第2話 隠者の尋ね
……あの女の子を助けた日から二週間が経った。
(…連絡先くらい教えとくべきだったな…いくらアイスが溶けそうだったからって、そのくらいは…まぁいいや…考えんの面倒だ。)
何をするでも無く、ぼーっと考え事をしていると…ピンポーン、とインターホンが鳴る。……居留守にしよう。どうせ今の時間に来る奴は下らない宗教勧誘だろうし…
「ん〜…?」
カメラに映っているのはスーツを着た二人組だ。強面で厳つく、服の上からでも分かるほど鍛えられた大男。そして眼帯を着けた背の低い女性の二人組が居る。
(…はぁ…一体何なんだ?)
────一方、ドアの外では…
「…出ませんね。」
二人の人間が待っていた。
「寝てるんじゃないの〜?フィリエが言うには、よれよれの服にボサボサ髪…加えて欠伸をよくしていたそうだし〜?平日の昼から爆睡してても納得できるよ〜?」
しかし、インターホンから声が発せられる。
「…どちら様です?」
「初めまして〜我々は国立環境技研の職員です〜」
「数日前、職員のフィリエという女性職員の救助をして頂いたと…」
「…人違いじゃないですか?」
やはりと言うべきか、家主には歓迎の意思は無い。
「あの〜?数日前に森でフィリエって名前の子を助けたでしょ?パーカーも置きっぱなしにしてたかし、お礼も十分に出来てないからってウチの同僚がね…」
「…やっぱり人違いですよ。」
プツンと声が途切れる。
「ふ〜む…困りましたね…意外と強情なのか〜…」
「一度出直すとしましょうか?」
「そうだね、でも一旦視てからにしよう…」
「…あまり無茶をなさらないで下さいね。」
「分かってるよ〜」
眼帯を取り外し、閉ざされていた眼を開く。
「っ……!」
その地の人々の残した言葉…過去の情報が眩い光となって押し寄せる。
[ねぇ聞いた?あの家のご夫妻、亡くなったらしいのよ……]
[あの子、学校にも行かなくなってしまったそうよ?]
[お姉さんも気の毒に…まだ二十歳なのに弟さんを養うのは厳しいでしょう…]
「…………人は…何故死ぬ為に生まれるんだ…?」
雑多な人々の噂話、過去の出来事がはっきりと目に映る…あまりの情報量に目眩がして真っ直ぐ立てなくなる…
「ッ!…ハァ……ハァ…!」
「大丈夫ですか?」
「うぁ…平気だよ、ありがと。ここは思ったよりも情報量が多い…もう少しで何かが見えそうだったんだけどね〜……一旦帰ろうか。」
「了解しました。」
その時、通信が入る。
「
「ん?もしもし〜どったのジーリアちゃん?」
「隊長、緊急事態です!例の森で急激な魔素活性が確認されたわ。まだ忌形の発生は確認されていないうちに、現場に向かってください。」
「…行きましょう。」
─────……忌形出現地点にて…
その場までの道のりは結界で封鎖され、中には忌形狩りの同業者達が臨戦態勢となっていた。
「副隊長…そろそろ作戦に備えて…」
「平気だよフィリエっち。…あ、隊長じゃん。」
「
「このゲームはちゃんとポーズ出来る奴だから大丈夫だよ。ドクターもOKってさ。」
「そういう問題じゃね〜よ…!」
「必要な仕事はしてるから良いって言われたんだよ。隊長はお仕事が好きだけどさ、僕はお仕事嫌いなの。だからこれも分担作業だよ。」
この女は…!これでも仕事は出来るんだ…!だからこそ手を抜いてサボってるのが余計許せんのだが…
「それに、今はまだ何も起きてないんだ。たぶん天気予報みたいに外れるさ。ねぇ?フィリエっち。」
「…お前な〜…ていうかフィリエちゃんはまだ休んでなさい!あれからまだ二週間経ったばかりよ?傷が開くかもしれないんだから…」
「…私には、戦う事以外何も出来ませんから…」
「…無茶はしないでよ。」
フィリエは戦う事だけが己の価値だと言う。…私が彼女の立場なら、きっと同じ事を話しただろう…
機器から通信が入る。
「各員、戦闘準備を!魔素の活性が忌形の適応領域に到達しました!」
「ちぇっ…流石に中断だね…」
「文句言ってないでさっさとやるよ〜!」
辺りから地響きが鳴り始め、黒い霧が立ち込め、大地を埋め尽くす。
「ヌゥオオオオ…!」
沼の様な霧から悍ましい忌形達が次々と湧き出してくる。
「ちょ…ちょっと…!?この数は一体…!?」
「…この前よりも数が多い…!」
「下がって!私が引きつけます!」
獅子堂の肉体が鋼の様に硬化し、鈍い銀色へと変色していく。
「ハアアアア!!」
両手を広げ、2メートルを超える獅子堂の体を更に大きく見せる原始的な戦闘態勢は忌形達の注意を強く引いた。
「グオオウゥ!!」
獣の様な忌形は裂けた頭から雄叫びを上げる。獲物を取り囲み、死角から一斉に飛び掛かって牙を突き立てる。獅子堂の肉体は忌形の牙を軽々と防ぐ。
「今だ!」
群がる忌形達を細い糸が切り裂き、あっという間に片付けられる。
「ギャッガアアッ…!」
「フィリエっち、やるね。病み上がりとは思えないよ。」
「……」
「フィリエっち?」
「…問題ありません、むしろ感覚が冴えています。これまでとは違う…」
忌形達の勢いも衰え、数も減り始めた。しかし…
(おかしい…魔素の活性度合から見ても、まだ忌形が残っている筈…それに…)
忌形達はまるで怯えて逃げる犬の様だ。
「皆、異常無いか?」
「はい、隊長。」
「うん、今のところ付近に異常は……ッ!?」
突如、小森が頭を抑える。
「どうした!?」
「まずい…分身が即死した…!桁違いの化け物が紛れ込んでる!3時の方向から来るよ!」
大地を揺らす歩み、身体を蝕む瘴気と化した濃い魔素の反応。赤く光る目玉を持つ巨大な獣の影が、牙を剥き出しにしてこちらを見下ろしている。
「ヌウアアアアアッ…!!!」
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