第19話 マヨ男爵への挑戦状(三日漬け)



「旦那様、はい、あぁ~~~ん……♡」


「ちょ、恥ずかしいですよぉ~」


「うふふっ、そう言わずに……♡」



 お昼ご飯を口に運んでくれるメイヴさん。おぉ、明太子マヨを使ったフワトロオムライス美味しいなぁ。誰が作ったんだろ。


 まぁともかく、美人メイドさんが出来ちゃうなんてな~俺。

 無能にはおこがましいと思うし、大失敗する前に没落せねばと思う。でも男としてはやっぱりちょっと嬉しいねっ。



「ママ、すっかり社長にメロメロ。えっちしたそう」


「いっ、嫌だわフーリンったらッ! しゃしゃ、社長はまだ、小さい男の子なんですから、そんな……っ♡ もうッ、フーリンはおやつ食べてなさいっ!」


「わー」



 メイヴさんがマヨ串焼きを部屋の隅に投げるや、フーリンさんは犬のように飛びついてハグハグしだした。それでいいのかフーリンさん。



「ぁ、あの子ったら、えっちだなんて……そういうのは……まだ……いけないんだから……♡」



 うんうん。いけないぞフーリンさん。

 俺は立場を背景に関係を迫るような男じゃないからな。そんなことしたら嫌われてしまうだろうが。

 ただでさえ俺はメイヴさんに不義理をしている。たぶん適当に受け答えて、ママにしちゃったりな。謝っておかねば。



「すみませんメイヴさん。俺、無自覚にメイヴさんのことママにしちゃって……」


「無自覚にママにしたッッッ!? ももッ、もしかして旦那様ッ、(わたくしが)眠っている間に……!?♡」



 おん? もしやメイヴさんの『ママになってあげましょうか?』って質問、俺が寝ぼけてる間とかにしてきたのか?

 あ~それは意識ないわ。俺、眠りめっちゃ深いからね。なにされても全然起きないから。



「な、なな、なるほどなるほどなるほどッ……っ♡ ちょ、ちょっと待ってくださいよ、冷静に考えますね、いや冷静じゃないんですけどね!?♡ お互いに意図的に、はっきりと、もうバッチリと意思疎通して、明確な合意を経てコトに及ぶ、それはもちろんですね、年齢的にも法律的にも倫理的にもアウト、完全にアウト! わたくしはママで三十八歳で十七の娘がいる身の上で聖職者で亡国の王族なので娘以下の年齢のちぃ~~~っちゃい男の子を〝淫行たべ〟ちゃったらそれはもう聖職者じゃなく生殖者になっちゃうというか貞操レベルが姫君じゃなく泡姫になっちゃうというかいやいやともかく社会的に死刑レベルでございましてッ、そんなことは重々承知しているわけです、はいッ! ところがどっこいですよ、ところがですッ! もし、もしもですよ、片方が完全に無意識な『すやすや♡』状態のときに、もう片方が、『こっしょり……♡』とッ、誰にもバレずに、観測者ゼロの完全密室状態で『つぷっ……♡』ってしたとしたらッ、ならばそれはセーフでしたり!?♡ 嗚呼ッそもそも罪とは誰に裁かれるのかという哲学的命題に行き着くわけでありまして、観測者がいないなら証明不能=証明不能なら成立しない=成立しないなら犯罪じゃない……犯罪じゃない!?♡ つつつつつまりオッケー!? オッケーなら合法、合法ならむしろ健全、健全ならこれは愛、愛ならば罪じゃないぃいいいいいッ!?♡ おおおおッ、そういうことなのですね!?♡ 社長様ッ、天才ですかッ!?!?!?♡」


「え、あ、はい」


「しょんなぁーーーーーーーーーー!?♡」



 なんか早口でめっちゃ言われた。つい返事しちゃったが、なんて?



