第6話 デイリーミッションの限界

 ペナルティダンジョンから戻って数日。

 神谷蓮は病室で、淡々と一日を繰り返していた。

 ただ一つ変わったことがあるとすれば、システムに課せられた「デイリーミッション」だけは欠かさず続けていることだ。


――もう、あんな恐怖を二度と味わいたくない。


 その思いだけが、彼を突き動かしていた。



【デイリーミッション】

・腕立て伏せ ×100

・ランニング ×50km

・スクワット ×100

・腹筋 ×100



 一日目。

 規定通りの回数をこなし、蓮は汗にまみれてベッドへと腰を下ろした。

 息が荒く、体中が重い。だが達成感と共に、確かに力がついていく感覚があった。


 その瞬間、視界にシステムウィンドウが浮かび上がる。


【レベルアップ】


「……やっぱり、上がった」


 確認すると、レベルはすでに3へ到達していた。


 疲労感に包まれながら、そのまま眠りに落ちる。



 翌日。

 午前0時を過ぎた瞬間、再びウィンドウが表示された。


【デイリーミッション達成】

報酬を選択してください。

①ランダムアイテム

②全回復


「……もちろん、ランダムアイテムだな」


 選んだ途端、光が収束し、一本の短剣が姿を現した。

 刃は鈍くもなく、むしろ市販品よりも均整が取れている。


【精錬された鉄製の短剣】

市販の短剣よりも切れ味が鋭く、耐久性に優れる。

初心者にとって信頼できる実戦向きの武器。


「……! これ、マーケットで買った短剣よりも、確実に上じゃないか」


 試しに軽く構えてみると、手にしっくり馴染む感覚があった。

 思わず口元が緩む。


「こんなものまで出るのか……」


 短剣をストレージに収めると、安心感に包まれ、疲労感のまま眠りについた。



 二日目。

 ふと、蓮の脳裏に疑問がよぎる。


「規定以上やったら……どうなるんだ?」


 試しに腕立て伏せを百一回目までやってみる。


【腕立て伏せ 101/100】


 数値は確かに増えていた。

 さらに百二、百三と繰り返す。


「……やっぱり伸びるんだ」


 スクワットも腹筋も同様だった。だが、上限が存在し、二百回を超えたところでカウントは停止する。


【腕立て伏せ 200/100】

※以降カウント停止


「なるほど、限界はあるのか」


 しかし、その努力は確かに実を結んだ。


【レベルアップ】

【レベルアップ】


「……二回!?」


 一気にレベル5へ到達。

 同時に、筋肉の疲労や擦り傷が一瞬で消えていく。


「……やっぱり、レベルアップの瞬間に体が全回復するんだな」


 逆に言えば、レベルが上がらなければ傷は残り続ける――その現実も知った。



 夕暮れ、二日目の達成通知が現れる。


【デイリーミッション達成】

報酬を選択してください。

①ランダムアイテム

②全回復


 蓮は迷わずランダムアイテムを選ぶ。

 手のひらに現れたのは小瓶だった。


【ヒールポーション】

摂取すると即座に全回復する。

使用回数:1回限り。使用後は消滅する。


「これは……切り札だな」


 安堵を覚えつつ、ベッドに身を沈める。

 そのまま深い眠りに落ちていった。



 同じ頃。

 夜の街では、ニュース番組が緊迫した声で速報を伝えていた。


《新宿御苑付近にて、新たにDランクゲートが発生しました。これに伴い、ギルド協会は攻略メンバーの追加編成を進めています》


 人混みの中、一人の女性の携帯が震える。

 画面には「ギルド協会本部」の文字。


 恐る恐る通話に応じた彼女の耳に、慎重で落ち着いた声が響いた。


『……小田桐さんですか? こちら、ギルド協会本部ですが——』


 小田桐美沙。

 二重ダンジョンを共に生還した彼女の表情は、どこか硬さを帯びていた。

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