『俺達のグレートなキャンプ119 いい生地のどら焼き作る為に、軍鶏倒そう』
海山純平
第119話 いい生地のどら焼きを作る為に軍鶏倒そうぜ
俺達のグレートなキャンプ119 いい生地のどら焼きを作る為に軍鶏たおそうぜ
「よし!今日のグレートなキャンプ暇つぶしは――」
石川が両手を天高く掲げながら大声で宣言すると、周りでテントを設営していた他のキャンパーたちがビクッと肩を震わせた。もはや恒例行事である。一人の中年男性が持っていたペグハンマーをポロリと落とし、隣の若いカップルが抱き合って震えている。
「軍鶏たおして、極上のどら焼き作りだ〜〜〜!!」
(うわあああ、また始まった...)富山が顔を両手で覆いながら、内心で絶叫している。石川の隣で千葉がキラキラした目で手をパチパチと叩きながらピョンピョンと飛び跳ねている様子を見て、更に頭痛が増した。後頭部をギュッと押さえながら、既に今日一日の疲労を予感している。
「石川くん、軍鶏って...あの、闘鶏の軍鶏のこと?」千葉が興奮で声を上ずらせながら、まるで子供が新しいおもちゃを見つけた時のような表情で質問する。
「そうそう!普通の鶏の卵じゃつまんないじゃん!やるなら最高級の卵でしょ〜?」石川が腰に手を当てて胸を張りながら答える。その自信満々の表情と力強いポーズに、近くで焚き火を起こしていた中年の男性キャンパーが薪をボトボトと連続で取り落とした。「あわわわ...」と慌てる声が聞こえる。
富山が頭を抱えながら呟く。「軍鶏って...すっごく気性荒いのよ?蹴り一発で骨折するって話もあるし...」額に既に汗がタラリと流れ、表情は完全に青ざめている。
「だからこそ燃えるじゃないか〜!」石川が両拳を握りしめながら目をギラギラと輝かせる。まるで格闘家が試合前に気合いを入れているような迫力だ。「普通のキャンプじゃつまんない!グレートなキャンプには、グレートなチャレンジが必要なんだよ〜!」
千葉が勢い良く頷きながら「そうだそうだ!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!軍鶏との決闘、ワクワクするね〜!」と屈託のない満面の笑顔で同調する。その無邪気さに、近くにいた小学生くらいの子供が「お母さん、あのお兄ちゃんたち何するの?」と不安そうに母親の袖を引っ張っている。
(この二人、本気で軍鶏と戦うつもりなの...?)富山が青ざめながら心の中でツッコミを入れていると、石川が急にスマホを取り出した。
「よし、まずは軍鶏を飼ってる農家を探そう!」石川が勢い良くスマホを操作し始める。指の動きが異常に早く、まるで格闘ゲームのコンボを決めているようだ。画面を覗き込みながら「お、この辺りに地鶏専門の農場があるじゃん!『鬼神農場』...いい名前だな〜!」
隣のテントから聞こえてくる「お父さん、あの人たち何してるの...?」という子供の不安そうな声と、「見ちゃいけません、目を合わせちゃいけません」という父親の慌てた声が響く。
一時間後、一行は山道をトコトコと歩いていた。石川が先頭でハミングしながらスキップ気味に歩き、千葉が後ろから「軍鶏ってどのくらい強いのかな〜?プロレスラーより強いのかな〜?」と楽しそうにつぶやいている。富山は最後尾で重い足取りでため息をつきながらついて行く。既に額に汗をかき、時折立ち止まって深呼吸している。
「あ、あった〜!『鬼神農場』だ〜!」石川が指差した先に、古びた看板と共に、まるで要塞のような頑丈な柵に囲まれた農場が見えてきた。
農場の入り口で、タンクトップ姿の筋骨隆々とした男性――鬼神さんが鶏小屋の修理をしている。その腕の太さは石川の太ももほどもあり、背中の筋肉は山脈のように盛り上がっている。石川たちの姿を見つけると、ハンマーを肩に担いで振り返った。