「ふ、ふふふ……まさかわたくしの人生に、こんなに幸せな日々が訪れるなんて……♡ 大好きですわ、旦那様……♡」



 そう言って、胸元にヒモでかけている指輪を手に取り、うっとりと撫でるメイヴさん。

 お気に召しているようでよかったよ、ソレ。

 元々メイヴさんへのプレゼントって名目で秘宝ガラクタの山を購入したからな。その後なぜか『わたくしの財産は、旦那様の財産です……♡』と言ってきたので、管理できない分の宝は国に渡しちゃったが。



「唯一残したそのプレゼント、気に入っていただけているようで何よりです。それともやっぱり、他のお宝も残しておいたほうがよかったですか?」


「いえいえっ。これは……億の金銀財宝に勝る、至高のプレゼントですわ……♡ 旦那様の秘めた熱い想い、触るたびに感じます……♡」



 え、特に想いなんて込めてないんだが……まぁ気に入ってくれているようでよかったよ。綺麗だもんな、薔薇の花を模したレッドダイヤのその指輪。




「ふふ、ふふふ、旦那様……♡ さっそく今晩、こっそりと愛でますから……♡」


「? ええ、どうか好きに(指輪を)愛でてください」


「はぅぅぅっ……♡」



 頬を抑えてくねくねするメイヴさん。経産婦特有のダンスだろうか。



「んぐんぐ……あ、社長ーひゃひょー



 と、そこで。マヨ串焼きを口に突っ込んだフーリンさんが、「そういえばほーひえふぁ」と話しかけてきた。



「フーリンさん、これは豆知識ですけど、飲み込んでから喋るといいですよ」


「んくっ……おお。社長かしこい」


「……ども」


「そんなかしこい社長に、言うべきことがある。実は社長宛に手紙を預かった。三日前に」



 三日前に!?



「相手が誰だか知りませんが、ものすごく待たせてるじゃないですか……。手紙はどこに?」


「ん、ここ」



 谷間にずぷっと手を突っ込むや、手紙を取り出すフーリンさん。

 うわぁ手紙湿ってるよ……。あと、こう、なんか女性ホルモンの匂いがするぅ……!



「どこに入れてるんですか。べたべたになってるし」


「ん、わたしの汗とか吸ったり、あと挟んだままお風呂入ったりしてたからね。最近、おっぱい鍛えてる。社長のを挟めるように」


「ナニを挟む気か知りませんがやめてください。さて、内容はと……」



 フーリン汁でぺちゃぁとした手紙を受け取り、どれどれと開いてみる。



「メイヴさんのためにも読み上げますね。えぇと、

『我らが誇る〝新進気鋭の英雄様〟アズ・ラエル殿へ。

 はじめまして、冒険者ギルドの支部長・ケルヌンと申します。ここ最近のご活躍、まことに俗衆の耳目を集めておられるようで、何よりでございます。冒険者ギルドにて喧しく喚いたあげく、無様に転び、女冒険者たちに襲われかけていた哀れな姿は、どうやらわたくしめの幻覚だったようで――』……なるほど~」



 冒険者ギルドの支部長さんからの手紙らしい。

 今はもうなつかしいなぁ。前世の記憶を取り戻すまでの俺、クソザコカカポなのに冒険者になろうとしてたっけ。



「まぁ続きを要約すると、『あなたは本当は大したことありません。分不相応な立場にいます。今夜にでも会いに来なさい』って書かれてるな!」


「「!?」」



 うわぁ~~~~~嬉しいなぁ~! テンション上がるぜ~~~!


 もうこの時点で三日もすっぽかしちゃってる感じだが、俺、いますぐこの人に会いに行きたいよ!


 だって『大したことない』とか『分不相応な立場にいる』とか、大正解じゃん!?

 俺のことめっっちゃわかってくれてるじゃん!?


 わー、ついに現れたかァ、俺のことを理解してくれてる人! 無能だと見抜いてくれている人! 嬉しいなぁ嬉しいなぁ!



「よぉしっ、じゃあ俺この人に会ってきます! フーリンさんにメイヴさん、身支度の準備を!」


「「ええ、戦闘準備を……!」」



 えっ!?





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