「……うん?何これ」

「な?外れないだろ?」

「いや、そんなはずはっ…」


凛久くんが言った通り本当に指輪は動かず、はめる時と違ってピクリとも動かない事態に、私はさすがに焦って言った。


「ご、ごめん!え、凛久くん太ったの?指が太くなったとか…」

「ば、バカ!俺は明日結婚式を控えてる身だぞ。そんなわけあるか!」

「でも、こんなに抜けないんじゃ…」


…え、ということは、最初はあまり信じていなかったけど、この指輪にはあのおばあさんが言っていた通り、「絶対にその人と結ばれる」という力が宿っているんだろうか。

いや、にしたって、別に凛久くんの様子はいつもと同じだし…。


なんて考えていると、やがて「やっぱり」と意を決したように凛久くんが言った。


「っ…ダメだ!こんなことやってたってラチがあかん!」

「え、何するの!?」


私がそんな凛久くんにそう問いかけると、次の瞬間凛久くんがはっきりと言った。


「家にある包丁で指輪を切るんだよ!」

「っ…!?」


凛久くんはそう言うと、迷いのない様子で家の中に戻って行く。

一方、凛久くんのそんな言葉に大きな衝撃を受けながらも、慌ててその背中について行く私。

そして、物凄く戸惑いながら言った。


「う、嘘だよね!?そんなの!そんなことしたら指も切っちゃうよ!?」

「嘘じゃねぇよ。でも俺は片手だけじゃこの指輪は切れねぇから、お前切って」

「!!?」


凛久くんはそう言うと、ようやく辿り着いたキッチンで包丁を取り出す。

だけどそんな凛久くんを前にして、もちろんそんなことができるわけもなく、私は思い切り首を横に振った。


「や、嫌だよ!せめて病院に行って外して貰うとかしたらいいじゃん!指輪を包丁で切るなんてそんなことまでしなくていいでしょ!?」

「何言ってるんだよ!こんなの指を切るしか方法がねぇだろ!そもそもお前が勝手に俺の指にはめたんだから、お前が責任もって切れ!」

「!」


そう言われた直後、私は凛久くんに包丁を手渡される。

そんな…こんなことって。

確かに私も今日自殺を計っていた身だし、どうせ死ぬんだからと投げやりになっていたけど…。

でもだからといって、こんなことが出来るわけがない。


私はどうしてもその包丁は受け取れなくて、目の前の凛久くんに言った。


「っ…やだ!私そんなこと出来ないよ!簡単に言わないで!」

「何でだよ!?自分の指じゃねぇんだからいいじゃん!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る