15.割れた竹が己へ倒れ
「いいよ〜ん」
「ありがとうございます、それでは――」
「うん、合格合格。百点に二〇点オマケ」
「――いや待ってください待ってください……!」
受け取ってすらいない。本当に待ってください。尊さのあまり「待って」と連呼するのとは訳が違います。とにかく待ってください。
先生の採点はザルであろう事なんて予想していたし、私はそれにちゃっかり期待して彼女にテストへの参加を依頼した。この部内で一番の権力者である朱筆先生の了解を以てして、私はこの場を収めるつもりだった。
けれど、これでは駄目だ。いくらなんでも。
「ちゃんと判断しなさいよ
私と楊ィ、もとい朱筆先生の間に割り込む姿。丸っこい後頭部が私のすぐ前に。
「ええ〜? 間違ってないよ二川ちゃん」
「二じゃなくてイチ! 薄々思ってたけどわざとやってるでしょお!?」
朱筆先生が市川さんに物凄い勢いで詰められています、案の定。顧問の先生ですらこの状況の救いたり得ないのですか。なんて事。
――いや。まだ何とかしてくれる可能性はあるはず。勢い付けて噛みつかれようとも、先生は家のチワワに吠えられる飼い主のごとくへらへら笑っている。大人の余裕ってものを、見せつけている。
小柄寄りである市川さんに合わせて、朱筆先生はいわゆるヤンキー座りに腰を落とした。
「考えてみてよイッちゃん。わざわざこんな女バスに引っ張られてそうな女達がさぁ、ジメジメとしたウチの部のテストまともに受けてこんだけ書いて来てくれたんだぜ。キラキラ青春捨ててまでそうしてんだ。そんだけで百点超えてるでしょ」
「……それは……そうだけど。別に佐野は通して良いし……でも、そうじゃない……そうじゃないの! 今のこいつだけはダメ!」
ああ悲しきかな。顧問ですら自虐するし、それをだあれも否定出来ない文芸部。
ゆるいツインテールを振り回して、市川さんはお姉さんを指差した。
「決闘を申し込むわ市川
「決闘!?」
臼杵さんと私がハモる。気持ちは分かりますけれどそんなに目を輝かせないでください。今大変なんです。
お姉さんと佐野さんの二人が初めてここに来た時には及ばないけれど、他の皆も明らかに動揺していた。急に申し込まれたお姉さん、それから隣の佐野さんだって少しは目を丸くしていたし、朱筆先生だけがへらへら笑いを浮かべたままだった。
「ま? カワイイ妹が頑張って啖呵切ってんだし、受けてやるけどよ。部長、何すんだよこんな文化部で決闘って」
「知りません……」
「また知らねえのかよ、じゃあ朱筆センセ」
「あたしも知らな〜い」
となれば。市川さんへと視線が集中する。
「えっ……えーっと、決闘、は……」
人差し指を突き合わせて口をもごもご動かす市川さん。
何だかここのところ文芸部に新要素が次々と追加される流れだけれど。とりあえず、勢いで喋るのなるべく止めにしませんか。そう思わざるを得ない私だった。
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