⑥
「自分の指じゃないからって出来るわけないでしょ!?私の気持ちも考えてよ!」
「っクソ…!じゃあもういい!俺自分でやるからお前はもう帰れ!」
「!」
凛久くんはそう言うと、私に背中を向けて早速自分のそれを切ろうとする。
包丁でそんな簡単に指輪を切れるわけはないだろうし、冷静でいられたら油を使うとか他にも方法が思いつくんだろうが、私は思いも寄らない展開により冷静な判断力を完全に失っていた。
失っていたから…次の瞬間、私は凛久くんのその腕を掴んで、はっきりと自分の想いを口にした。
「バカ!!私はアンタのことが好きなんだよ!!普通に生きてくれてるだけでもう十分だから、そんな危険なことはしないで!!」
「!」
私がそう言った瞬間、包丁を持っている凛久くんの手がピタリと止まった。
「…え?」
そんな自分の言葉に、こういう危機的な状況なのもあって「言ってしまった感」はなかった。
確かに私は凛久くんに10年ほど片想いをしていたが、何一つ、告白なんて出来なかったのである。
友人としていつも近くにいたのに気づいて貰えず、また私も関係が壊れるのが怖くて、だらだらと今日まで来てしまって、自分の命を終わらせる直前にまでなってしまった。
私のいきなりの言葉に凛久くんはゆっくりと私の方に目を遣ると、呟くように口を開く。
「お、おまえ…いま…」
「…」
きっと彼は、私がずっと想い続けていたことを全く知らなかったんだろう。
なんて鈍感な男なんだ。
もう少しくらい鋭い男になった方がいいよ。
なんて、それでも好きでい続けたのは私なんだけど。
そんなことを思っている私の目からは、いつの間にか涙があふれていた。
でも、それはそうだとも思う。
自殺しようとしてそれを不思議な店の店員に呼び止められ、変わった指輪を貰い、それを好きな男にはめようとしたらこんな展開になるなんて…もう感情が追いついて行かない。
それでも私は、もう一度、確かめるように凛久くんに言った。
「私は、凛久くんのことが好き」
「!」
「だから、凛久くんが傷つくのはもっと嫌なんだよ」
お願いだから、その手に持っている包丁は離して。
「…」
私がそう言うと、凛久くんが少しの間黙り込む。
伝わったかどうか、せめてやっぱり病院に行って外して貰うことを勧めようと口を開いたら。
その前に、凛久くんが手に持っていた包丁をゆっくりとキッチンの上に戻した。
「…!」
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