第10話 忍者、胸もとを凝視する
おヒメが、姿を消した
「やっ、これはおヒメどの。勝手にあがってあいすまぬ」
と頭をさげる
「
ほおは
大つぶの汗がひとすじ、その豊かな丘をなぞって、消えた。
おヒメは、
「私を、私どもを救っておいてなにも言わずに消えるなどゆるしませぬ……。よかった、本当によかった……!」
うるんだひとみで、見あげた。
ゆるんだ胸もとが目に入りやすいよう、気づかれない程度に少し腰を引く。
おヒメは、この短い時間で、
いや、無意識に、好いていると自分に思い込ませようとしていた。
この村にこのまま住みつづけたところで、遠からず別の男どもに犯され、食料は最低限のもの以外うばわれ、集まりに参加すれば女衆になじられ、ときにはかげで
参加しなければ扱いはもっとひどいものとなる。
これが死ぬまでつづくと思っていた。
それがイヤだといって、そとの世界を、ものを知らぬ自分が、女ひとりで村を出たところで野盗のなぐさみものとされるか野垂れ死ぬのがオチだ。
だからただただ耐えて、いつかこのまま死ぬのだろうと、自分の行く先の暗さをじっと見つめていた。
そこへ突然やってきた
あのときおそってきた、村でも指折りの巨体を有するゲス
ゲス
もはや、自分が人としてまっとうに生きていくには、この人のよい
「お、お、おヒメどの。年ごろの
「かまいませぬ。
「忍法、
おヒメがとうとうガバッと抱きついたところで、
「忍者……」
「にに忍者ではござらんが、まま、とにかく、落ちつかれよ……」
里にいたとき、あまりに女に弱いので、同期から
「くノ一に誘惑されたらどうするんだ」
とからかわれたときも、
「そんなん拙者の超絶技巧でビクンビクンに果てさせてみせるでござるし笑」
となんの根拠も技巧もないのに強がりを言い張るぐらいにはピュア、かつ、むっつりすけべであった。
いまも腰をひき、たぎる下半身を
もちろんおヒメのことは憎からず思っているが、かといって、たまさか助けたにすぎぬ恩を盾に
あと、まだ、ちょっと、心の準備がととのってないし……というつぶやきを咳ばらいでごまかしつつ、薪を抱きしめたままほおをふくらますおヒメに、
「いや、じつはでござるな、祭りが終わったらまた旅にもどろうと思っていたのでござるが、先ほどのサメ騒動のとき気になることができた次第。ひそかに村を探りたいので、ひと晩かふた晩こちらをはなれるでごさるよ」
「それが終わったあと、少しでかまいません。もどってきて……いただけますか?」
「うん? うむ……一宿一飯の恩もござるし、おヒメどのがそうおっしゃるなら、約束するでござる。必ずもどってこよう」
「わかりました。ではせめて……おむすびをにぎりますので、おもちくださいませ」
「かたじけない」
そうしたやりとりののち、
しばらく中腰の姿勢から身を起こすこともできぬまま……
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