第18話:マヨ男爵の日常



「のじゃあああああッ! 貴様のせいでッ、憎きアズ・ラエルがさらに成り上がってるではないか~~!?」


「ひーーーん!」



 亀甲縛りで吊るされる悪魔少女クルアハ。そんな彼女のケツを、老舗商會の爆乳ロリエルフ・モルガンはべしばちと叩きまくっていた。



「くしょがぁあああ~~~~~~!!! アズ・ラエルにガラクタを買わせる作戦だったのにっ、秘宝を売るヤツがあるかボケェ~~~!」



 モルガンがバチキレているのも無理はない。

 詐欺に遭わせ、金と周囲からの信頼を奪ってやる作戦だったのに、これはどういうことなのか。



「し、仕方ないじゃないですかァッ! 『アンリマヨ聖国』は五百年前の宗教戦争で徹底的に焼き払われたがゆえ、情報がほとんど残ってないんですよ! 王家の者の体液で本当の姿を現す宝なんて知りませんよッ! しかもその王家の者が側にいるとか、ふざけんなとっ!」


「えぇい黙れっ。うぐぐぐ……恐るべきはアズ・ラエルか。やつは全てを見抜いた上で、同盟者のメイヴを犯罪者の立場から一気に引き上げるつもりで、貴様から購入したんじゃろう」


「くっ、どれだけあの男は優秀なんですか!?」


「しかも不正領主フィンを潰してしまうとはな。ある犯罪組織と繋がっていたらしく、そのツテで逃げたようじゃが……ともかくこれで、アズ・ラエルは大きく躍進した。王家に負い目を負わせ、名誉貴族になることで、『政治的発言力』まで手にしたのじゃ……ッ!」


「あの男はそこまで仕組んでいたんですか!?」



 改めて戦慄するモルガンとクルアハ。なんて男を相手にしてしまったのかと。


 ――なお、実際のアズ・ラエルはただの無能のドブカスである。

 前世では終わってる会社任されたあげく極道に撲殺されるという、運も間も極めて悪すぎるミラクルクソエンドを迎えたあの男は、今生でも鬼がかり的な〝失敗〟を〝没落〟目指して繰り返し、結果的に〝大成功〟しているだけなのだが。



「ちぃっ。名誉貴族として男爵の地位を与えられたヤツは、市井から『マヨ男爵』と呼ばれて好まれておる。……もしや調味料の開発を足場に成り上がったのは、日ごろから人々に愛される食品と自分を、紐づけさせるためなのか!? そうやって貴族として最初から絶大な人気を博するために!?」


「こ、怖すぎるぅ~!」



 しかし、敵対者からみれば違う。

 神がかり的な手で、罠さえ利用して成り上がっていく『超カリスマ社長』としか思えない。

 モルガンは畏怖さえ感じつつも、「流石は我が宿敵……百年を超える人生で、貴様のような男は初めてじゃ……絶対に没落させてやる!」と、老害魂に火をつけていた。



「負けて堪るか……妾は商業で成り上がるために、38年前には娘を産み捨てたハイパーキャリアウーマンじゃ。あんなメイヴとかいう38歳のデカチチ侍らせて喜んでるチビガキなど、粉砕してくれる! 心を折った暁には、妾が貞操を奪ってやるッ!」



 決意も新たに、美貌の怪老は吼え叫ぶ。



「見ておれアズ・ラエル! こうなれば『商會四天王』を動かしてでも、貴様を破滅させてやるわァァァッ!」



 ――〝弁殛の厭蛇〟ケルヌンを動かすのじゃッ!



◆ ◇ ◆



「ま、ま、まぁ~、名誉貴族なんて名ばかりですからねぇ~……ッ!」


 

 ……マヨネーズ製造販売企業『マヨ・ラエル』の社長室にて。

 俺は自分を誤魔化していた。



「正統貴族と違って一代限りだし、土地も民もないし、ちょっとすごいことした人には割ともらえる感じだしぃ……!? 一般人と変わらないっていうかぁ~~~!?」


「ん、社長。一人で何言ってるのかわからないけど、社長なら正統貴族になるのも近いんじゃない? 先日の件で」


「うぐがッ!?」



 自分に対して〝名誉貴族すごくない。まだ日銭を稼いでひっそりと生きる一般人に戻れる〟と言い聞かせていた俺を、金髪クール牛シスター護衛のフーリンさんが刺してきた。



「社長すごいよね。見つかった国宝級のお宝の数々、タダで王国のお姫様に渡しちゃって」


「ま、まぁ……」



 ……そう。実は先日、サイタマ王国の使者にして第三王女なグラニア様が、俺を訪ねてきたのだ。


 要約すると、『亡きアンリマヨ聖国のお宝、所有権を王家に渡してもらっていいです? お金渡しますから』とのこと。


 それに対して俺は思った。〝金なんてもうこれ以上いらんッ!〟と。

 というわけで。



「……〝タダでどうぞ~〟って社長が言った時のグラニア様、顔が引きつってたよね。たぶん引き渡しに渋られたり、金額交渉されるとか思ってたんじゃない? なのにまさかタダって」


「はは。素人の俺たちが持っていても、管理できずに劣化させてしまうだけですから」



 なんて言う俺。まぁ実際の事情は違うが。



「例の見た目を偽るモンタージュ、あれは保護膜の役割も果たしていたそうですし。それがない今、丁重に扱ってくれる人に預けるべきでしょう?」


「お~」



 本当はお宝なんて持ちたくないだけだ……。

 もう貧乏な盗人やら、【戒眼の影衆ガムラーイグ】とかいう謎強盗集団に狙われたくないんだよぉ。



「でもおかげでグラニア様、すっごく感謝してたね。『これらのお宝と浮いたお金で、王都に博物館が開けますわ!』とか、ちょっとぶっちゃけたこと言ってたし」


「はは。最近の王都は観光客集めに必死だそうですからね。役に立てたら御の字ですよ」


「うん。お客さん増えたらアズ社長の成果にもなるね。タダで渡した件含めて、そうやって名誉貴族から正統貴族に出世する作戦だったんだね?」



 ぶへっ!?



「そ、それはちがっ……!」


「ふふ、わたし、わかってる。社長はかしこいから、どんな行動も成功への布石だって」



 ってちげーよ! なんもわかってないよッ! 俺、ただ没落したいだけなんだけどぉ!?



「でも社長、お宝ひとつだけは渡さなかったね。なんで?」


「え、あぁ、それは――」



 そのときだった。扉が叩かれ、「失礼します、昼食をお持ちしました」という声が。俺が入室を許可すると、トレーを引いたメイヴさんが入ってきた。



「ふ、ふふふ……旦那、様……♡ お食事をご用意しました……♡」


「あぁどうもメイヴさん。ありがとうございます」



 恥じらいつつも、俺を旦那様と呼ぶ彼女。先日から身の回りのお世話もしてくれている。



「お礼だなんて……。あなた様をお世話するのは、当然の務めですわ、旦那様……♡」



 うぅん。察してみたところ――どうやら感謝の証として、俺のメイドさんになることにしたようだ! へへへ!



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【Tips】


アズ・ラエル(社長):←クソボケ


メイヴ(母):←色ボケ


フーリン(娘):←何も考えない。


モルガン(?):←アズ絶対ブチ犯す。


終わりである。


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