第2話 Welcome,HELLo

目が覚める。

私は自宅の寝室にいた。

「知ってる天井だ。」

私の身体を確認する。

五体満足、どこにも傷跡はない。


「もしかして天国か?」

「地獄かもしれない」

ノワールだ。

「起きたかい?晩御飯にしようか。君はまだ、死んでない。」

変身中の傷は解除後には影響しない、『魔法少女』のルール。


知ってる、変身した時に頭に入ってきた。

そう思ったが口には出さなかった。

何かしら適用外があるのだろう。


「どういうことだ、あれは。死にかけたぞ。」

隣の襖の先のリビングに移動しながら問いかける。

リビングは不自然に物が少なく片付いていた。

「何か手違いがあったようだ。後で連絡して置こう。」

後ではなく、今やって欲しい。


「それと変身中は死なないが」

知ってる。

話半分程に聞き流し憂慮すべき点を考え台所へ移動する。

外が見えない。

見えるはずのベランダの手摺すら。


今何時なんどきでい?あとここは何処だい?家なのかい?」

怒涛の質問ラッシュをぶつける。

「今は19時28分。ここは私達の拠点、名前はまだ無い、家ではないね」

適切に質問に返してくる。


「君の記憶から作り出した。

今日はここでゆっくりしていくといい。」

人の記憶を読むことが出来るのか。

自宅が心配になり、また質問する。


「家は。母さんになんて言わなきゃ。」

「君の複製体を向かわせ。多分大丈夫だ。」

複製体、不穏な言葉を聞く。

「私がコピーと言う可能性は?」


少し間が空く。考えてなかったのだろう。

「いずれ分かるさ。」

笑って返された。

「自分が本物だと信じるしかないか。」

悩んだところで分からないなら分かるまで待つしかない。


それよりも先程からお腹の空く匂いがする。

「カレーか、夕飯は。」

「君の好物を選んだつもりだが、どうかな。」

「食ってみなけりゃ分からんよ。」

だが心の中では期待している。


いつものように食器棚から自分の色の皿を取る。

そしていつものように炊飯器を開け、中を確認する。

普通の見慣れた白米。今炊きあがったばかりのように熱を感じる。

お皿半分に盛りつける。

そしてカレーが入っているであろう鍋を開ける。


いつものカレーだ。

カレー用のカット野菜と豚コマ肉の家で食べるカレー。

これを皿ギリギリまでよそいリビングへ運ぶ。

ノワールも普通ぐらいに盛って運ぶ。

そしていつものように自分の色のスプーン、コップ、そして冷蔵庫からお茶を持ってきて準備が整う。


「いただきます。」

カレーを口に運ぶ。

いつもの甘口のカレーだ。

家族で食べるこだわりの無い美味しいカレー。

米も毎日食べる同じもの。

ここまで来ると逆に落ち着かない。

少しくらいの非日常感が欲しいと思ってしまった。


だが胃は、身体はもっと食いたいと訴えている。

その衝動に任せ、2,3回おかわりする。

いつもと変わらない。


「ご馳走様でした。美味しかったよ。

それはそれとして面白さは無かったけど。」

「ありがとう、そしてそれはこちらも同じだ。

君の戦い方はつまらない。」

それは一番分かっている。

私の『魔法』自体がつまらない。


「次はちょっとは改善するさ。練習したらもう少しは面白くなる。」

「期待しているよ。だけどつまらないままなら」

言葉を遮る。

「抹殺か?」

最悪を想定する。


「物わかりが良くて助かるよ。」

ノワールの『目的』が分からない。

それは頭に入って来ていない。


「なんか考えすぎても駄目な気がしてきた。」

多分、聞いてもはぐらかされそうな気がする。

ただの直感だけど。

こういう時にやるべきことは。


「魔法の練習が出来るとこって無い?出来れば広いとこ。」

『魔法』の使い心地を試しておきたい。

「後で造っておこう。ここは他に何も無い地下。

欲しい部屋があったら何でも造ってあげよう。」

地下、目覚めた時の会話を思い出す。

「地獄じゃねぇか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る