ヴァルターの独り言

深夜の研究室。

ヴァルターは砂時計を返し、机上の白紙をじっと見つめた。

インク壺は満たされ、万年筆の先は研ぎ澄まされている。

だが——何も起こらない。


「……ふむ。私の仮説が誤っているのか?」


『異世界交流』とは、どこから声が届くというのだ。

誰も見知らぬ世界と、果たして交流など出来るものなのだろうか。


そもそも、カクヨムとは何だ。スキルウインドウに図鑑の原稿が転写されていったが、これでいいのか。スキルの使用方法が間違っている可能性もある。


小さく息を吐く。

「分類を始めるには、まず観察が要る。だが観察対象が現れぬのでは、記述もできぬ。

 ……初めの一声が届くまでは、私のこのスキルはただの幻にすぎぬのかもしれないな」


彼は再び砂時計を返した。

落ちる砂粒の音だけが、静まり返った研究室に響いていた。


——白紙は、まだ沈黙したままだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る