君の隣で
一面に広がる花畑。
風が吹くたび、色とりどりの花々が波のように揺れる。
赤、黄、白、紫。
目の前の花びらが、揺れて、舞って、静かに地面に落ちる。
その落ち方さえも、どこか美しくて。
「わぁ、綺麗…」
思わず声が漏れる。
昔は、花なんてただの背景でしかなかった。
目を留めることもなく、気にすることもなく、ただ通り過ぎるだけのもの。
だけど今は、その儚さが愛おしいと思える。
風に揺れて、散って、また咲く。
その繰り返しが、なんだか人生みたいで。
歳をとると、好みも変わるものなのか。
派手さよりも、静けさに。
強さよりも、柔らかさに。
ふと視線を移すと、君が少し離れた場所から静かに私を見守っている。
昔は、華やかで完璧な人にばかりに惹かれていた。
イケメンで背が高くて、自信に満ちた人。
誰が見ても素敵で、誰もが憧れるような輝き。
そんな人が好きだったのに、今は——
今は、無造作な髪や飾らない仕草、何を考えているのか分からない君の隣にいる。
理想とは、かけ離れているはずなのに、なぜか安心する。
君の沈黙は、居心地のいい音みたいに私に馴染んでくる。
無理に話さなくても、無理に笑わなくても、ただ一緒にいるだけでいいと思える。
どうして君を選んだのか、まだ分からない。
それでも、この美しい景色を、この瞬間を、共有したいと思うのは君だけで。
誰かと見ることで、ただの綺麗なものが特別になるのなら、それはきっと、君だから。
風がまた吹いて、花びらが舞う。
空に浮かんだ雲が、少しだけ形を変える。
遠くで鳥が鳴いて、空気が少しだけ動く。
そして、君の方を振り返る。
「ねぇ、綺麗だね」
君は少し驚いたように瞬きをして、それからふっと微笑んだ。
その笑顔が、なんだかあたたかくて。
私はただ、君の笑顔に目を奪われた。
この時間が、ずっと続けばいいと思った。
風が吹いて、花が揺れる。
君の隣に立つその瞬間が、私にとっての春だった。
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