第2話 稽古?

翌日のお昼過ぎ


『兄ちゃんー稽古は?』


「稽古場で待っててー。あと、先に稽古始めといていいよー」


そう言って兄ちゃんは怪異滅殺委員会の事務所に消えていった。


『まーたこれだ、昨日いいよって言ってたくせに、俺の事は放置かよー』


仕方なく1人、とぼとぼと稽古場へと歩き出した。なんとなく窓の外を見る。今日は大雨のようで外が霞んでよく見えない。委員会の仕事が忙しいのも知ってるし、兄ちゃんの実力が高くて先生に期待されてるのも知ってる。でも、、



『少しは俺に頼ってよ。バカ兄貴。 って、マイナス思考になったら駄目だ。悪堕が出て来るからな』

頭をブンブンと左右に振り頬を思いっきり叩く


『痛った!?やり過ぎた』

頬がヒリヒリと痛み、涙目になる


『まいっか。さてと、先に始めるかー』

道場着(どうじょうぎ)に着替え竹刀を探す


『竹刀どこ置いたっけ?この辺りかと思ったんだけど、、』


〔あれ?そこにいるのは、零くんの弟くんだー!〕


『へ?うわぁ!?』

謎の少女が理斗に向かって正面から突っ込み、理斗に直撃する


ドタン!


突っ込んで来た少女、胡桃(くるみ)とぶつかった勢いで理斗と胡桃どちらも後ろへ倒れ込んだ


『痛った、、ちょっと胡桃さん!急に突っ込んでこないで下さい!』


〔ごめんねー弟くん。零くんが忙しそうだったから声掛けれなくて。なんとなーく稽古場に来たら弟くんがいたから、つい、、〕

胡桃はえへへと恥ずかしそうに笑った


えへへって、、まぁ、胡桃さんに怪我が無いなら別にいっか


〔あっ、ごめんね弟くん 私が退かなきゃ弟くんが動けないね。ちょっと待ってて、すぐ退くから〕

胡桃はいそいそと理斗の上から退き、理斗に手を伸ばした。


〔弟くん、はい!私の手掴んでいいよー〕


『え?あ、はい。ありがとうございます』

女性の手を掴むのは気が引けたが大人しく胡桃の手を掴んで立ち上がった


〔弟くんはこれから稽古?道場着来てるし、竹刀も持ってるね。あ、私邪魔だったみたいだね?私はもう帰るよ、これから任務だし。バイバーイ弟くーん!〕


『え?え?あっ、ありがとうございました?』

胡桃が道場から走り去っていく


『相変わらずあの人は、嵐みたいな人だな。でも実力は兄ちゃんの2個下だからな』

人は見かけに寄らずってこういう事かな?


『さてと、俺も稽古頑張らないと! 相手は、、、いないけど。』

はぁーとため息が零れる


『兄ちゃんが考えたトレーニングメニューでもやるか。素振りは、、1万回!?』

思わず大声で叫んでしまい、慌てて辺りを見回す。誰かに聞かれたら気まづい。

兄ちゃんはこの量を5セットやってるって胡桃さんが言ってたよな?兄ちゃんって人間だよな? うっかり、人間辞めたーとか言ってないよな?


『うー、、こんな量出来る気がしないけど頑張ってみよう!』

何事も挑戦が大事だって兄ちゃんが言ってたし


『はぁ!!』『たあっ!』『とりゃあ!』


竹刀を降る度、ブンッと竹刀が空中を舞う音が耳元で聞こえる。段々と腕が痺れてきた。でも、それでも構わず振り続けた。俺もいつか兄ちゃんに認めて貰うんだ!


『はぁ、、はぁ、、はぁ、、これで、1万回、達成!』

いつの間にか、俺は1万回を達成した。額には汗がぐっしょりと流れ、手の平も皮が少し剥けていた。

『げっ、、竹刀の握り方が悪いのかな?いつも皮が剥けちゃうなー』


「そりゃあ、そんな雑な握り方してたら手の平に傷がついちゃうよ。俺の竹刀の握り方を理斗なりに考えて、実践してくれたんだろうけど」


『へー俺の握り方、雑なんだ。なら、ここの部分を、、 って、兄ちゃん!?』

声が聞こえた方へ振り返る

そこには、道場着に着替え肩に竹刀を立てかけさせながら道場の壁に、もたれかかっている兄ちゃんの姿があった。何そのポーズ?イケメンしかやっちゃダメなやつでしょ、それ。


「あーそこの指は動かさないで。」

兄ちゃんが俺の後ろに移動する

いや、近いって。


「理斗の握り方は自分の力に全振りしてる。それだと、何回も振り続けて行く内に手の平が擦れて痛くなるんだよ、、だから、俺と同じ握り方の方が長期戦になっても痛くならないんだー」


『へ、へぇー。そうなんだー』

いや、近いって!ま、真後ろから兄ちゃんの気配が、それに今、囁かれた?な、なんかいい匂いするし、後ろから俺の手、兄ちゃんにた掴まれた?やばい、心臓がドクドク言ってる。止めなきゃ


