②『第二章』という小説の結末について

第二章という小説がある。小説家になろうにて、俺が挙げていたものだ。時期にすると大学に入って1年くらいが経った頃に書いた作品で、こじんまりと掲載された。その中でもコメントをしてくれた人は嬉しく思う(書き方的に多分友人の誰か)。その本文がこれだ。時間があれば読んでくれると嬉しい。小説をまんま載せるわけではなく(自分のだから著作権も何もないのだが)、その後についても少し書きたいと思う。


第二章


 元々パッとしない人間だった。勉強ができるわけでもなければ喧嘩が強いわけでもない。スポーツに関しては習い事などで経験はあるものの苦手だった。


 そんな中、唯一好きなものがあった。昆虫だ。小さい頃、蚊が自分の血を吸って膨らんでいくのを面白いと感じた。そのエピソードは奇抜でウケが良いので何度かプレゼンのつかみにも使ったことがある。


 小学校1年生の夏休みには宿題を1日で終わらせて、残りはずっと虫捕りをしていたことを鮮明に覚えている。夏の蒸し暑さに籠る草の匂いが好きだった。夏は独特の匂いがするが、その感じ方は年齢によって異なるのだと今は思う。身長や嗅覚の敏感さなど科学的に説明できそうなところは多いが、それには触れずに夏の思い出としてそっとしておこう。



 中学に入るともっぱら生物学の研究をしていた。研究といっても気になったことを実験するというもので、プロのそれとは異なる。中3の秋、担任が生物学のコンクールを紹介してくれた。自分が趣味で行っていたアゲハチョウの研究を、せっかくだからと推薦してくれたのだ。


 ちょっと鹿児島行ってくるとクラスの友達にカッコつけて、飛行機で会場へ向かった。こわばってはいたが、なぜかうまくいく気がしていた。


 会場では10名ほどの審査員と一般のお客さんがおり、自分の作ったポスターと共に研究を説明するという方式だった。他にも多くの応募者がいたので自分のところに多人数が回ってくることは無かったが、一人一人に対して真摯に向き合い説明することができた。


 一般のお客さんに説明をしている中で、赤い花を胸元につけた人物が目の前に立った。審査員だ。緊張の二文字が頭をよぎるが、なるべく顔に出さないようにする。プレゼンのやり方は直前までの実践も相まって体に染みついている。その染みを取りこぼすことなく丁寧に伝えることができた。


「良かったよ」


 審査員はその一言だけを残して去っていった。もちろんこれだけではまだ結果は分からないが、相手の雰囲気から良い評価だったのだと分かった。飛行機の都合上、帰りの空港で引率の先生から結果を言い渡された。


 最優秀賞。これが自分の結果だった。浮かれる気持ちを押さえつつ飛行機に乗る。滅多に買わない鹿児島のお土産を握りしめて、帰路についた。その後中学では表彰され、千人の前でのスピーチの機会も与えられた。こうして最初のコンクールは大成功で幕を閉じることができた。



 高校に入り、まず決心したことは生物部に入ることだ。中学までは親のアドバイスもあって運動部に所属していた。高校では自由だったので、飼育を通してさらに生き物を知ろうと生物部に入部した。また、高校一年の後半では新たにアリの研究を始めた。高校二年でのコンクール応募を目標に研究を、今度はさらに専門性を上げて行った。


 アリの研究が中盤を迎えようとしていた高校二年の春、学校の授業でグループ研究の授業が始まった。これは半年間という長い期間を設けて、各自の得意分野ごとにグループ研究をするというものだった。自分としては授業内で研究をできるというのはありがたい。たまたま生物系のカテゴリーがあったので、そこで研究を行うことになった。


「じゃあ班長よろしくね!」


 僕の役職は班長だった。他にも生物に詳しい人は多かったが、仕切るという点で選ばれることとなった。個人的にもこれは嬉しい事だった。自分がリーダーとして皆を引っ張っていける。そう思っていたのだ。だが研究は困難を極めた。そもそも研究のテーマが決まらないのである。


 そこにはいくつかの原因があった。班のメンバーの専門分野の違いである。昆虫、魚類、哺乳類、中には恐竜が専門分野の人もいた。種類どころか歴史も違う研究者の卵たちの間にヒビが入らないというのは無理があった。


「そんなの私やりたくないよ!」


「それだと実証が難しいよ」


 否定の言葉ばかりが飛び交った。僕は班長として皆をうまくまとめようとした。班の仲間を家族だと思うことにし、同じ目線での会話を心掛けた。説得や交渉を繰り返して、心理学と絡めたテーマを設定した。


 問題はここからだった。やはり納得できない数人がおり、また研究テーマを再度話し合うことにしたのだ。もちろん他の班は既に、それぞれのテーマに従った研究方法を模索する段階に入っている。中には既に研究を実施し始めているところもあった。