「おう、何の用だ?」鬼神さんの低く響く声に、千葉が思わずビクッと震える。
「こんにちは〜!僕たち、キャンプで使う美味しい卵を探してるんです〜!」石川が満面の笑みで手を振りながら駆け寄る。
鬼神さんがゴクリと唾を飲み込んでから答える。「卵か...うちの軍鶏の卵なら最高級だが...」彼の表情が急に暗くなる。「ただし、条件がある」
「条件?」三人が同時に首を傾げる。
「うちの軍鶏『鬼丸』は、俺でも手を焼くほど狂暴でな...卵を手に入れたければ、鬼丸を倒して気を失っている内に卵を取るしかない」鬼神さんが深刻な表情で説明する。
富山の顔が真っ青になる。「え、えええ?倒すって...まさか本当に戦うってこと?」
「ああ、素手でな。武器は一切使用禁止だ。これまで50人以上の挑戦者が来たが...」鬼神さんが遠くを見つめながら続ける。「全員、救急車で運ばれていった」
千葉がゴクリと唾を飲み込む。「きゅ、救急車...?」
石川の目がギラリと光る。「面白そうじゃないか〜!」
「「面白くない〜〜〜!!」」富山と千葉が同時に絶叫する。
鬼神さんが奥の小屋を指差す。「鬼丸はあそこにいる。覚悟はいいか?」
石川が拳をギュッと握りしめる。「望むところだ〜!」
小屋に近づくと、中から異様な気配が漂ってきた。まるで野生の猛獣が潜んでいるような、ピリピリとした緊張感だ。
「おい鬼丸、客だぞ〜」鬼神さんが小屋の扉を開けると――
「ギャアアアア――――!!」
地響きのような鳴き声と共に、巨大な軍鶏が姿を現した。その体高は石川の腰ほどもあり、筋肉質な脚は丸太のように太い。鋭い爪が陽光でキラリと光り、赤い目が石川を睨みつけている。
千葉が震え声で「で、でか...でかすぎる...これ本当に鶏...?」
富山が後ずさりながら「もはや恐竜よ...これ...」
石川が嬉しそうに手をパチパチ叩く。「すげ〜!これは手応えありそうだ〜!」
鬼丸が石川を見据えながらゆっくりと歩み寄る。その足音一歩一歩が、まるで太鼓のように響く。地面が微かに震動している。
「石川〜、やっぱりやめましょう〜!」富山が必死に袖を引っ張るが、石川は既に上着を脱いでいた。
「男と男の真剣勝負だ〜!」石川がプロレスラーのような決めポーズを取る。
鬼丸が翼を大きく広げながら「ギャアアア――――!!」と雄叫びを上げる。その威圧感に、近くにいた他の鶏たちが一斉に小屋に逃げ込んだ。
「第一ラウンド〜、ファイト〜!」石川が勢い良く叫びながら鬼丸に向かって駆け出す。
しかし鬼丸の動きは石川の想像を遥かに超えていた。石川が拳を振り上げた瞬間、鬼丸がものすごいスピードで回り込み、強烈な蹴りを石川の脇腹に叩き込んだ。
「ぐはあああ〜〜〜!!」石川が宙を舞いながら小屋の壁に激突する。
ドガン!という音と共に、小屋の壁に石川の形をしたクレーターができた。
「石川〜〜〜!!」富山が顔面蒼白で叫ぶ。
千葉が目をキラキラさせながら「すごい迫力〜!まるで映画みたい〜!」と無邪気に感動している。
石川が壁から剥がれ落ちながらフラフラと立ち上がる。「やるじゃないか...鬼丸...でも俺もまだまだだぜ〜!」
鬼丸が再び石川に向かって突進してくる。石川がプロレスで覚えたタックルで迎え撃とうとするが、鬼丸の方が一枚上手だった。
鬼丸が石川のタックルを華麗にかわし、今度は背後から強烈なキックを放つ。
「うおおおお〜〜〜!!」石川が前方に吹き飛ばされ、今度は反対側の壁に激突する。
ドガガガン!さらに大きな穴が開いた。
鬼神さんが頭を抱えながら「また小屋が...修理費が...」とつぶやいている。
石川がヨロヨロと立ち上がる。鼻血を垂らし、頬には擦り傷ができているが、目の輝きは失われていない。「へへ...まだまだ〜!」
