第15話:母親と結婚&貴族化RTA・後篇(望んでない!)
「社長様がこちらのほうを買ってくださったのですが……どうなのでしょう。今は亡き『アンリマヨ聖国』の国宝の数々だというのは、本当なのでしょうか?」
俺が怪しい商売人に引っかかった後のこと。チンピラシスターの一人が購入品を見て、「うわッ、なんですかこの〝
結果、なぜかほわほわしていた盲目のメイヴさんが「な、ガラクタですって……!?」と真実に気付き、貧民街で働く鑑定士さんを呼び出すに至ったのだった。
「きょ、今日という日を記念して、社長様がわたくしに買ってくださったのですよ! それが、ガラクタだなんて……嘘ですよ……!」
「ウーーーーーーーーーン」
メイヴさんの屋敷に並んだ、古いだけの壺などのガラクタの数々。
それを前に、ネズミ天人の鑑定士のお姉さんは、ハッキリと言った。
「あいやー。これは駄目ネ。全部ガラクタアルヨ」
「なんですって!?」
ッッッ~~~~~来たぜッッッ! 俺の時代がよォオオオーーーーッ!
「そんなっ、なにかの間違いですッ! 社長様が騙されるなんて、そんな……!」
「メイヴさん」
取り乱す彼女の肩に――は手が届かないので、腰に手を添え、宥める。
「んッ……!? しゃ、社長様……!?」
「すみません、メイヴさん……どうやら俺は騙されてしまったようです。それも、会社のお金に手を付ける形で。俺はどうしようもない社長です……」
「そんなっ、そんなぁ……!」
錫杖にもたれるように膝をつき、声を震わせるメイヴさん。
心中察するよ。きっと今ごろは俺に対して『こ、こんなに無能だったなんて……!』と失望し、『ああ、今までのことは勘違いだったんだ!』と気付いていることだろう。
ふふ……それでいいんだよ。
今やマヨネーズ製造販売企業『マヨ・ラエル』は大会社に発展しつつある。
そんな会社の社長が、才能も運もない、いつ何をやらかすかわからん男だなんて、最悪すぎるもんな。これがみんなのためなのさ。
「メイヴさん……今の会社の売り上げなら、一億の損失もそのうち補填できるでしょう。しかし失った信頼は甚大なものだ。俺自身も、大切なお金をガラクタに費やしてしまった自分に、失望している。よって、こんな男が社長なんてしているわけには――」
かくして、俺が引退を打ち出そうとした時だ。メイヴさんが、「違いますッ!」と叫んだ。
「違う……?」
「ガ――ガラクタなんかじゃありませんッ! だってこれらは、今日という日を記念して、社長様が買ってくれたものなのですよ……!?」
メイヴさんはよたよたと古ぼけた品々に寄ると、身に纏った美しい白装束の端で、表面を必死に拭い始めた……!
「ちょっ、メイヴさん汚れちゃいますよ!?」
「いいのですっ。……わたくしの病んだ目は、もはや光の加減くらいしかわかりません。一切の光を放たない品々は、本当に残骸同然なのでしょう。ですがそれでも、社長様が今日を記念して買ってくださったのです……ッ!」
な、なにを記念されてると思ってるのか知らないが、まさか俺に失望してないのか!?
「わたくしは社長様を信じます……! こうして磨けば、きっと宝になるのです……!」
あまりにも必死なメイヴさん。騒動を見守っていたチンシスの一人が「今日のボス、どうしたの?」と訝しみ、そんな彼女に別のチンシスが「実はわたし盗み聞きしてたんだけど、アズ社長がボスにプロポッ――」「キャーッ!?♥」など、なんかこしょこしょと話していた。俺にも聞かせてよ。
ともかく俺、メイヴさんの好感度をそんなに上げるようなことしたか――?
「メイヴさん、なんでそんな」
「っ……告白します、社長様……わたくしは罪深い女なのです。……四十年ほど前、『スパモン聖国』に産み捨てられたわたくしは、金持ちの下女として拾われ、ずっと奴隷同然の暮らしをしてきました。当然、国を恨んでましたよ。今は亡き『アンリマヨ教』を信じるようになったのは、大嫌いな聖国の奉ずる『スパモン教』に逆らいたかっただけなのです……この時点でなんて不純……!」
そ、そういえばメイヴさん、十五年前にわけあって、故郷から逃げてきたって言ってたな。そんな境遇が。
「やがて……孤独感に苛まれたわたくしは、単為生殖により二度、子を設けました。一人目はフーリン。ウシ獣人の、普通の女の子です。ですが二人目がいけなかった。どんな遺伝子の悪戯か――わたくしは、元気な男の子を産んでしまったのです……!」
その言葉に、気まずげにしていた鑑定士さんが「あいやー、そらアカンネ」と額を抑えた。
「立場の低い女が男児産んだら、その子奪われて性奴隷にされること確定ヨ。『イエス男の子クン♥憐れみのノータッチ法(※破ったら死罪)』も、バレなきゃ犯罪じゃないからネ」
「はい……なのでわたくしは、フーリンと坊やを連れて逃げました。百人ほど追手を放たれましたが、そこは〝ボカッ〟としてなんとかしました」
なんとかしたんだ!? メイヴさん強いな!?
「しかし……生まれたばかりの坊やは、逃亡生活などいつまでも耐えられない。そこでわたくしは……せめて故郷よりはマシな扱いをされると信じて、この国のある村に、あの子を捨ててきました……ッ!」
包帯を濡らしながら、メイヴさんは吐露した。「わたくし自身がッ、捨て子として苦しんでいたのに……!」と、嘆きながら。
「そんな女です。重病を患った時も、これも罰かと受け入れてしました。――ですが! 社長様はっ、アズ・ラエル様はッ、わたくしに手を差し伸べてくれた! 見ず知らずのわたくしを癒し、あまつさえ貧していたシスターたちを養うと言ってくれた!」
うん――うんッ! それ全部ッ、偶然だけどねッッッ!
「そして――わたくしの家族になると、言ってくれたのです……!」
って、そんなこと言ったっけぇ!?
……いや言ったかもしれないな。俺無能でキャパないから、忙しい時や思考中は、周囲への対応がおざなりになるんだよな。メイヴさん優しいから『わたくしのことママと思っていいですよ?』と言ってきたのに対し、『アッハイッオナシャース』と適当に答えちゃったかも……!
あわわ。メイヴさんのことママにしちゃった。
「だからわたくしは、社長様を信じます。病める時も、健やかなる時も、家族として信じ続けると誓ったのです! だから……だから……ぐすっ……!」
「メイヴさん……(俺のことを息子だと思って)」
そうかぁ。子供が不出来でも、母の愛は無限大って言うしなぁ。フーリンさんもアレだし。
俺は前世で父子家庭だったから母を知らんが、もしもいたら、失敗するたびに庇ってくれていたのかもしれないな。
「メイヴさん、お気持ちは嬉しいのですが」
どうか諦めてくれ。失望してくれ。今回の件は、明らかに俺の大失敗だよ。
会社やみんなの未来のためにも、無能な俺を没落させてくれと――そう声をかけようとした、そのとき。
「あ――なにか、光が」
「え」
メイヴさんの流した涙。それが古ぼけた壺に当たった瞬間、まばゆい光が、ガラクタの表面に輝いた――!
ファッ!?
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