「よしっ、こんな所かな?これで素振りをしてみてごらん?大分楽になると思うから」


『う、うん。分かった!』

兄ちゃんに言われた通りに竹刀の握り方を変え、素振りをする。ブンッと空中を竹刀が舞う。すると、さっきよりも竹刀が軽く感じた。こんなにも軽くなるのか。と関心する。


「ふっ。お前、顔に出過ぎだよ?竹刀にも色んな掴み方や握り方がある。自分にあった握り方を見つけるのも大事な事なんだよー」


兄ちゃんがペラペラと色んな事を説明してくれている。でも俺にとってはどうでも良かった。さっきの兄ちゃんとの距離、、、兄ちゃんの声、息遣いが俺の耳元で聞こえた。って、なんか俺変態みたいになってないか?


「理斗?どうした?素振りのやり過ぎで気持ち悪くなったか?」

兄ちゃんが俺の顔を除き込む


『ひょわ!?』


「ひょわ?何だそれ、ひよこの鳴き声みたいだったけどw」


『あ、いや、なんでもないデス』

急に顔を除き込まれてびっくりしただけ、なんて恥ずかしくて言えない。


「まあいいや、とにかく稽古、するんだろ?あ、そうだ!せっかくなら本物の刀でも使うか、」

零は後ろから本物の刀を2本取り出す。


『え?ほ、本物の刀!?危なくない?』

それに、俺の身が持たない。兄ちゃんって刀が似合うんだよなーってそんな事はどうでも良い!


「危なくない、大丈夫。理斗も怪異を狩るとき刀を使ってるだろ?刀の使い方は俺が一通り教えたし、万が一怪我しても白虎(はくと)先生がいるだろ?」

自分の刀をくるくると回しながら理斗に刀を手渡す


『わ、分かった。』

零から刀を受け取る


「んじゃ、俺から行くぞ。ちゃんと構えろよ、

理斗。」

刀を鞘から引き抜き、理斗へと向けて走り出す


『ッ!?は、早い、』

飛び込んで来た零の刀身を刀でなんとか受け止め刀に体重を乗せ、跳ね返す。


カン!キィン!と甲高い音が鳴り響き刀と刀がぶつかり合う


『はぁ!!』

「甘いよ理斗!」

『これはどうだ!』

そんな掛け合いが稽古場の中で響いていた。零も理斗もどちらも引かず、どちらも譲らなかった。


うっ、、兄ちゃんの刀は1振りでかなりの重さになるから、何回も受け続けるのは体力を消耗するんだ。俺の体力的にもここまでが限界。兄ちゃんが後ろを向いて油断してる今、これで決める!


『たあっ!!』

「、、罠には気をつけないとだよ?理斗」

『、、、、え?』

ガッ ドサッ


『痛っ、、兄ちゃん、罠って、、、、、』

「残念、俺の勝ちだね?理斗」

『ひえ』

う、うわぁ!近いって。兄ちゃんが俺の腕を掴んだのは見えた。でも、俺の両腕を掴んで床に押し倒す。とか聞いてないんだけど!?ど、どどどど、どうしよ?!


「全く、あーんな見え見えな罠に引っかかったらダメだろ?お前は体力が少ないから体力を付けるトレーニングに切り替えるかー」


『、、、は、はい』


「ふふっ。顔真っ赤、苺みたいだね?」


『い、苺って』


「そう。俺の好物」

いや、知っているが。何故、今兄ちゃんの好物の話になったんだ?というか俺はいつまでこの体勢でいないと行けないんだ?何気に恥ずいんだが


『あの、兄ちゃん』


「何ー?」


『そろそろ離して。この体勢きつい』


「えー、せっかく理斗の珍しい顔が見えるのにー?」


『こんな俺の照れた顔なんて何になるんだか、』

そもそも俺は男だし、兄ちゃんの事が少し気になるとはいえ、男同士なんて兄ちゃんが嫌だろうし


「え?かわいい」


『は?』


ポカンとなってしまった。今なんて?かわいい?

誰が?俺?いやいや、男だし


「あ、もっと赤くなった。いちごがりんごになった」


『い、いちごもりんごもそんな変わらないよ』

俺は物心ついた頃から兄ちゃんが好きなんだ。だから、兄ちゃんと恋人に、付き合えたらって考えてしまう。兄弟だし、男同士だし。問題はたくさんあるから無理に決まっているのだが。


『兄ちゃん。』


「ん?」

さりげなく俺の髪を撫でて、毛先をくるくるさせる。


『そろそろ離れて、暑い』


「分かったよー」

兄ちゃんがやっと俺の上から離れていく。ちょっと名残惜しそうにするな!


「うーん、、今回の稽古、理斗もちょっとは成長してたし、2人でアイスでも食べに行くか?」


『行く!俺、チョコミントね』


「はいはい、俺は苺にするかなー」

稽古場からは賑やかな声がこだましていた。



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怪異滅殺委員会は今日も大忙し? ねむねこ @nekomaru0103

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