13.おしまいにおねがいを
「嫌に決まってるでしょお!」
顔が真っ赤な市川さん。がしゃ、とパイプ椅子を蹴った。とうとう机を離れて結果待ちの二人の方へと詰め寄って行こうとする。今度は私が必死で腰に掴まる側に回った。
「いけません市川さん……! せめて殴り合うなら解釈で……!」
「そもそも殴んないわよ離して部長! ……もう! 分かってんならとっとと帰れっ……! お姉様なら間に合ってるの!」
「あら、二人居ても良いじゃない?」
「何の話ですか!?」
思わず腕を緩ませかけた。ああいけない。私は力を込め直す。
それにしても、さっきから我が部がとてもすごい事になっている気がする。イケ女が二人入部希望だと言ってやって来た時点で現実離れしているのに。これではまるで文芸部自体がコンテンツ。
「青依はね、ふたりきりだと『お姉様』と呼んでくれるのよ」
先輩の――この部ただ一人の高三、
「秘密って約束でしょうお姉様!!」
「きっかけを作ったのは貴方です市川さん〜……」
「しらばっくれないんですねぇ、市川せんぱい」
「一々反応して実質的な肯定をしているね」
「しっかし、だからあんなに黙ってたんでござるか。三日前は」
顎に手を当てた真昼の言葉に私は回想する。
正直あの日は真昼本人と臼杵さんの喋りの印象が強すぎるし、佐野さんに触れられてからは記憶もあやふやだけれど。そう言われてみれば皆に抱きつかれた以降市川さんの声を聞いた覚えがない。なるほど。
「……ひっでぇなあカワイイ妹よ、昔は『お姉ちゃんと結婚するぅ〜』なんて言ったのに。ヨソの女と浮気かぁ〜?」
肩をすくめて、手を広げて、カートゥーンアニメめいてくるくるよく動く大柄な体。それから。よよよ、あからさまな泣き真似まで市川さんのお姉サマ、いやお姉さんは始めた。市川さんのと取り違えたのだろうか、ピンクのハンカチを目元へ当てている。
「責任能力なんて皆無に等しい歳の話! 無効!」
「つまり言った事実自体はあるんですねぇ〜?」
「正直だね。左右の趣味は僕と合わないが、こういうところは好ましいと思うよ」
「青依、ワタシは百合に挟まる女になっていたのね……? そんな……」
花時先輩まで泣き真似を始めてしまったし、ぷんすか怒ったままの市川さんは一大コンテンツにされています。もう私一人ではどうにも。
けれどまだ一応部外者であるし後輩でもある、そして一度私を引き上げた佐野さんに救いを求めるのは違う。絶対に違う。
ああ、何か都合良く救いの一手が無いものか。何か――。
「……お〜う、随分今日は賑やかじゃ〜ん? 全員いんの?」
「居るどころか増えてるでござるよ、先生」
「いい加減人員を把握してもらおうか」
――何か!
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