第18話 忍者とエッチ後屋の汗も滴る肉弾戦


 しばしのにらみ合いのあと、先に動いたのはエッチ後屋ごやであった。


「アイエエエエイッ!」


 そう叫声きょうせいを発すると、すさまじい勢いで青竜刀を振りおろす。

 空間さえも切り裂こうかという迫力に、半々蔵はんはんぞうもまた裂帛れっぱく気合きあいを発し、真正面からこれを受けた。


 火花を散らしながら、刀越しに両者はにらみ合う。

 半々蔵はんはんぞうがふっと力を抜いていなすと、頭部を横断せんばかりに一閃いっせん

 エッチ後屋ごやは身をよじってこれをかわすと、半々蔵はんはんぞうの腹部を蹴り飛ばす。


 少し離れた半々蔵はんはんぞうに斬りかかると、半々蔵はんはんぞうが応じてまたたきのあいだに数合斬り結ぶ。

 刀の残像と、金属のぶつかり合う戛然かつぜんたる音とがかぞえきれぬほどに生まれ、散ってゆく。

 一目いちもくして両者が達人の域に達していることがわかる応酬おうしゅうであった。


「す、すごい……!」


 そうもらしたおヒメであったが、ふと見ると、側近であるうっかり百八兵衛ひゃくはちべえがエッチ後屋ごやが受けとったらしい数珠じゅずをこすり合わせて念仏をとなえていることに気がついた。

 勝利を祈願きがんしているのであろうか……?

 おヒメがそちらへ気をとられていると、


「チイイッ!」


 という声が聞こえた。

 発したのはエッチ後屋ごやで、ひたいが切られ、ぬらりと血がたれている。

 対する半々蔵はんはんぞうは、腕の布が切れていたが、肉には達していないようである。


 おヒメは知らぬことであるが、忍術をつかうには手で印を結ぶことが必要となる。

 半々蔵はんはんぞうの手が動いた瞬間、させじとエッチ後屋ごやが斬りかかってこれをつぶすのであるが、それは半々蔵はんはんぞうのワナでひらりとかわしかれいに反撃してみせる。

 年若い半々蔵はんはんぞうでありながら、この手管てくだ老練ろうれん、といってよかった。


 手下の野盗どものように一撃で殺されないだけ、さすがエッチ後屋ごやとほめてやりたいところであったが、しかし徐々に半々蔵はんはんぞうが優勢となってきているのはおヒメから見ても明らかであった。


「数多くの人を殺した罪……つぐなってもらう」


 半々蔵はんはんぞうが改めて刀を構え、語気を強める。


「くっ……くくっ」


 苦悶くもんの表情を浮かべたあと、エッチ後屋ごやはうっかり百八兵衛ひゃくはちべえを視界にとらえ、うなずいたのを見ると笑いに代わった。


「嬢ちゃん……いいところにいてくれたなァ!」


 そうつぶやくや、自身の青竜刀を思いきり振りかぶって、投げた。


 ――青竜刀はおヒメにすさまじいスピードで飛んでゆく!


 おヒメはかたまってしまい、動けなかった。

 死――その言葉を浮かべるいとまさえなく、ただ眼前が真っ白にそまってゆく。


「おヒメどのッ!!」


 半々蔵はんはんぞうが超反応により飛びついたことで、ほんの髪の毛ひとすじほどの差で青竜刀はおヒメに直撃することなく、あらぬほうへと遠ざかっていった。


「しかし武器を投げるとは……勝負を捨てたか!」


 そうさけんでエッチ後屋ごやのほうを振りかえった半々蔵はんはんぞうであったが、そこで、想像だにしなかった光景を目撃することとなる――

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