No.6「剣聖(ごっこ遊び限定)」

1. スキル名

「剣聖(ごっこ遊び限定)」


2. 能力

木剣や棒切れ、あるいは指先で仮想の剣を振るう「ごっこ遊び」の最中に限り、真の剣聖に匹敵する技量、速度、判断力を発揮できる。あらゆる剣技が完璧に再現され、相手の動きを先読みし、圧倒的な強さを誇る。


3. 残念ポイント

・実戦で一切役に立たない: 本物の武器(鉄製の剣など)を持った瞬間、スキル効果は消滅する。当然、本物の魔物や人間相手には、ただの素人に戻ってしまう。


・素材が限定される: 木剣や棒切れ、あるいは指のような「ごっこ遊び」用の素材でなければスキルは発動しない。最高級の業物を持っても、ただの重い金属片にしか感じられない。


・周囲に理解されない: 真剣に戦っているつもりでも、傍から見れば子供が棒切れを振り回しているだけにしか見えない。英雄視されるどころか、大人げない、あるいは奇妙な目で見られる。


・精神的ギャップ: ごっこ遊びで最強であるゆえに、実戦での無力さとのギャップに苦しむ。自身の剣の才能は本物なのに、それが最も意味のない状況でしか発揮されないという絶望感を味わう。


・成長につながらない: スキルで完璧な動きができるため、現実の剣技の練習がおろそかになりがち。ごっこ遊びの動きは身体に染み付かない。


4. 使用例(ショートショート)

「公園の剣聖」


レイモンドは、公園の片隅で今日も木剣を振るっていた。彼のスキルは「剣聖(ごっこ遊び限定)」。見かけはただの木製の棒だが、その手にある時だけ、彼は比類なき剣聖となる。


「シュッ!ハァッ!」


木剣が風を切り、流れるような連撃が悪の魔王を追い詰める。巨大なゴーレムの攻撃を紙一重でかわし、隠し持った短剣で弱点を正確に突く。彼の瞳には、現実には存在しない巨大な敵と、それと戦う自分自身の姿が鮮明に映っていた。


周りの子供たちは、彼を「レイおじさん、また遊んでる」と冷ややかな目で見ている。冒険者ギルドでは、彼の鑑定結果はいつも「【剣術:なし】」だった。「あんた、棒振り回して遊んでる暇があったら、ちゃんと稼ぎな!」ギルドマスターの言葉が耳に痛い。レイモンドは本物の剣を握っても、まるで重い鉄の塊のように感じ、うまく振るうことすらできないのだ。彼の人生は、ごっこ遊びの中でのみ輝いていた。


ある日、町外れの森にゴブリンの群れが現れた。ギルドの冒険者たちが緊急出動するが、数が多く、苦戦しているという報告が入る。レイモンドも、何かできることはないかと森に向かった。しかし、本物のゴブリンを前に、彼のスキルは全く発動しない。震える手で握ったのは、いつもの愛用の木剣ではなく、ギルドから貸し出された鈍い鉄の剣だった。


「クソッ、なぜだ!なぜ動かない!」


レイモンドは叫んだ。目の前には血肉の通ったゴブリンが迫る。木剣を振るっていた時の、あの完璧な剣筋は、どこにもない。彼はただの無力な男だった。


その夜、森の端で呆然と座り込むレイモンドの元に、一人の子供がやってきた。彼の剣を熱心に見ていた、公園の少年だ。

「レイおじさん、僕ね、今日ね、おもちゃの剣でゴブリン退治ごっこしたんだ!」

少年は得意げに棒切れを振るった。


その瞬間、レイモンドの脳裏に電流が走った。そうだ、ごっこ遊びなら。


翌日、町に残っていた子供たちが集められた。彼らの手には、木剣や木の枝が握られている。レイモンドは言った。「いいか、みんな。これはごっこ遊びだ。目の前の森には、君たちを襲う悪のゴブリンがいる。それを、最強の剣聖であるこの俺が、みんなと一緒に倒すんだ!」


レイモンドは木剣を構えた。そして、彼のスキル「剣聖(ごっこ遊び限定)」が発動する。完璧な剣技で仮想のゴブリンをなぎ倒しながら、彼は子供たちを鼓舞し、安全な場所へと誘導した。彼の目には、ゴブリンと戦う自分自身の姿と、それを信じてついてくる子供たちの姿が映っていた。


結局、ゴブリンは駆けつけた騎士団によって撃退された。レイモンドが直接ゴブリンを倒したわけではない。しかし、彼の奇妙な「ごっこ遊び」が、子供たちを救い、混乱した状況下で人々に一筋の光を与えたことは、間違いなかった。


「レイおじさん、すごかったね!本物の剣聖みたいだった!」


子供たちの無邪気な言葉が、レイモンドの心に静かな温かさをもたらした。彼は今日も、公園で、誰にも理解されない「剣聖」として、木剣を振るい続ける。

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