第17話 新貴族誕生、アズ・ラエル……!(ついでに実母と結婚)



 ――その一報は、国中を震撼させた!



『古の大国の姫君、見つかる!』


『名はメイヴ氏! 貧民の救済に当たっていた女性!』


『数多の国宝級の品々と共に、表舞台へ!』


『地方都市ムサシノにおいて、連続孤児誘拐犯とされていたが――それは領主フィンの悪辣な冤罪と判明!』



 まるで泥池の蓮が華開くように、そのニュースは各所で劇的に報じられた。


 なにせ、ただ亡国の血筋が見つかっただけではないのだ。

 博物館も開けるほどの失われた財宝の山と共に世間へ。その上、当初は犯罪者だとされて要らぬ注目を集めたが、『メイヴが実は救い手であり、真犯人に貶められていただけ』だと緊急の調査でわかった瞬間、人々の疑念は絶大な敬愛へと反転された。


 ああ、まさに物語のようではないかと。


 冤罪をかけられたヒロインが、実は王族の血筋と分かり、悪を覆して脚光を浴びるなど――!


 そのシンデレラストーリーは、あっという間に国を越えて話題となった。

 なにせ、この世界は【男女比1:100】である。観客たちはほぼ全員が女性なのだ。ゆえにウケないわけがない。

 そして。

 情報によると、死の淵にあったメイヴを癒し、犯罪者とされる彼女を恐れず支えた上で、その天才的な観察眼と智謀で大逆転の物語を紡いだ、最高のヒーローこそ――!




『――マヨネーズ販売企業『マヨ・ラエル』が社長ッ、アズ・ラエル氏の登場ですッ!』


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!』


「……ふぇぇ」



 ……ムサシノ広場にて。豪華絢爛な緞帳が張られ、重厚な深紅のレッドカーペットが引かれた中を、アズ・ラエルは歩いていた……!



『アズ・ラエル社長ォオオオオオオオオオオオオ~~~~~~~~~~~ッッッ!』



 集まった民衆たちが大歓声を張り上げる。「あんなに小さな男の子が頑張ったの!?」「マヨネーズって今噂の!?」「わたしもショタ社長に救われぁいッ!」など、当然ながら女性たちの声音は好意一色だ。『大人気食品の開発者』という立場がアズ・ラエルへの支持を絶大なものとしていた。

 なお、



「み、みなさんどうも~……!(どどどどどどどどどどッ、どうしてこうなったぁ~~~~~!?)」



 無能でずっと日陰者だったアズ・ラエルに、この状況を楽しめるキャパシティなど、これっっっっぽっちもないのだが……!


 そもそもこの男、元々は信用を失うためにガラクタ買っただけである。

 財も職務も失って引退したかっただけのドブカスである。

 目標など一度も叶ったことがない、真の無能者なのだ。


 それがなぜこんな大騒ぎになっているのかと――アズ・ラエルはほとほと状況が呑み込めなかった。

 そんな彼の心中を知らず――先に登壇した女性、メイヴは彼を出迎える。



「うふふ、社長様……! あなた様のおかげでわたくし、こんな晴れ舞台に立てていますわ……!」


「そ、そっか(まぁ、メイヴさん笑ってるし、いい……のか?)」



 実際は全て勘違いと偶然なのだが、ともかくメイヴを見事に幸せにしたアズ・ラエル。

 注目を集めるのは嫌だが、その点だけはよかったと思い込むことにした。



『さぁ、アズ・ラエル氏もどうぞ壇上へ! では――逃亡したカスロリコンの前領主・フィンに代わり、代行領主にして王家からの使者ッ、第三王女であるグラニア様よりお言葉がありまァす!』



 司会の言葉に、民衆たちの歓声が再びムサシノに響き渡る。



「――ごきげんよう、皆様。ご紹介に預かりました、グラニア・フォン・サイタマです。本日はサイタマ王家を代表し、素晴らしきお二人を讃えに参りましたわ」



 前に出たのは、煌びやかな金髪と金の羽根や尻尾を輝かせた姫君。

 このサイタマ王国を治める王族が一人、『Type:覇龍タイプ:ドラグーン』のグラニアであった。

 なんと今回の騒動を受け、サイタマ王国は事態の取りまとめと統治の引継ぎを行わせるために、王女を派遣したのだ。

 第三王女とはいえ、異例の対応である。これには貴族の一人であるフィンが下劣な事件を起こしていた件に対し、王家に悪評の類が及ばないよう、王族自らが解決に及ばんとする『政治的ポーズ』を見せる意図があるのだが。


 ともかくそのような事情もあり、王家はふんだんに準備費と広告費をかけて、希代のヒロイン・メイヴと、英雄アズ・ラエルを、盛大に祝福するのだった。

 もちろん、名誉も充分に与えることで――!



「第三王女グラニアの名において、発表いたします! 亡き聖国の最後の姫君メイヴ様と、時代を席捲する風雲児アズ・ラエル様には、共に王国名誉貴族の地位を授与します――ッ!」


「(ファッ!?)」



 こうして、無能社長アズ・ラエルの『信用を失い、分不相応な立場になりたい』という目標は見事に失敗。


 結果、『国からも信用される名誉貴族の立場』になるのだった……!



「ずっと一緒にいましょうね、旦那様――♡」



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【Tips】


アズ&商會長モルガン「そんなああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!????????」


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