第5話

次の日、スグルはSNSで小説の続編をアップした。その中で主人公の従者が空間の狭間の迷子になっていることを描き、救うには従者それぞれのこちらの世界の相手との交信が必要で、その鍵は主人公が持っていることを書いた。そして内容についての意見を待った。果たして、二人から連絡があった。

二人はそれぞれ、名古屋と静岡の人だった。名古屋の人は近々東京に行くので東京で会うのがいいとの提案があり、静岡のひとは融通が利くので合わせるとのこと。二人とは東京駅の2階部分にあるカフェで待ち合わせることになった。


あみとしずかも誘い、カフェ内で待つ。席からもエスカレーターで上がってくるひとがよく見える場所に陣取る。昼過ぎの待ち合わせにしたがスグル達は昼食もカフェで済まして備えていると目印のスグルの本を持つ人が現れた。年代はやはりスグル達くらいだった。スグルが手を挙げると人懐こそうな笑顔で来る。「初めまして、貴方がスグルさんですか?こちらの方達も関係者ですか?こんにちは、クマこと大熊といいます。最初は何事かと思ってましたが、先日の続きには更に驚きました。」話すとクマさんは高3、スグル達の一つ上の受験生だった。名古屋から東京には夏期講習で来ていて今日で名古屋に帰るとのこと。「忙しい中すいません。ただ連絡しない訳にはいかなくて。」

クマさんは話を聞いて驚きながら、そして途中からは真剣な顔になり、「連絡ありがとう。自分に何が出来るかわからないけど、受験生の自分としては、時間が無いなんてことより、自分の存在価値を見せてくれるようですごい惹かれる話しだと感じました。不謹慎かもしれないけど。」スグルはこれから受験生になる身としてよくわかる気がした。後を継ぐとかで自分の存在理由が外付けでも決まっているのは羨ましいと思うことが良くあったからだ。スグルは状況を更に詳しくクマさんに伝えようとした時に、エスカレーターを上がってくるやはりスグルの本を持つ若者が見えた。


 「あの人が萩さんかな?」スグルが呟く。名からは男女どちらか分からないが、来た若者はぱっと見の外見からもよく顔立ちが分からない感じだった。何故かミュージシャンのように見える。スグルが見つめていると気がついたらしく向かってくる。「スグルさんですね。僕は萩、よろしく。」

スグルは彼のラフな感じにホッとして「初めまして、よろしくお願いします。今、クマさんと話し始めたところでした。」とクマさんを紹介すると二人はぺこりと挨拶を交わし、更にあみとしずかを紹介する。そして現在の状況を萩さんに説明すると萩さんは始めはかなり疑わしそうな様子だったが皆の真剣な様子に只事でないことはわかってもらえた。そして、リストバンドをクマさん、萩さんの前に置き、「やってみてもらえますか?」と頼んだ。


 クマさん、萩さんはリストバンドを受け取り、少し考えたのち身につけた。その後、対応が難しくなった時に備えて、やはりあみ達の時と同様に上野の公園に場所を移した。そして、周辺にあまり人気がない場所に陣取る。

「これをONにすると意識内に相手が現れるのか?」というクマさんの質問に答える前に萩さんが2つのスイッチをONにしてしまう。スグルは何か起きた際に備えて身構え、「萩さん?いや、アキラさん?、それとも、」とマサルさんと言おうとした瞬間、萩さんがこちらに向かって来るのを見て素早くスグルも実体同期ONに、パンチを交わし肘で相手の胸をプッシュする。「早まるな、アキラ。」とスグルの姿のショウが話すと、萩さんは我に返ったように、「ショウなのか?」「ああそうだ。こちらは別の世界なのだ。礼儀をわきまえろ。」

「すいません、つい興奮してしまいました。ところで.」と話途中で切れる。萩さんはアキラさんと同期したらしいが、リスト装置をOFFにするのが見えた。「萩さん?」としずかが聞くと。萩は笑うと「アキラさんとやらには引っ込んでもらった。」

ショウのままのスグルは「すまない、萩さんとやら。OFFにする気持ちはわかる。落ち着いたらまた話をさせてくれ。」リストをOFFにしてスグルは「なかなか物騒だね。こうなるとクマさんに現れるマサルさんも血気盛んか?」


クマさんはこの様子を見て少しまごついてしまっていた。「こんな感じなんですね。少し怖くなったな、、」スグルは、「大丈夫、今なら皆いるから。とにかくどのような人か会ってみないか?」クマさんは少し悩んでいたようだが実体同期までONにする。今度はしばらく何も起きない。しかし、声の調子が変わったクマさんが話し出すと同期は成功したことが皆にわかった。「今、クマさんとやらと話し、信じられない話だが理解に努めている。ショウやアキラも来ていることは心強い。ハナ達もいるなら尚更だ。しばらくはこの世界に迷惑かけないようにまずは学ぶことに努める。よろしく。」

そう言うとクマさんはOFFにする。「いやあ、どうなるかと思ったけど分かり合えそうな人で安心した。」とクマさんは安堵したようだ。クマさんと萩さんは住むところが遠く、何か起きた時に扱いが怖いのでリストバンドは持ち帰らないとのことだった。スグルは理解し、今後の状況については連絡すると伝えてその日は二人と別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る