第7話

スグルはどうしたものか考えていた。手掛かりのなるかもしれない人にSNSでコンタクトはできたものの会ってどうするのか?リストバンドをONにしてシンクロさせてショウの意見を聞き、まだ手掛かりかどうかもわからないのであまり警戒しないことにする。そして高校生グループとして会うように、しずか、あみにも声をかけて3人で相手に会うことにする。会う場所は千葉のポ-トタワーの上のレストラン。土曜日の午後3時、カップルで賑わう中、スグル達3人は高校生集団として周囲に注意しながら話をしていた。

スグルは論文に関するコメントを書いた高校の先生のネット上の記事を二人に見せる。

「実際この人がカレン先生の同期している相手ならどうするの?」

「わからないよ。そんな科学者と同期した人が。果たして先方の話を理解できているのかなとも思うし。」


3人がしばらく議論していると、

「貴方がスグルさん?」

おそらく中学生かと思われる少女が声をかけてきた。

「そうだけど、君は?」

「私はイズミ。ベ-タ界の話をするのは、こちらのお姉様達の方ですか?」

「彼女らもそうだが、自分もだ。君がベ-タ界の話をしたのかな。SNSの先生は?」とスグルは目を丸くして尋ねる。

「坂上先生は高等部の物理の先生。物理部の顧問なの。私だけで大丈夫だと言ってもらったのできたのよ。」

3人は目を合わせて戸惑うが、

「まあ君が話の出所なら問題ないけど、ベ-タ界の話は夢に出てきたと言ったら君は信じるかな?」、イズミはニッコリすると

「やはりそうなんですね。私と同じです。ようやく同じような体験をした人に会えました。」

「君は誰と夢で会ったの?」

イズミは少し考える仕草をしてから

「名前は知らないんです。ただ学校の先生みたいな人でした。私はまだ小学生だったのでただ話していることを聞いていました。聞いていると言っても私に向かって話されるわけでなく、映画を見るように洞窟みたいな場所での自問自答しているのを見ていただけなんです。」

スグルは身を乗り出し

「では対話したことはないんだね?」

イズミは頷き

「そうです。でもその人は苦しそうでした。1年半くらい見たらその夢は見なくなりましたけど。」

「いつからみましたか?」

「そうですね、、小4から小5の夏なので、3年半前からくらいですかね。」

スグルが、夢を見出したのは2年くらいまえ、1年半前から頻繁になり3ヶ月前からショウから情報共有のような伝達をし出したのだ。

カレン博士が行方不明になったのは1年前からと聞いたが。

「最近は?」とスグルが聞くと首を振って「ないです。不思議ですね。止んでしまったんです。」


イズミと会ったその夜にショウと同期して話をする。「カレン先生の行方が分からないことは各方面で話題にはなっていた。同じ研究者の息子のマイクの行方も。確か一年くらい前から。何処にいるかはわからないんだな、まだ。しかし、恐らくシンクロ相手が幼すぎたので対応を考えたのは察しがつく。何処にいるのやら。こちらのアルファ界のイズミに同期してもあまり役に立たないようだし。実体同期して活動したいし、することを考えたのかもしれない。」

スグルは「同期してる間ベ-タ界の実体にこちらでなる方法をカレン先生は考えているのだと僕は思う。イズミさんの実体も消さないような。そうしないと動けないな、カレン先生は。」

ショウは「すまない、恐らくかなり負担をかけているんだな。君には。」スグルは慌て気味に「違うよ。ショウが歯痒さをもっていると思うのさ。慣れた体をコントロールする方がいいに決まっているし、愛情もあるだろう。」ショウは笑い声で、「ありがとう、君が同期相手でラッキーだった。カレンなら何かしら方法を見い出すかもしれない。実は少しヒントめいたことはある。」

スグルは驚きながら「あるのか?」

ショウは考えこむと「ベ-タ界からは持って来れない。これはどうしようもないが、こちらの世界で体を再構成するのさ。思念波の中に実体情報もあるはずなんだ。実体に入れるんだからな。」

スグルは「しかし再構成と言うのは。」

ショウは「こちらの物質を量子レベルで再構成する、しかも同期相手の実体を構成する量子を使うんだ。まさに変身だ。君とは出来そうな気はするが。まあ思念同期と合わせて実体の表現型を変えるのはまだやり方が見えない。量子が拡散して元に戻らない可能性もゼロじゃない。」

