第16話:母親と結婚&貴族化RTA・終篇(望んでない!)



 【急募】没落するために買ったガラクタの壺が、なんか急に光り始め出したんだけど!?【知ってる人来て!】



「ななっ、なんですかこれっ、社長様!?」



 いや俺も知らないんだけどぉ!?



「――あいやぁああああッ! これはまさか……!?」



 固まるメイヴさんと俺を脇に、鑑定士のお姉さんが興奮し出した。え、なになに!?



「思い出したアルッ! 今は亡き『アンリマヨ聖国』には、『隷術』によって施す特殊擬法モンタージュがあったと! かの国では、王族の血を引く者の体液でのみ溶ける被膜技術が存在し、それにより国宝級の品々をあえて一般品に見せ、盗難から守っていたらしいアル!」



 彼女はバッと振り返り、メイヴさんのほうを見た。



「メイヴ氏!」


「ひゃいっ!?」


「この壺の光った部分、メイヴ氏の涙が落ちた瞬間にこうなったアルよな!? もう一度やってみるネッ! 涙じゃなくて唾でもいいから!」


「は……はいっ!」



 戸惑いながらも、自身の人差し指を舐めるメイヴさん。それからその指を、壺に這わせるや――、



「ひッ、光ったアルーーーッ!? これは間違いないネェッ!」



 鑑定士さんはガラクタの山を指差し、高らかに叫んだ!



「ここにあるのが全部、同じ場所から出土したものだとしたらッ! これらは全てガラクタじゃぁなくッ、失われたはずの国宝の品々になるアル! そしてメイヴ氏は、古き聖国の王族の末裔アルよォーーーーーーッ!」



 な、なんだってーーーーーーーー!?



「な、なッ、俺ッ、ガラクタを買ったはず、じゃッ……!?」


「社長様っ!」



 横合いから力強く抱き着かれた。ぎりぎりとそちらを見れば、メイヴさんが嬉しそうに泣いていて……!



「流石は社長様です! これらが全部ガラクタではないと見抜いていたのですね!? そしてッ……このわたくしの血に、特別なナニカがあると!」


「えッ!?」


「あぁっ、あぁっ社長様ッ! やはりあなたは素晴らしいお方! まさにあなたこそ〝廃者救済〟を謳う『アンリマヨ教』教義の体現者! かつて、あなた様は物陰で朽ちるはずだった捨て子を見事に見つけた! それと同じように、ガラクタにしか見えないような古の宝物たちの価値を見抜きッ、現代に蘇らせたのですね!?」



 ちッ、ちげえええええ~~~~~~!?

 勘違いだよ!? 全部偶然だよメイヴさん!?



「あのメイヴさんそれはちがっ」


「わたくしにはわかります!」



 なにが!?



「惨めで暗いわたくしの人生……親に捨てられ、奴隷のように扱われ、子を捨てねばならず、逃げた先では領主によって犯罪者に仕立て上げられ、最期は病で散るはずだった生涯は――すべて、総べてッ、あなた様に出会うためにあったのですね……ッ!?」



 違うよぉおおおおおおおーーーーーーーーーー!?



「フッ。流石アルね、アズ・ラエル社長」



 言い訳しようとしたところで、鑑定士のお姉さんにぽんと肩を叩かれた。なに!?



「ガラクタを国宝だと見抜いたこと……それに対して、社長は何の喜びも感じていない。違うアルか!?」



 ! そ、そうだよ! だって俺、没落する気で買ったんだから! 鑑定士さんには俺の心がわかるのか!?



「ええ、正解です……ッ! 俺はこれらが国宝だと知ったところで、まったく嬉しくない! だって俺の真の目標は――ッ」


「『メイヴ氏を笑顔にすること』、でアルよな?」


「はい! ――って、ええッ!?」



 いやいやいやいやいや何言ってんのぉ!?



「か、鑑定士様に社長様? それはどういう……?」


「わからんアルか、メイヴ氏? 国宝のモンタージュを破る条件……それは王家の血を引く者の体液に触れること。これでメイヴ氏は、貴き血族だと判明したネ」


「は、はい。ですがもう、『アンリマヨ聖国』は滅びているわけで、そこには何の価値も――」


「いいやッ、だとしてもメイヴ氏は『貴き血の者』! それも王族だとわかったネ! これで――勝利条件は整ったアル! ねぇ社長さん!?」



 なにがだよ!? もう俺なんも知らねえよ!?



「ハッ――そういうことだったのですか社長様!?」



 だからなにがぁ!?



「『移民』たるわたくしは、この地の領主にッ、『貴族』によって犯罪者として扱われてきた! わたくしがどれほど無罪を訴えようが無駄だったでしょうッ! しかし、わたくしが『古き亡国の姫君』となれば――!」


「王家はッ、必ずやメイヴ氏の抗議を聞くアルッ! そして誘拐事件が再調査されればッ」


「わっ――わたくしは、犯罪者の容疑を、晴らすことが出来る……っ!?」



 瞬間、わっと涙を溢れさせるメイヴさん。チンピラシスターたちも感涙しながら『ボスーーーーッ!』と彼女に抱き着き、鑑定士さんは「フッ、今日は貧民街の奇跡の日アルね」と、涙をぬぐい飛ばしながら微笑んだ。


 そして。全員が輝く瞳で、俺のほうを見て……。



『こういうことだったんですねッ、アズ・ラエル社長ォ――――!』



 し、し、知るかボケェ~~~~~~~!


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