5.傾かぬ陽

「……って」


 あまりに二人が青春部活もののキャラクターめいていて感動しかけたので、私は大事な事に言及しそびれそうになった。こんな、この後CMかEDに入りそうなもの現実で見れるとは思わなくって。

 ここから主人公達がそれぞれの力を披露していくところですよね――そうじゃなくて。


「私、そんなテスト知りませんよ……!?」

「知らねえのかよ」


 はい、知りません。

 降りかけているとはいえ部長は部長。拙いながらもこの肩書を得てからは色々な事を引っ張ってきたつもりだ。文芸部については現メンバー中一番か二番くらいには有識者であるはずだ。なのにどうして私の知らないテストが生えてくるんですか、今。こんな土壇場でテコ入れをしないで。

 そんな事をしなくたってこの部にきっとあすは来る。私の大事で素敵な仲間達が残ってくれるのなら。


「部長が知らないのも無理ないね」

「部長のオタク力は53万! わざわざ試す必要無いですからな」


 うんうん頷き合う臼杵さんと真昼。何だかとても大嘘をつかれている気がする。そんな計測ギリギリな程に強くなった覚えはありません。ただ十年彼女を想っただけの一般夢女子です。


「僕達の仲間になるならば」

「貴殿らの『好き』を見せていただこう!」


 さて、部員の二人は非常に興が乗っている様子だけど止めなければならない。だって。


「……あの二人が本気で文芸やりたいなら。最悪よね、この状況」


 先輩がぼそりと零す。そう、私の言いたい事もだいたいそうです。何も本物の文学少女に対し日ごろ罪悪感を抱いていないわけではないのだから。

 現に入部希望の片方――右側に立つ、高等部の人。私の推しに似ていない方の彼女はとても眉間に皺を寄せている。目つきの鋭さも先程入って来た時より増した。ああ、ため息までついてしまっている。ごめんなさい、異常事態に引っ張られているだけなんです。普段は神様みたいにいい子なんです。こんな私の友達なんだから。

 

「おい、やっぱ帰っ――」

「――受けます」

「んぇ」


 真昼が妙な声を上げた。臼杵さんは大きく後退りした。私は私で立とうとしていた椅子から転げ落ちてしまったし、皆が三者三様に驚きを見せていた。

 中等部の彼女は何も動じる事無く、その中で動き出す。もう誰も止めることなんてしないで、ただ彼女に視線を吸われている。


「私にだって『好き』はあるので」


 木の床をゴムの靴底が叩いて鳴らす。置かれた長机の側を沿って歩く彼女はやがて足を止めた。

 床に落ちた私の、眼の前で。

 明るい部室の中、影が差した。


「――その為にここに来たんですから」


 手が冷たくなって、それから顔が熱くなる。

 私は膝をついた彼女に手を取られていた。きっと、ページの向こうの彼女に触れられたら同じくらいだろう。そんな温度に触れていた。

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