第5話 介護士の中島さんの視点

僕が介護士になってすぐの頃、右も左もわからず、毎日が失敗の連続でした。

大島様の担当になったのも偶然でした。

でも、あれは僕にとって、人生の転機だったと思います。


ある日、僕は上司に厳しく叱られていました。

手順を間違えたこと、報告が遅れたこと——確かに僕のミスでした。

そのとき、大島様がそっと声をかけてくれたのです。


「若い人は、失敗して覚えるのよ。私は、あなたの優しさを知ってるから」


その言葉に、僕は救われました。

誰もが忙しくて、僕の存在が空気のようになっていた時期。

大島様だけが、僕を見てくれていた。


それから僕は、大島様のケアに心を込めるようになりました。

ただの業務ではなく、「この人を守りたい」という気持ちで接するようになったんです。

大島様が痛みを訴えたとき、僕は何度も院長に言いたかった。

でも、言えなかった。

それでも、大島様の手を握りながら、「わかっていますよ」と心で伝えていました。


大島様は、僕の介護士人生の原点です。

そして、僕が人として成長するきっかけをくれた人です。


※この話は義母の他界後に実際に中島さんから伺った話でした。


つづく

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