今度は石川がプロレス技のドロップキックを繰り出す。しかし鬼丸は軽やかにジャンプしてかわし、空中で石川の足を掴んで投げ飛ばした。
「ぎゃあああ〜〜〜!!」石川が回転しながら天井に頭をぶつける。
ドスン!石川が床に落下した瞬間、小屋全体がミシミシと音を立てた。
富山が両手で顔を覆いながら「見てられない...でも見ちゃう...」とつぶやく。
千葉が拍手しながら「石川〜!がんばれ〜!プロレス技もっと使って〜!」と無責任に応援している。
石川が床からゆっくりと這い上がる。額から血が流れ、左腕を押さえている。「ぐ...骨にヒビが入ったかも...でも...」彼の目がギラリと光る。「まだ負けてない〜!」
鬼丸も石川の執念に感動したのか、一度後ろに下がって構えを取り直した。まるで「本気を出すぞ」と言っているようだ。
「最後の勝負だ〜!」石川がプロレスラーの必殺技、ラリアットの構えを取る。
鬼丸も最強の蹴り技の準備をする。両脚に力を込め、まるでバネのように身体を沈める。
「うおおおお〜〜〜!!」
「ギャアアア〜〜〜!!」
二人(?)が同時に突進し、激突した瞬間――
ドッガアアアン!!
小屋が大きく揺れ、屋根の一部が崩れ落ちた。砂煙が舞い上がり、しばらく何も見えない。
「石川〜!」富山が慌てて駆け寄ろうとする。
煙が晴れると、石川と鬼丸が倒れて動かなくなっていた。
「あ...あれ...?」千葉が首を傾げる。
鬼神さんが慌てて駆け寄り、鬼丸の様子を確認する。「おお...鬼丸が気を失ってる...まさか...」
石川がヨロヨロと起き上がる。全身血だらけ、服はボロボロ、でも顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。「やった...ぜ...」
「石川〜!すごいじゃない〜!」富山が感動で涙を浮かべながら駆け寄る。
千葉が飛び跳ねながら「やった〜!石川の勝ち〜!」
鬼神さんが感心しながら頷く。「見事だ...鬼丸を倒したのは君が初めてだ...約束通り、卵を取ってもらおう」
石川が鬼丸の巣に近づき、そっと卵を取り上げる。「ありがとう...鬼丸...いい勝負だった...」
鬼丸が薄っすらと目を開け、石川を見つめる。まるで「お前を認める」と言っているようだった。
一時間後、一行はキャンプ場に戻ってきた。石川は満身創痍でヨロヨロと歩いているが、大事そうに軍鶏の卵を抱えている。
「よし〜!最高のどら焼き作りだ〜!」石川が卵を掲げながら宣言する。しかし声には明らかに疲労が滲んでいる。
千葉が心配そうに「石川〜、大丈夫?病院行かなくていいの?」
「平気平気〜!これくらい〜」石川が強がって答えるが、鼻血がタラリと垂れている。
富山がハンカチで石川の傷を拭きながら「もう...無茶しちゃって...」とつぶやく。
石川がヨロヨロとホットプレートを取り出す。「さあ〜...グレートなどら焼き作り...開始〜...」
まずは卵を割る作業から。石川が震える手で軍鶏の卵を割ると、普通の卵とは明らかに違う濃厚な黄身が現れた。
「おお...すげぇ色だ...」石川が感動でつぶやく。
千葉が覗き込みながら「本当だ〜!黄身がオレンジ色に近い〜!」
富山も興味深そうに「確かに普通の卵とは全然違うわね...さすが軍鶏の卵...」
石川が卵をボウルに入れ、泡立て器でかき混ぜ始める。しかし左腕の骨折のせいで、途中で「痛たた...」と顔をしかめる。
「石川、代わろうか?」富山が心配そうに声をかける。
「いや...これは俺がやる...」石川が歯を食いしばりながら続ける。「命懸けで手に入れた卵だからな...最後まで俺が責任を持つ...」
そんな石川の姿に、千葉が感動で涙ぐんでいる。「石川...かっこいいよ...」
卵が十分に泡立ったところで、次は砂糖を加える。石川が片手で砂糖を計量しながら少しずつ加えていく。
「砂糖は...ちょっと多めに...軍鶏の卵は濃厚だから...バランスを取らないと...」石川がプロの料理人のような真剣な表情でつぶやく。
さらに泡立てを続けると、生地が見る見るうちに白くなり、ふんわりとした泡状になった。
「おお...いい感じ...」石川が満足そうに頷く。
次に小麦粉を加える工程。石川が小麦粉をふるいにかけながら、少しずつ生地に加えていく。混ぜすぎると生地が硬くなってしまうため、切るように混ぜるのがコツだ。
「小麦粉は...さっくりと...混ぜすぎちゃダメ...」石川が丁寧に混ぜている。その集中した表情は、まるで芸術家が作品を作っているようだ。
千葉が興味深そうに見つめながら「石川って料理上手だったんだ〜」
「キャンプでいろいろ作ってるからな〜...」石川が照れくさそうに答える。
最後に牛乳を加えて、生地を仕上げる。石川が牛乳を少しずつ加えながら、優しく混ぜていく。
「牛乳で生地の硬さを調整...これで完璧...」石川が生地の状態を確認しながらつぶやく。
完成した生地は、まるで絹のように滑らかで、ほんのりと軍鶏の卵の濃厚な香りが漂っていた。
「うわ〜...すごくいい匂い〜」千葉が生地に顔を近づけて深く息を吸う。
富山も感心しながら「本当に普通の生地とは違うわね...この濃厚な香り...」
石川がホットプレートを温めながら「よし...焼くぞ...」
ホットプレートが適温になったところで、石川が生地をお玉ですくって流し込む。ジュウ〜という音と共に、さらに香ばしい香りが立ち上った。
「おお〜...」三人が同時に感嘆の声を上げる。
生地がホットプレートの上で見る見るうちに形を変えていく。普通のどら焼きの生地よりも厚みがあり、表面にも美しい気泡ができている。
「色付きが...すごくきれい...」石川がうっとりとつぶやく。
焼き色が付いてくると、それはもう芸術作品のような美しさだった。黄金色に輝く表面は均一で、まるで職人が作ったかのような完璧な仕上がりだ。
「きれい〜!まるで絵みたい〜!」千葉が感動で声を上げる。
富山も目を見張りながら「こんな美しい焼き色、見たことないわ...」
石川が裏返すタイミングを慎重に見計らっている。「もうちょっと...もうちょっと...今だ!」
フライ返しで生地をひっくり返すと、裏面も完璧な黄金色に焼き上がっていた。
「完璧だ〜!」石川が嬉しそうに叫ぶ。
反対側も同じように丁寧に焼き上げる。生地がふっくらと膨らみ、表面は黄金色に輝き、まさに理想的などら焼きの生地が完成した。
「できた〜!」石川が完成した生地を掲げながら叫ぶ。
その瞬間、石川の身体がグラリと揺れた。
「あ...あれ...?」石川が困ったような表情を浮かべる。
「石川〜?」千葉が心配そうに声をかける。
「なんか...急に...めまいが...」石川がフラフラとよろめく。
富山が慌てて駆け寄る。「石川〜!大丈夫〜?」
「俺は...大丈夫...生地は...完璧に...できた...から...」石川がそう言った瞬間、バタリと倒れて気を失ってしまった。
「石川〜〜〜!!」富山と千葉が同時に叫ぶ。
富山が石川の頭を膝に乗せながら「おーい!石川〜!起きて〜!」と頬をペタペタと叩く。
千葉が慌てながら「救急車呼ぶ〜?病院行く〜?」
しかし石川は気持ちよさそうに寝息を立てている。どうやら疲労で気を失っただけのようだ。
富山がホッと胸を撫で下ろしながら「よかった...気を失ってるだけね...」
千葉がホットプレートの上の生地を見つめながら「でも...どうしよう...あんこがない...」