スグルは茫然と聞いていた。

「でもカレン博士がその方法を見い出しても知る術がないな。」

「いやもしかしたら、イズミは見てるかもしれない。理解できてないだけで。」

「またイズミさんに会うことにするか。」


スグルはしずかやあみにも呼びかけイズミにまた会うことにする。

「イズミちゃんが何か知っているとは思えないけど。」あみが訝しむが、スグルは「僕はこの同期のためのリストバンドの図面は夢の中で見たんだ。イズミよりは理解できるとは思うが図面はちんぷんかんぷんだった。見ているとしたら同じレベルで覚えている可能性はあるさ。」


イズミはスグル達に会うちょ持ってきた日記も見てから瞳を閉じて思い出すようにカレンが話していたことを語る。

「やはりダメだわ。量子レベルで制御するプログラムはあっても量子再構成なんて離れ技が過ぎる。どれほどのエネルギーが必要か。そもそも一番の問題はこちらからすれば反物質になるアルファ界での物質ではできないように思える。後は化けるしかないか。」イズミは日記の夢の記録を見ながらカレンのつぶやきをスグル達に話す。

「化ける?」スグルはイズミに聞く。

「ええ、確かにそう言っていました。そして、相手を煙にまく、とも。」

「なるほど、その後、この図面をかいたのか。」

「はい、そうです。残念そうでもあり、楽しそうにも見えました。」

イズミは日記を書く習慣があり、変わった夢、その内容も書いていたのだ。


その夜、眠りの中、スグルの中でショウが呟く。

「なるほど、化けると言うのは、相手の脳の視覚認識に入り込むのか。」

「え?ショウ、それは錯覚見たいなものか?」

「ああ、そう思ってもいい、実際には例えば我々の場合には私の思念波が持つ実体情報を相手に見せる。だが、恐らくそう見えるのは.」

「ベ-タ界の同期情報を持つもののみ。」

「スグル、分かりが早いな。そうさ、相手がベ-タ界と同期して見ていればベ-タ界の思念情報を受けられるが、通常のアルファ界の人には見えない。」

「ではベ-タ界の同期情報を持つ今の5人にはいいかもな。お互いが元の知り合いに見えるのだから。」

「あと敵がやって来た時に関係ない相手への被害は減る。」

「来るかな?」

「わからん、ただ備えておく必要はある。」

「でも、カレン博士の図面なんだけど俺が見たのと似ているような。」

「わかったか?これはこのリストバンドに対称になるようになっている。実体情報を上手く拡散するようにするんだろう。1箇所スペースがあるのが気になるが、これの作製は簡単だ、しかし、気になるのはカレン博士が今どうなっているか。」

その後しずかがイズミとlineの交換をしていると、あみが「あのスグルさん、今度二人で会えません?その、映画でも。」と声をかけてくる。

スグルは一瞬キョトンとするがにっこり笑って「ありがとう、俺もあみといろいろ話したかったんだ。」

「いいんですか?やった!次の土曜は?」


その頃、ベータ界では

カレンは目を覚ますと、そこは見慣れた宮殿内だった。

「目が覚めたようですね、先生。」

「サキ、せっかく隠遁生活を楽しんでいたのに連れ返さないでくれるかな。迷惑だわ。」

「まだまだ現役なのに何言っているんです。貴方の着けていたリストバンド、素晴らしいですね。これで別世界と交信できるんですね?」、

「正確には交信ではないけどね。見聞きは可能だ。おもちゃだよ。」

「でもショウ達を消してしまった。彼らは向こうに行ったのでしょ?」

「さあ、まだ見てないからわからない。だが、彼らの体が消えたのは体が行ったから消えたのではない、消滅だ、わかるわよね?」

「ええ、でも彼らはこの世界では死んだと言えます。」

「ならもう彼らについてはどうでもいいのでは?」

「いや、我々の関知しないこととは言えないんです。意識があれば禍根は残るでしょう?それに我々が消したと思われるのは困る。」

カレンは苦笑いして、「天に行ってしまったものからの恨みまで心配するなら戦なんてしないことね。」

サキは自分の腕のそでをまくると、そこにはリストバンドがあった。「これ、付けてみたけど何も変わらない。何か注意事項があるんですよね?どう使うんですか?」

カレンはまた苦笑いすると「何も起こらないのは、あなたには合わないのよ。適性があるものしか起こらない。」

おそらくサキは起きたままの時しかONにしていないのか?またはシンクロ相手が居ないのかもしれない。その可能性は否定できないがサキにはそこまで説明する必要はない。

サキはリストバンドを外すとカレンが再び付けた。「貴方なら何か起こるのか、

見させてもらうわ。」

「私も合わないからこの世界にいるのだとは思わないの?」

「ではどう使うんですか?」

「私もショウに聞きたいわ。科学にはポジティブな実験デ-タが必要なのよ。」

サキは唇を噛みしめると振り返り部屋を出て行った。

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