第3話 おヒメの絶叫
「大したものはございませんが……」
そう言って、麦飯、ろくに中身の入っておらぬみそ汁、大根の
おヒメの家で、飯のにおいをかぐことで意識をとりもどした忍者はしばし理性とのたたかいをしていたようであったが、
「
と海賊マンガのキャラのような口調に変わりつつ、涙を流しながら飯をかきこんだ。
おヒメはさすがに「クソうめェだろ」とは言わなかったが、慈愛に満ちた顔でその様子をながめている。
麦飯のおかわりもついでやり、食事が一段落したところで、
「ところで忍者さま、お名まえは……」
と問うた。
「拙者、忍者ではござらん」
「えっ」
おヒメはおどろき、あらためて忍者の全身を見やる。
顔の上半分こそ出ているが、飲食のとき以外
しかしおヒメが彼を忍者と認識したのはもっと直接的な部分であった。
「さっき忍法って言ってませんでした?」
忍者は食後に飲んでいた薄い茶を盛大に噴き出す。
「にににに忍法?? 聞きまちがいではござらんか??」
「忍法と聞きまちがう言葉ってそんなにあります?」
「ほら吉報とかそんな感じの言葉と」
「忍法と吉報じゃちょっとちがうし、あの状況で吉報なんて口にします? 『【吉報】男が骨折したのかと思ったら木の枝と入れ替わってた件』とか言ってたっていうんですか昔の掲示板のスレタイじゃあるまいし」
「なんて?」
「ともかく私はこの耳でしかと聞きましたよ。忍法
忍者はごまかすようにお茶を口へ運ぶが、動揺によりお茶が揺れに揺れてびちゃびちゃと周囲にこぼれまくっている。
「きたなっ」とおヒメは言ったものの、
(まあここまで隠すということは、きっとなにか理由がおありなのであろう。助けてもらった身のうえであまり追求すべきでない)
とさんざん追求したあとでありつつも反省し、
「いえ失礼いたしました。では忍者さまではないとして、お名まえは……?」
と本来したかった話題へと戻す。
どうにか急所への質問をまぬがれた様子の忍者は、ほっとひと息ついたあと
「
「やっぱ忍者じゃん!!」
たまげたおヒメがひっくりかえりながら絶叫する。
「いや
「いや、うーん、はぁ……」
承服しかねる様子がまったく隠れていないものの、おヒメは「はい、
「私はおヒメと申します。先ほどはあやういところをお助けいただき、あらためて感謝いたしたく……」
「なに、おのれの欲望のために他人を犠牲にするような
「そんなことはございません。むしろ、恩人さまにこんな粗末な食事しかお出しできませなんだこと、お恥ずかしゅうございます。この村は海に近いので、魚の一匹も出したかったのでございますが、なぜか
「ふむ、なにゆえ?」
「理由は申しておりませんで、わからず……。いつものごとく私へのいやがらせかと思いましたが、村の者全員が対象のようなので今回はなにかあったようでございます」
「いやがらせ? 村の一員であるおヒメ殿がなぜいやがらせを……」
「私が『呪いの子』だからだそうでございます。私の父は村一番の商売人だったのでございますが、妻子のある身でありながら、そこで下女をしておりました母を口説いて
その言葉についで語られたおヒメの
すきま風の絶えないあばら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます