第8話: F1戦略会議

会議室のスクリーンに映し出されたのは、F1カレンダー。


モナコ、シルバーストーン、モンツァ──赤く印がついたいくつかの都市名が、ユウラク幹部たちの視線を集めていた。


マーケティング責任者が説明を始める。


「F1は一年を通じ、世界20カ国以上で開催されます。各地のレースで露出することは可能ですが、すべてを追うには莫大な費用が必要です。我々が選ぶべきは“象徴的な頂点”です。」


スクリーンに強調される二つの文字。


「鈴鹿」「モナコ」。


幹部の一人が口を開く。


「鈴鹿は日本の象徴だ。HONDA撤退後、日本のファンは失望している。ここでユウラクの名を掲げれば、国内での誇りと共感を一気に取り戻せる。」


別の幹部は首を振る。


「だが、世界戦略を考えるならモナコだ。ヨーロッパの中心で、貴族や財界人が集う舞台。ユウラクが“世界企業”へ飛躍するための最適な象徴になる。」


重い空気の中、ケンイチが言葉を継いだ。


「両方を結ぶ線が必要です。

 鈴鹿で“日本企業としての誇り”を示し、モナコで“世界の一員”としての姿を見せる。

 二つを対にして打ち出せば、ユウラクの物語はより強くなるはずです。」


神谷はしばし沈黙し、ゆっくりと口を開いた。


「──鈴鹿で始め、モナコで頂点を取る。それをユウラクの旗にする。」


幹部たちは一斉に頷いた。


会議室には、すでに迷いはなかった。

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