富山も困った表情で「そうね...石川があんこを用意してたのかしら...?」
二人が石川の荷物を探してみるが、あんこは見つからない。
「どうしよう...せっかく完璧な生地ができたのに...」千葉が残念そうにつぶやく。
富山が生地を見つめながら「でも...この生地、すごくいい香り...」
千葉も頷きながら「うん...もったいないよね...」
富山が思い切って提案する。「生地だけでも食べてみない?こんなに美味しそうだし...」
「そうだね〜!石川も喜ぶと思う〜!」千葉が同意する。
二人が恐る恐る生地を一口食べてみる。
「あ...」富山の目が丸くなる。
「おお...」千葉も驚いた表情を浮かべる。
そして同時に叫んだ。
「「美味しい〜〜〜!!」」
富山が感動で涙を浮かべながら「こんな...こんな美味しい生地初めて〜!」
千葉も興奮しながら「ふわっふわで〜!甘くて〜!でも軍鶏の卵のコクがすごい〜!」
生地は信じられないほどふわふわで、口の中に入れた瞬間、まるで雲を食べているような軽やかさだった。しかし同時に、軍鶏の卵の濃厚なコクと風味が口全体に広がり、普通のカステラやスポンジケーキとは比べ物にならない深い味わいがあった。
「この食感...まるで高級ホテルのパンケーキみたい...」富山がうっとりとつぶやく。
「でもパンケーキよりもっとしっとりしてて〜、卵の味が濃厚で〜」千葉が幸せそうに目を細める。
二人がもう一口食べると、今度は軍鶏の卵の特有の香ばしさが鼻に抜けた。それは普通の鶏の卵では決して味わえない、野性味あふれる力強い香りだった。
「この香り...すごい...」富山が深く息を吸いながら感動している。
「うん〜!なんか...大地の恵みって感じ〜!」千葉が詩人のような表現をする。
生地の甘さも絶妙で、軍鶏の卵の濃厚さと完璧にバランスが取れていた。石川が調整した砂糖の量がまさにパーフェクトだったのだ。
「石川...すごいわ...」富山が気を失っている石川を見つめながらつぶやく。
「うん...こんな美味しい生地作れるなんて...」千葉も感心している。
二人がまたひと口食べると、今度は生地の中にある細かい気泡が口の中で弾けるような感覚があった。それがまた、ふわふわ感を倍増させている。
「この食感...クセになる...」富山がもうひとつ手に取る。
「あ〜!富山ちゃんずるい〜!」千葉も慌てて手を伸ばす。
気がつくと、二人は完璧に焼き上がった生地を全て食べ尽くしてしまっていた。
「あ...」富山がハッとする。
「あれ...?」千葉も困った表情を浮かべる。
「全部食べちゃった...」二人が同時につぶやく。
そんな時、石川がムクリと起き上がった。
「あ...俺...気を失って...?」石川がキョロキョロと周りを見回す。
「石川〜!起きた〜!」千葉が嬉しそうに駆け寄る。
「大丈夫?体調は?」富山が心配そうに声をかける。
石川が辺りを見回しながら「あれ...どら焼きの生地は...?完璧に焼けてたはずなんだけど...」
富山と千葉が顔を見合わせて、バツが悪そうな表情を浮かべる。
「あの...石川...」富山が申し訳なさそうに口を開く。
「実は...」千葉も気まずそうにつぶやく。
「まさか...」石川が嫌な予感で青ざめる。
「食べちゃった...」二人が小さな声で謝る。
「ええええ〜〜〜!?」石川が絶叫する。
「でもでも〜!すっごく美味しかったよ〜!」千葉が慌ててフォローする。
「本当に信じられないくらい美味しかったの〜!あんこなしでも十分すぎるくらい〜!」富山も必死に説明する。
石川が立ち上がりながら「そ、そうなの...?」
「うん〜!あの生地だけで、もうお店で売ってるどんなスイーツよりも美味しかった〜!」千葉が興奮しながら説明する。