 僕の中に生まれたのは焦りだ。一人だとこんなことにはならないのに、その言葉を胸の奥に隠しながら話し合いを行った。まとめた方法としては折衷案だ。それが良いと思った。なんとかその方法で決めたテーマで足踏みを揃えることに成功した。


 しかし踏んだ地盤が緩いと崩れるのは一瞬である。言い争いでほとんど授業時間を終え、研究はほとんど進まないまま夏休みを迎えることとなった。発表自体は冬とまだまだ先で、ここでは少し心に余裕があった。



 終業式の日、担任に呼び出された。そこにいたのは中学時代の担任、僕に最初のコンクールを進めてくれた人物である。中学の頃に所属していた運動部の顧問だったこともあり、個人的にはかなり恩を感じていた。その人から提示されたのが、現在取り組んでいるグループワークをコンクールへ応募することだった。


 個人的にはやりたくなかった。完成度が高いとは到底思えないからだ。けれども結果的には、中学の担任への恩返しの意味も踏まえて引き受けることにした。もしかしたら自分の将来の糧になるかもしれない。このときはまだ、自分の歩みを妨げる障害も成功への茨だと感じていた。


 夏休み。塾や部活などはあれど、本来ならば高2の夏休みは余裕があるはずだ。だがこの年は違った。コンクールに向けて、研究を早めに進める必要があったからだ。実験まで完成している必要はないが、プランは完璧なものでなくてはならない。


 実験の方向性はなんとか定めることに成功したので、具体的なプランを話し合った。ここでも意見が割れる。しかしそのヒビの入り方も、最初の頃とは異なってきた。おそらく今までの口論がその人自身に対する嫌悪に変化しかけているのだろう。荒々しい言葉遣いが増えてきた。


 僕はひたすらそれを止めた。アリは既に僕の頭の中には巣くっていなかった。


 発表まで後1週間になった。発表前に、実際にzoomで大学の教授に説明するという機会があった。もちろん班長なので発表者は僕だ。結果から先に述べると、酷評された。それも高校生には言いすぎなレベルで。このままでは駄目だ、そんなことは発表している自分が分かっていた。教授の質問に空返事で答えながらなんとか時間をやり過ごした。パソコンを閉じた瞬間、目からは涙があふれてきた。


 これには班のメンバーも心配していた。元々個人では仲のいい人が多かったのは救いだったが、仲がいいからこそ友人同士が争っているのを見ているのは辛かった。


 発表が近づき、大きく内容の変動は出来ない。それなら話し方を変えようと考えた。元々プレゼンテーションには自信があった。とにかく場をやり過ごそうという思いもあったが、低い評価をとることはさらに嫌だったので全力で原稿を考えた。当日、あまりうまくいった感覚は無かった。自分で納得していないからだろう。


 後日、学校から結果が返ってきた。銀賞だった。そんなわけはない、その言葉を飲み込んで賞状を受け取った。自分では持っていたくなかったが、破り捨てるのももったいないので班員にあげた。


 高校での研究発表自体はまだ先だ。言い争いは絶えない。各々の研究者としての拘りもあるのだろう。


 しかし問題はそこではない。もちろん班の中でレベルの差はある。これに関しては仕方ないだろう。全員が職業で学者を目指しているわけではない。能力の高い者は低い者を見下し、能力の低い者は高い者を奇妙だと揶揄する。前までは家族だと思っていた人たちが他人に見える。この壁を前にして、登りきることが僕にはできなかった。


 その日は突然訪れた。心を支えていた軸がコンクリートのようにガラガラと音を立てて崩れた。精神が壊れるのはこういうことかと客観的に分析できたのを覚えている。世界が端から黒い泥のようなもので埋まっていくような感覚。次第に何も見えなくなり、その日から僕は高校へ行かなくなった。


 そこから一時的な回復と落ち込みを繰り返し、たまたま回復しているときに大学受験の勉強ができたのでなんとか合格することができた。もう理系は嫌だったので共通テストの1か月前に文転した。今思ってもかなりの賭けだったと思うが、持ち前の勝負強さで乗り切ることができた。



 大学生になって時間が出来たので、将来探しと並行して自分の人生を考えてみることにした。最も感じたのは波の多さだ。僕の人生は波が多い。それもかなり大きな波。飲み込まれてしまうことも多かった。大学に入ってからはサークル活動に勤しみ、また好調な波を掴めたような気がしている。


 客観的に自分を分析していく中で、高校までは大きく第一章として括れることが分かった。大学で今までとは違う新たな変化を感じたからだ。そう考えるとこれからは第二章。小説みたいだと思った。人の人生をまとめれば1つの小説にできる、波が多い人生程面白い、このような話は聞いたことがある。自分の人生を振り返りつつ、小説を書けたら新たなスタートを切れるかもしれない。こうして僕の第二章は幕を開けた。


