第6話

クマさん達に会ったその日の夜、スグルは目を閉じて意識同期をONにする。意識の中でショウと対話する。「メンバーは揃ったけど、この後どうする?」とスグルが言うと、ショウは話し出す

「備えておく必要がある。おそらくXN国の奴らは我々の技術を解読する。何かしら仕掛けてくるだろう。」

「向こうの、ベータ界の様子はどうなんだろうか?こちらの世界に同期したら、ショウのその別世界の体はどうなるんだ?」

スグルは前から疑問だったことをショウに思い切って聞く。

「理論として考えると、おそらく同期が成立した時点で存在しなくなると思う。実際にそれを見た人がいないので正確にはわからないが。存在して機能しなくなっているか、存在自体なかったこととして消えるのか。」


こちらはベ-タ界、ショウ達のいた世界だ。

ショウ達が思念離脱をして、しばらくしてショウの体が消えた。そしてハナ、サリーの体も。

アキラとマサルの体は少し後になったがやはり消えていた。


アルファ界に戻る

 同期で向こうの世界の存在は消える?ではこちらでそれを同じ体として実在化できるのか?スグルは更に考えてショウにも聞いてみる。

「それは完全なものは無理だ。こちらの物質で似せたものはできるかもしれない。我々の向こうの体はおそらく宇宙創成の際、つまりこちらの世界と一緒にできる時に向こうのベータ界で反物質で構成されていたことになる。それをこちらの世界、アルファ界ににそのまま持ち込むのは不可能だ。思念とは違う。」


ベ-タ界で

 ショウ達が消えたことはYS国がXN国に占領されたことより話題になっていた。XN国の科学ではどういうことが起こっているのかその仕組みはまだ理解されていなかったが、YS国でカレン博士が何をしていたかはある程度掴んでいた。しかしショウ達の使用した機器は彼らの思念離脱後に機器の機能として自動破壊されていた。

「クソッ、跡形も無くしやがって。」とXN国のナイルは呟く。「陛下、やはりダメですね。カレン博士もだいぶ前から行方不明ですし。」

「確か、カレン博士には息子がいたな?」

「はい、ただ彼も行方不明です。カレン博士と行動を共にしているかも。」

「サキ姉さんはどこだ?」ナイルはXN国の誇る科学者名を口にする。「カレン博士の研究室を探っています。なんと言っても学問の世界ではカレン博士と師弟関係にあった方ですので何かしら掴めるかもしれません。」

そこに白衣姿の女性が入ってくる。

「ナイル、重要なデ-タは全く残ってない。しばらくの間いろいろ試してみないと何もわからないわね。」

国の皇太子を呼び捨てにするこの女性はナイルの姉にあたり、カレン博士の下に留学経験もある科学者のサキである。「機器は体が消えても残骸としてはあるので何とか再構築を試みるわ。それでもある意味行き当たりばったりのことをしばらくはしないと。」

「すぐに始めてくれ、サキ姉さん。」サキはうなづくと、やれやれと言う感じで部屋を出て行く。


話をアルファ界に戻す。

 スグルは高校生であり、学校に行く必要がある。進学校に行っているものの作家稼業が評価されて学校推薦枠に入れそうなので、選抜組のような勉強も必要とされない。でもそれなりに真面目でないと推薦から外されるのでまずは登校が必要である。あみとはもちろん連絡をとってはいたが、今はこれまでの発表作の続編にのめり込んでいた。

 学校の自分の席でスグルは続編の続きを考えながら居眠りに入った。夢の中でショウが出てくる。「スグル、俺だ。ハナとサリーに探してもらいたい人がいる。カレン博士と言う人だが私達より先にこの世界に来ていると思う。なんとかしたい。考えてほしい。」

となると何ができるかだが、う-ん、夢の中で頬杖をついてスグルが考えていると、天から突然の声が、

「相川!次わかるか?」と突如名指しされスグルは飛び起きるが「すいません、考えてますがまだわかりません。」と、とにかく答える。クスクスと周囲の連中が笑うと、

「ほう、眠りながらも考えているって?何をかな?いい気になっていると卒業させんからな!」

担任の山田先生は優しい先生だがダレている奴には容赦しない。「申し訳ありません、気をつけます。」スグルがおとなしく謝ると山田先生はにんまりとして「レポート出すから覚悟しておけな。」

山田先生は英語の教師だが読ませるのは科学論文や推理小説評論まで幅広くスグルは好きな教科ではあった。


夕方、職員室に行くと山田先生から「この科学評論読んで要旨をまとめて来い。」と渡される。それは量子力学の論文でシュレディンガ-の猫は1匹と題されたものだった。著者は日本人女性のようだ。スグルはとりあえず図書館に立ち寄って、論文を読みまとめてみる。そして図書館のPCからネット上で関連研究を検索する。コメントをsnsで上げている人の意見も参考に見る。流し読みしていると気になる記載があった。「何だこれ?」スグルは思わず声を出す。そこには次のような書き込みがあった。

”仮にこの世界がアルファ界であるなら、ベ-タ界はあり得るだろう。同じ立ち位置のものが宇宙創成時に物資と反物質で存在していたなら、反物質界はどこに?それこそベ-タ界だろう。お互いに意識することはないがアルファとベ-タは繋がりがあるらしい。意識して一体化するなら、その存在は一つであり、どちらかにしか存在し得ない。量子力学の世界でよく言われる箱の例、観測して初めて猫の存在がわかるのであり開けて見るまではわからないと言うあれと同じだ。猫は見られるまでそこにいるかどうかわからないのは別世界にいるかもしれないとも言えるか?重ね合わせの時のみ共存しているが実在するのはどちらかと言うことか?”

これはまさに今スグル達が体験していることではないか?


これを書いているのは、高校の先生らしい。SNSなので、感想を出してみることにする。

”ベ-タ界とは貴方の造語ですか?他に聞いたことはなかったのですが、私の知り合いも別世界をベ-タ界と言っている人がいるのですが何も説明してくれません。何か関連があるのか不思議に思っているのですが。”

と出すと翌日返事が来る。

 ”大変面白いことです。そう言う人を待っていました。是非会ってお話ししましょう。そのお知り合いも是非連れてきてください。待ち合わせはお任せします。”

と。

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