富山も頷きながら「軍鶏の卵の濃厚さと、あの完璧な焼き加減と、甘さのバランス...まさに芸術品だったわ〜」
石川が照れくさそうに頭を掻きながら「そっか...そんなに美味しかったのか...」
千葉が涙を浮かべながら「本当に本当に美味しかったの〜!口の中でふわっと溶けて〜、でも軍鶏の卵のコクがじわ〜って広がって〜」
富山も感動を込めて「あの食感...まるで高級フレンチのスフレみたいで...でももっと力強くて...野性的で...」
「野性的って...」石川が苦笑いしながらつぶやく。
その時、周りのキャンパーたちが興味深そうにこちらを見ていることに気づいた。さっきまでの騒動と、今の二人の感動ぶりに興味を持ったようだ。
「あの〜、すみません」隣のテントの中年男性が恐る恐る声をかけてきた。「さっきから良い匂いがしてたんですが...何を作ってらっしゃったんですか?」
石川が胸を張りながら答える。「軍鶏の卵で作ったどら焼きの生地です〜!」
「軍鶏の卵〜!?」男性が驚いた表情を浮かべる。
すると、他のキャンパーたちも次々と集まってきた。
「軍鶏の卵なんて初めて聞いた〜!」
「どんな味なんですか〜?」
「普通の卵と違うんですか〜?」
質問攻めになった石川が、誇らしげに軍鶏との戦いの話を始める。
「いや〜、実は軍鶏を倒して卵を手に入れたんですよ〜」
「ええ〜!?倒すって〜?」子供たちが目をキラキラさせて聞き入る。
石川が身振り手振りを交えながら「こう、バシッと来たところを、グワッとかわして、ドーンと決めたんです〜!」
千葉が興奮しながら補足する。「石川すごかったんだよ〜!プロレス技も使って〜!小屋が壊れちゃうくらい激しい戦いだったの〜!」
富山がため息をつきながら「本当に無茶して...病院行きになるかと思ったわ...」
周りのキャンパーたちが「すごい〜!」「本当に軍鶏と戦ったんですか〜!?」と大盛り上がり。
そんな中、一人の初老の女性が「で、その軍鶏の卵で作った生地はどんな味だったんですか?」と核心を突く質問をした。
千葉と富山が顔を見合わせて、ニヤリと笑う。
「それがもう...」千葉が手を胸に当てながら語り始める。
「この世のものとは思えない美味しさだったの〜!」富山が大げさに身振りをつけて説明する。
「まず食感がね〜、ふわっふわで〜、でもしっとりもしてて〜」千葉が空中に手を泳がせながら表現する。
「そして軍鶏の卵の濃厚さが〜、口の中でじわ〜って広がって〜」富山が目を細めながら思い出している。
「甘さも絶妙で〜、石川の調合がパーフェクトだったの〜!」
「香りもすごくて〜、野性的で力強くて〜!」
二人の熱弁に、周りのキャンパーたちがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
「そ、そんなに美味しかったんですか〜...」一人の主婦が羨ましそうにつぶやく。
「食べてみたい...」子供が正直な気持ちを口にする。
石川が困った表情で「でも生地はもうないんですよ〜...全部食べられちゃって...」
すると、キャンプ場の管理人のおじさんがやってきた。
「おお〜、また石川さんたちですね〜!今度は何をやらかしたんですか〜?」管理人のおじさんが苦笑いしながら声をかける。
石川が照れくさそうに「いや〜、軍鶏の卵でどら焼き作ろうとしたんですけど〜...」
「軍鶏の卵〜!?それはまた豪華な〜!」管理人のおじさんが驚く。
千葉が興奮しながら「それがもう、信じられないくらい美味しかったんです〜!生地だけでも最高級スイーツみたいで〜!」
管理人のおじさんが興味深そうに「ほ〜、それは食べてみたかったですね〜」
富山がハッとして手を叩く。「そうだ〜!もう一回作りましょう〜!」
