エピソード2 言葉(チョイス)下手男、山口一(警察官編)
「そういえば、
ある夏の日、俺はそう、警察学校の上司の一人──
──それが、黒歴史暴露の始まりだった。
ゴフッ
飲んでいたコーヒーをコップの中に吹き出す。顔にコーヒーが逆噴射でかかる。最悪だ。
「私もその話聞きましたよ。今の生徒達も「地方組がっ」「全国区組が!!」とか騒いでますよね。地方組って〇〇期生から△△期生の間にいた、何名かの優秀学生の呼ばれ方ですよね。山口さん、そうなんですか?」
側にいた事務員の女性──
地方組
確かに最近、俺を含めた数名がそう呼ばれているのは知っている。名前に各地方にある都道府県の県名が入っているから、という理由でそう呼ばれていることも知っている。俺達の時代はそんな呼ばれ方はしていなかった。
全国区組は当時から、呼ばれていたけれど。
「・・・・・・お前は確か、
俺が警察学校にいたときから警察学校に勤めている教官、
「・・・・・・山本教官、その話はここでは蒸し返さないでください」
「事実だろう」
「事実ですが、俺は別に問題を起こすつもりはなかったんです」
「なければ歴代3位の反省文の枚数をを記録するわけないだろう」
「ぐっ」
山本教官は10年前の俺が警察学校にいたときから警察学校の教官だった。だから、俺と長崎が巻き起こした騒動と巻き込まれた騒動については熟知している。
確かに同期の長崎なくるとセットにされ、南日本組とも呼ばれてはいた。あまり誇れるものではないが。
そういえば、長崎は元気にやっているのだろうか。どうせ、
「いつもと違って純粋な反応だな」
「刺されたいですか」
「これ、恥ずかしがってる反応だな。だろ、山本」
「だな。流石、
「そう言うのはやめてもらえませんか、山本教官」
「分かった分かった。そう怒るな」
止めようとしても止まらない会話。ジッと山本教官の方を見れば呆れたように笑いながら、山本教官はお手上げだと両手を上げる。
しかし、山本教官も昔よりは幾分か、柔らかくなった・・・・・・感じがする。
「でも、そう呼ばれるほど優秀だったってことですよね、山口さんが」
沼須さんの真っ直ぐな褒め言葉にテレる言葉も、否定する言葉も出ない。
「確かにな。俺は数年前、山口が初任補修科を終えた後に警察学校に異動になったクチだ」
「あ、そうだったんですね」
「まあ、だが、それ以前から全国区組やら何組やらの話は聞いてたな。山口教官達の世代の話だとは話の流れから察してはいたが。その当人と同じ配属先になるとは思わなかった」
「まあ、それもそうですな。私も彼がここに異動するとは考えてもいなかった」
「・・・・・・以前、所属していた所轄で年上の後輩から「教官になれ」と言われたもので仕方なく」
俺がそう言えば山口教官は何か、考え込んだ後、ふっと俺の顔を見た。
「その年上の後輩、もしかしなくても、
「・・・・・・ええ、まあ、そう、ですね。おせっかいにも程がありますけど」
ちなみに同期や後輩達から聞く香川さんの評判は「ノリがいい」「口が悪い」「おせっかい」の三つのうちのどれかだ。
兄貴分というか、面倒見が良いというか、気前の良い不良タイプというか、何というか、そういう感じの人なのだ、香川真人という人間は。
「おせっかい焼かれて嬉しいなら、嬉しいって言った方がいいぞ」
「非常に分かりやすい反応を私、したはずなんですが」
「これが分かりやすい反応かあ。自覚なしかあ。めんどくさーー!!」
「・・・・・・どこが分かりやすいんだ」
「変わらんな」
何故か、集まる批判。そこまで分かりづらい反応を俺はしたのか?
三人の反応にモヤモヤとした気持ちを抱えながら職員室の扉のある方に視線を動かす。誰かの気配をそちら側から感じた。
職員室の扉のある方を見れば、そこには生徒の姿かある。よく見なくても、次に座学の講義を行うクラスの生徒だった。
「山口教官、座学の準備、整いました!」
次に座学の講義を行うクラスは自学自習ができるタイプが多い。また、自ら教官や事務員の業務を手伝ってくれる者も他のクラスより、多い。人間性は素晴らしいクラスだ。
あまり、成績が芳しくないのが問題だが。
「分かった。グダグダしてないでさっさと講義室に行ってろ」
そう声を掛ければ元気よく、礼儀正しい返事が返ってくる。どことなく、顔が綻んでいるように見えたのは気のせいだろう。
生徒は駆け足で教場へと向かった。
教官達に断りをいれ、会話から抜ける。教官達は次の時間は確か、休憩時間だったはずだ。だから、また、上司や事務員の人達と話をしながら職務を行うのだろう。
そんなことを考えながら、生徒の後を追って教場へと向かった。
山口
「・・・・・・あれの意味、知りたいか?」
教官、山本は隣席で教官、玖珠と「座学の準備をしてくれた生徒に対してあの言い方は酷いんじゃないか」と話す事務員、沼須に対して、そう言った。
山口のことが少し憐れに思えたからだ。もとから憐れに思ってはいたが。
山口一という人間は
つまり、山口一は『異常』に誤解をされやすい人間だった。だが、その反面、言葉のチョイスを失敗しまくっていても気遣いを誰よりもできる、真面目な人間でもあった。
「あれはな、「分かった、ありがとう。俺に構わず、早く講義室に戻って予習してろ」って意味だな」
「分かりづらぁ。分かりづらすぎでは、山本さん」
「沼須さんの言葉が否定できないのが辛いんだが、山本」
「だから言っただろう、言葉下手だって」
だから、それを察することができる人間は山口一の最悪の言葉のチョイスから、山口一の深層心理で真に伝えようと考えている思いを探り当てるのだった。
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