第13話

新年会からの帰り道、しばらく歩いているとあみが手を繋いでくる。

「スグルさん、私達、大丈夫かな?大丈夫よね?」スグルはなるたけ明るく「大丈夫だよ、ショウやサリー、ハナ、皆、信頼できるし、まだXN国はこちらへの接触についてはしっかり組織立っていない。ショウらがこちらに逃れたことは向こうの世界にとって良かったんだ。そして、我々は備えも用意できつつある。」

あみはにっこりすると道横にスグルを引っ張り、「ありがとう、今年もよろしく。」とスグルの頬にキスをした。そして、二人は腕組みをして歩き始める。何の不安もなくこうしてられたら、スグルは平穏を祈らずにはいられなかった。


 冬休み中も3学期始まってからもスグルはバンド活動に打ち込んだ。もちろん勉強もしていたが。杏と拓哉とやっているバンドはボ-カルの杏はドラムも叩く。拓哉のベ-ス、スグルのキ-ボ-ドだ。たまにギターを杏がやり、ドラムは客演を呼んだりもするがバンドフェスでは3人で通してきた。もう3回目だ。オリジナル曲の詩は杏が作曲は拓哉がメロディラインを、スグルはアレンジを担当している。今回のフェスで演奏するオリジナル曲は特に3人の思いが込められているものだった。


 フェスの当日になった。会場に行き、参加関係者の席に陣取ると、あみがプログラムを持ってきてくれる。坂上先生のバンドは9番目、ウチらの二つ後だ。「どう言う曲をするのか気になるな。」あみに言うと、横からしずかが「いや、演奏そのものよりどうこのフェスに絡めて仕掛けてくるかよ。」しずかはプログラムを見つめながら呟く。

「しずかは冷静ね。でも演奏で仕掛けてくるかもよ。」とあみも相手の出方の可能性をあれこれ考えていた。


サキはアルファ界の様子を知ってから、いろいろ戦略を練りながら、悩んでいた。この世界は変わっている。学校にあんなに人が来ているなんて。ベ-タ界では、学校は特定の人のみが行けばいいところだ。普通は家庭教師のもとで学業などは磨きをかける。それにあの音楽というもの、楽器と言うもの、波動をあんな風に利用する、また心地よくなるものとしての接触、感覚がこれまでなかったが、この世界では普通に楽しむものとして接している。音の性質として波長領域によって、調べになることによってこんな精神の心地よさ、高揚が起きるなんて。

瀬名学園は音楽系の部活が盛んである。思念同期した時には、丁度いい人間と同期できたと考えたが、こいつが音楽ということに打ち込んでいることがわかると同期は苦痛にもなった。


一方のショウも音楽についてはサキと同感覚であった。ショウはこのフェスではサキは仕掛けてこないと考えた。おそらくサキもこの音楽というやつには閉口しているだろう。サリーやハナもこれに慣れるまでは大変と思ってきたが二人は意外と簡単に受け入れているかもしれない。バンド活動中でもショウのように同期を消すことが彼らには必須ではなかったから。

フェスが始まり次々に演奏がなされる。スグル達のバンド、ジュピターは「太陽にはなれない」を歌う。どうしても一番になれない苛立ちを歌ったもので、太陽になれなかったともいわれる惑星、グループ名の意味する木星にもかけている。ずうっと磨いてきた曲で近隣のバンドにウケも良く、ノリノリだ。

坂上先生のバンドは5人編成、坂上先生はボ-カルだ。表情はとても明るい。スグルは試しに高周波を放って、坂上先生の同期を見る。「同期してない?」スグルが首を傾げていると、ショウが呟く。「あれは坂上先生だ。サキは入っていない。やはりまだ一方通行なのだ。それにサキでは音楽演奏は無理だと思う。」スグルは「無理?」と問うと、「我々には音楽と言う文化がないんだ。その分、絵とか思念波の操作のような脳活動が進んだのかも。」スグルは驚きながら、「じゃあ、ここでは何も起きない?」

ショウは少し沈黙するが、「いや、仕掛けてはくる、この演奏が終われば待つ必要はない。しかし操るとなると、一度坂上先生が寝ないと難しい。」

今の坂上先生は寝ている時しかサキからの思念は入ってこないはずなので確かにそうか。


坂上先生のバンドはなんとハ-ドロック系、アフタースク-ルと言う。「未練節」と言うタイトルは、演歌かと思わせるが出だしから胃に響く重低音。最前列は教え子か、すごく盛り上げる。いやいや、これはすごい。続く次のバンド演奏の始まりでは、場を落ち着かせる時間が少し必要だったくらいだ。


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