「え〜?」石川が困った表情を浮かべる。「でも卵はもうないし...また軍鶏と戦うのは...」
千葉が目をキラキラさせながら「今度はみんなで応援するよ〜!」
周りのキャンパーたちも「見てみたい〜!」「応援します〜!」と盛り上がる。
石川が青ざめながら「ちょっと待ってよ〜...さっきので骨にヒビ入ってるかもしれないのに〜...」
管理人のおじさんが笑いながら「まあまあ、無理はしないでくださいよ〜。でも今度機会があったら、ぜひ食べさせてもらいたいですね〜」
その時、遠くから「コケコッコ〜」という鳴き声が聞こえてきた。
みんなが一斉にその方向を見ると、なんと鬼丸が鬼神さんと一緒にキャンプ場にやってきていた。
「あ〜!鬼丸〜!」石川が嬉しそうに手を振る。
鬼神さんが苦笑いしながら近づいてくる。「すまん...こいつがどうしてもお前に会いたがってな...」
鬼丸が石川の前に来ると、まるで猫のように石川の足に頭を擦り付けた。
「おお〜、鬼丸〜」石川が優しく軍鶏の頭を撫でる。
周りのキャンパーたちが「すご〜い!」「本当に仲良しになってる〜!」と感動している。
鬼神さんが袋を差し出しながら「実は...お礼だ。鬼丸の卵をいくつか持ってきた」
「え〜!本当ですか〜!」石川の目がキラリと光る。
千葉が飛び跳ねながら「やった〜!これでもう一回作れる〜!」
富山がホッとしながら「よかった〜、今度は戦わなくて済むのね〜」
石川が鬼神さんに深々と頭を下げる。「ありがとうございます〜!今度は完璧などら焼きを作りますよ〜!」
鬼丸も「コケ〜」と嬉しそうに鳴く。
周りのキャンパーたちが拍手しながら「良かったですね〜!」「今度は見せてください〜!」と祝福の声をかける。
管理人のおじさんが笑いながら「それじゃあ今度は、キャンプ場のイベントとして『軍鶏卵どら焼き大会』でもやりましょうか〜?」
「おお〜!それいいですね〜!」石川が興奮して同意する。
千葉が手をパチパチ叩きながら「みんなで作って、みんなで食べよう〜!」
富山が苦笑いしながら「今度はちゃんとあんこも用意しましょうね〜」
鬼丸が満足そうに「コケコッコ〜」と鳴き、まるで「また美味しいどら焼きを作ってくれ」と言っているようだった。
石川が夕日を背に両手を広げながら「これぞ〜!俺たちのグレートなキャンプだ〜〜〜!!」
「「「おおおお〜〜〜!!」」」
キャンプ場全体に石川たちの声が響き渡った。今日もまた一つ、伝説のようなキャンプの思い出が生まれたのだった。
鬼丸の卵で作った生地の味は、きっとみんなの記憶に永遠に残ることだろう。そして石川の次なるグレートなキャンプ企画に、みんながハラハラドキドキしながらも期待を寄せているのであった。
遠くから鬼丸の「コケコッコ〜」という鳴き声が聞こえてきて、まるで今日の冒険を讃えているようだった。きっと明日もまた、石川たちの奇想天外なキャンプライフが始まるのだろう。
富山が小さくつぶやく。「次は何をするのかしら...今度はもう少し安全な企画にしてほしいわね...」
千葉が無邪気に笑いながら「でも危険な方が面白いよ〜!」
石川が既に次の企画を考えているような目をしながら「今度は...伊勢海老を素手で捕まえて、究極の海鮮丼を...」
「「だめ〜〜〜!!」」富山と千葉(と鬼神さん)が同時に叫んだ。
鬼丸も「コケコッコ〜」と呆れたように鳴いて、首を振った。
こうして、また一つの伝説的な『グレートなキャンプ』が幕を閉じたのであった。
『俺達のグレートなキャンプ119 いい生地のどら焼き作る為に、軍鶏倒そう』 海山純平 @umiyama117
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