺激的で楽しかった。
あちらの方も、ライは夫とは違ってとても魅力的だった。
夫は優しいだけの行為をするけど、ライは時に荒々しく、そして情熱的だった。
そんなある日、私はライの子を妊娠した。夫とは久しくしていなかったから、確実にこの子はライの子だわ。
私はライに結婚を迫った。独身だったライは、それを受け入れてくれた。だから私は夫に離婚を切り出した。
「好きな人が出来たの。別れてちょうだい」
優しい彼は私の意志を尊重してくれた。あっけない離婚劇。あっけなかった七年間の結婚生活。
ライとの結婚生活は、思っていたのとは違った。彼は飲み歩く事や女遊びをやめなかったのだ。
「お前だって俺と不倫していただろう? だから俺が外に女を作っても何も文句は言えないよな?」
何ていう暴論なの。酷いわ!
私は優しいだけだった元夫が恋しくなった。彼は浮気もしないし夜飲み歩く事もせずに仕事が終わったら真っ直ぐに帰宅してくれた。
だから私は彼にLINUを送った。
『今の夫が酷い男だったの。助けて』
きっと彼は私を助けてくれる。そう思った。だって私のお腹の中には小さな命だって宿っているのよ?
『君とはもう関わりたくない』
予想外の返事が来た。
ちょっと待ってよ。あなた、私にぞっこんだったじゃない!? どうしてこんな酷い返信が出来るの!?
『ちょっと待ってよ。私と子供に野垂れ死ねとでも言うの!?』
しばらくしたら返信が来た。
『僕は僕を裏切った君をもう愛せない。お腹の子供も僕の子供じゃない。僕はもう君を愛していない』
優しいだけの男のくせに! 常に私に物足りなさを感じさせていたくせに!
でも……ライは家事もしないし私が体調不良でも何もアクションを起こしてくれない。いたわりの言葉すらかけてくれない。
ああ……優しいだけの元夫が恋しい。彼の優しさのありがたみが、今更になって身に染みる……。
私とこの子は、これからどうなってしまうのかしら……。
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