 以上だ。読んでくれてありがとう。最近の小説と見比べると圧倒的に読みにくいが、内容としてはおおむね変更はない。むしろ良く書き出せている方なのではないだろうか。


 自画自賛はこれくらいにして、実際にその二章では何があったのかを少しだけ話す。今は落ち込んでいるが、意外とこれを書いた後は順風満帆だった気がする。


 ただ、人間とは同じ過ちを繰り返す生き物だ。俺も例外ではない。


 これは持論だが、一度精神が落ち込んだ人間はまた落ち込みやすいと思っている。


 別にだから我慢しろとかそういう話ではない、むしろ早めに病院とか行かないと大変なことになるのが分かっているから。


 話を戻そう。なぜまた落ち込むのかと言うと、道のりを知っているからだ。自分が最底辺に落ちていく道のりを。


 想像も容易にできるはずだ。だって経験しているのだから。まぁ俺も、そうなってしまったってことだ。


原因は以前とは異なる。ただ、結局行きつく果ては人間関係だった。


 俺は何か人間関係に問題が生じたときに、どうしても相手のせいに出来ない。おそらく自分の言葉、行動、実力のどれかに原因があるはずだから。


 そればかりは習性なので仕方がない。諦めるしかない...まぁ、就活とかもあるので完全に諦めるわけにはいかないが。こう見えても、自分を偽るのは得意だ。まぁ俺を知っている人だと作っているのがバレてしまうのだが。初対面では基本大丈夫だ。


 こう何度も落ち込んでくると、自分の苦手なタイプやどういう場面で落ち込みやすいのかが分かってくる。


 まず、俺は批判から入ってくる人が嫌いだ。批判しかしない人はもちろんのこと、批判スタートの人も無理だと分かった。


 合理性を求めて、先に批判から入る人は意外といる。それはその人なりの優しさとも言える。しかし、俺にはどうしても受け入れることが出来ない。


 人間関係が円滑に進む人は、たとえ自分の嫌いな部分があったとしても他によい部分を見つけて評価するのが上手いように感じる。


 俺はその逆だ。たとえ素晴らしい人でも、1つでもあまりに嫌いな部分があれば遠ざかってしまう。おそらく幼いのだろう。


 しかし、ここで長く付き合いを続けてしまうと俺はさらに落ち込み、這い上がって来られないことを学んだ。価値観が異なる人と関わることは、確かに大切だ。だが身を削ってまで付き合う必要はないと思っている。


 相手は元気、自分はボロボロ。そんな状態で対等な議論ができるのだろうか。


 結局俺が考え出したのは、1人でも出来ること。その案として、小説を考えた。


 実際、物語を書いているときはワクワクする。本当に楽しいかは分からないが、そう思い込むようにしてなんとか自分を保っている。


 小説ならば、批判してくる人は居ない。見せない限りは。個人的に、ネットで叩かれるのはあまり気にならないタイプだ。見えないから。


 むしろ、今まで仲良くしていた人間が急に違う批判の面を見せるのに耐えられないのだと思う。


 そのため、俺はなろうやカクヨムで小説を上げさせてもらっている。今のところほとんど無名でアンチコメントは貰っていないから、実際に貰ったら傷つくかもしれないが。


 X(旧Twitter)もやっている。Xでは多くの創作者がお互いに小説を上げたり、読み合ったりしている様子が多くみられる。


 #RTした人の小説を読みに行く、というハッシュタグがある。これを使ったことのある人も多いのではないか。


 人気のタグである一方で、相互フォローはずるではないのか、まじめにやっている人が可哀想だなどの意見がある。


 俺はこのハッシュタグを使ったことが無い。それどころか、リポストすらしたことがない(すまん、1回だけ仮面ライダーWの投票でやったことはあるわ)。それでもなんとかコツコツフォロワーを増やしてきた。


 俺が使わない理由は、ずるいとかそういう理由ではない。普通にそこで人と仲良くなるのが怖い。もし仮にその人が感想を書いて批判から入っていた場合、俺はその人を嫌いになってしまうからだ。

 

 多くの人と関われるのがSNSの良さだという話はよく聞くが、自分でその関係性を調整できることもSNSの良さだと俺は思っている。


 俺は広く浅くを目指していきたい。お互いの船に乗ってすれ違いたいわけではなく、遠くの船の灯りが見られればそれで十分なんだ。


 まぁそんなこんなで、ひとまずは小説を書き続けることにしようか。


 公募に落ちたりで落ち込むことはある。というか今もそうだ。それでもダメージは明らかに少ない。他に1人で出来ることで面白いことがあればやるかもしれないが、それはそれで一興だろう。


 ここまで見てくれてありがとう。それではまた。

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